【連載】経理のための実践的勉強法~⑤固定資産の実務における基本的な理解(後編)


葛西一成@元上場企業経理部長(経理部IS)

【編集部より】
経理部に配属され、会計のことを勉強しないといけなくなったけど、仕事に直結する勉強法ってどうすればよいの? 担当することになった業務について知りたいとき、どのようにアプローチして、どんな本を読めばいい? そんな悩みを抱えている人もいるのではないでしょうか。
そこで、複数の上場企業で経理の実務経験のある、経理部ISこと葛西一成氏に、経理のための実践的な勉強法についてアドバイスをいただきます。ぜひ、スキルアップにお役立てください!(月1回掲載予定)

本連載第5回前編では、「固定資産の取得処理」について説明しました。後編では、「固定資産の除却・売却の処理」、「減価償却費の計算」、「取得、除却・売却、減価償却の経理処理」について、実践的に説明します。

固定資産の除却・売却の処理

固定資産の除却とは、固定資産の使用を停止し帳簿から除くことです。実務では固定資産を廃棄したときや、滅失が認められた時、さらにモノは残っているが使用を停止しただけの場合(有姿除却)を合わせて除却と呼ぶ場合があります。

また固定資産の売却とは、固定資産を他の企業や個人に売ることを指します。

固定資産の除却・売却の傾向把握

固定資産の除却・売却の実務処理を学ぶ際の最初のステップは、自社の処理の傾向を把握することです。具体的には、どの程度の頻度で、どのような資産が除却や売却されているかを把握します。これにより、自社における固定資産の除却・売却の実務処理の重要性や作業負荷を確認できます。

この傾向を把握するためには、自社の損益計算書から固定資産売却損益や除却損等の発生状況を確認し、各科目の総勘定元帳で売却や除却の取引内容を検証します。上場企業の場合は、有価証券報告書の注記情報から連結グループにおける固定資産の売却・除却の詳細を確認することも可能です。

これらの情報を元に、固定資産の除却・売却の傾向を掴むことができます。例えば、自社が製造業であれば、工場内の建物や機械装置が毎期一定の金額で除却・売却されている可能性があります。一方、保有する固定資産が少ないIT企業であれば、除却・売却の発生頻度は少ないかもしれません。

傾向を理解した上で、自社で毎期一定の金額の除却損や売却損益が計上されている場合、次のステップとしてその処理方法や手続きを学ぶ必要があります。一方、除却・売却がほとんど発生しない、または発生しても金額が少ない場合、勉強の優先度を下げることも考慮に入れます。

このような傾向の把握によって、自社の固定資産の除却・売却の重要度を評価し、実務理解の優先度を決定していきます。

除却・売却の発生時期の確認

自社において固定資産の除却・売却が行われている場合、それがいつの時期に集中しているかを把握することが重要です。これは、月次損益推移表などを参照して確認します。

例えば、12月に除却・売却が集中していることが確認できた場合、その理由を探ると、償却資産税の申告前に資産を整理したいという意図から、全社的に固定資産の実地棚卸を行い、不要な資産を除却・売却していることが明らかになります。そして、この時期には、実地棚卸の準備、手続きや作業による業務が増加することが想定されます。

このように、除却・売却の発生時期の確認から、その処理のスケジュール感や業務負荷を把握していきます。

除却・売却の運用確認

固定資産の除却・売却は、一般的に企業が設定したルールや運用マニュアルに基づいて行われます。

<固定資産の除却・売却に関係するルールや運用マニュアル例
・固定資産実地棚卸マニュアル
・除却・売却処理フロー
・有姿除却ルール など

固定資産の除却・売却を行う際、まずはこれらのルールや運用マニュアルの有無とその内容を確認します。そして、そのルール等に基づいて固定資産の除却・売却がどのように行われ、経理処理されているかを、会計システムの仕訳データや関連する書類から確認します。

これにより、自社における固定資産の除却・売却時に何をすべきか、具体的な作業内容を理解することができます。

以下に、確認方法の例を挙げます。

確認方法例

・固定資産の実地棚卸による除却の場合

各部門が実施した実地棚卸結果報告書、除却資産一覧表、除却申請書、承認稟議書、廃棄証明書や廃棄資産の写真といった書類と除却時の仕訳データを照合し、これらの書類に基づいて経理処理が行われていることを確認します。

・売却の場合

各部門における固定資産の売却申請書、売却資産一覧表、売却時の請求書、稟議書や取締役会議事録といった書類と売却時の仕訳データを照合し、これらの書類に基づいて経理処理が行われていることを確認します。

・有姿除却が行われる場合

今後事業の用に供する可能性がないことを検討、または確認したことを証明する資料、除却資産一覧表、除却申請書、承認稟議書といった書類と除却時の仕訳データを照合し、これらの書類に基づいて経理処理が行われていることを確認します。

有姿除却=固定資産を実際に廃棄していなくても、現状の姿のまま(有姿で)除却処理を行う方法

これらの確認を通じて、除却・売却における処理の流れを理解することができます。

使用する勘定科目の確認

固定資産の除却に伴う損失は、企業によって処理する勘定科目が異なることがあります。そのため、自社ではどの科目を使用しているのか、過去の取引から確認することが重要となります。

さらに、除却時に廃棄業者へ支払う処分費用の処理方法も確認しておく必要があります。これは、処分費用を除却損に含める場合や、廃棄損という別の科目で処理する場合があるからです。

<除却時の損失 使用科目例
・固定資産除却損
・固定資産除売却損(除却損と売却損を含めて計上する場合)
・固定資産廃棄損
・固定資産処分損

自社ではどの勘定科目を使用して除却の経理処理を行っているかを事前に確認し、処理の継続性を担保します。

減価償却費の計算

減価償却費とは、時間の経過によって減少する資産の価値を費用として計上するものです。

この費用を正確に計算するには、各固定資産の耐用年数と複数の計算方法を理解する必要があります。

耐用年数の判断のしかた

減価償却費を計算する際の最初のステップは、資産の耐用年数を特定することです。耐用年数は、固定資産の使用可能な期間を示し、この期間にわたって減価償却費が計上されます。

実務では、固定資産を取得した際に、「この資産の耐用年数は何年か?」という判断が求められます。この判断に使用されるのが税法上の耐用年数表です。

耐用年数表:「減価償却資産の耐用年数等に関する省令(e-GOV法令検索)

この表では、固定資産の種類、用途、細目ごとに耐用年数が詳細に規定されています。初めて見ると、種類や用途の数の多さに圧倒されるかもしれませんが、すべてを覚える必要はありません。固定資産の取得の都度、該当する耐用年数をこの表から検索します(辞書のように使います)。

耐用年数の判断は、基本的にこの耐用年数表を使用しますが、実務では取得した資産が耐用年数表に掲載されていない、またはどれに該当するか判断に迷うことがしばしば起こります。このような場合は、耐用年数についてより詳細に解説した書籍を参照します。

参考書籍
『令和5年改正版 減価償却資産の耐用年数表とその使い方』(日本法令編、日本法令)

また、耐用年数表に記載されている複数の資産の中から、どちらを選択すればよいか判断が難しい場合もあります。このような場合、自社の方針を確認しておくことが重要です。

なお、この方針は企業によって異なり、また上司の考え方も影響します。

例えば、税務上保守的に耐用年数が長い方を選択するという考え方もあれば、金額的に重要性が高いものについては、監査人と協議して決定するということもあります。この方針については、事前に上司と認識を合わせておくことで、その後の実務処理をスムーズに進めることができます。

減価償却費の計算方法の理解

減価償却費の計算方法を理解するためには、自社で採用している償却方法を特定し、その方法を用いて実際に計算をしてみることが必要です。

 自社で採用している償却方法の特定

まずは、固定資産台帳から登録されている固定資産の償却方法を調査します。そして自社でどのような償却方法が採用されているかを確認します。

一般的には、定額法、定率法といった償却方法が用いられます。また特定の業種では、級数法、生産高比例法や取替法といった償却方法が採用されることもあります。

償却方法には複数の種類が存在しますが、実際には、自社で採用していない償却方法は実務で使う機会は少なく、覚える優先度は低いと言えます。

したがって、自社でどの償却方法を使用しているかを特定し、学ぶべき償却方法を絞り込むことが重要となります。

 計算シミュレーションにより理解度を深める

自社で使われている償却方法を把握することができたら、次に各償却方法における減価償却費の計算方法を確認します。

現在の固定資産システムでは、耐用年数や償却方法を入力すれば、自動的に減価償却費が計算されます。そのため計算方法を覚える必要があるのか疑問に思うかもしれません。

しかし、設備投資の採算性を計算する場合や固定資産の減損対応のために、対象となる固定資産の減価償却費の概算値をExcelで計算するといった機会も多くあります。そのため、計算方法をしっかり覚えておくことが後の固定資産の実務で役に立ちます。

そして、減価償却費の計算を覚えるためには、以下のような計算シミュレーションを試してみることをおすすめします。

<計算シミュレーションの手順
手順1
固定資産システムに新しく登録した固定資産から、償却方法が異なるものを2、3つ選びます。(定額法、定率法それぞれ償却方法が異なる資産を選択します)。

・手順2
減価償却費の計算に必要なデータ(取得価額、償却方法、償却率、耐用年数など)を固定資産システムから出力し、Excelに入力します。

手順3
Excelに減価償却費の計算式を入力し、償却が完了するまでの毎年の償却費を計算します(償却スケジュール表を作成してみる)。

手順4
固定資産システムで計算された毎年の償却費と、Excelで計算した償却費が一致しているかを確認します。

このように、実際に手を動かして計算をシミュレーションしてみることで、どのように減価償却費が計算されるのか、その根拠が理解できるようになります。

取得、除却・売却、減価償却の経理処理の理解

実務では、固定資産の取得や除却・売却、減価償却の経理処理を適切に行うために、仕訳の起票方法と、その処理のチェックや承認方法を理解することが必要です。

仕訳の起票方法の確認

企業ごとに固定資産に関する仕訳の起票方法は異なります。例えば、固定資産の取得や除却・売却データを固定資産システムに登録をすると、会計システムへ仕訳が自動連携される場合や、固定資産管理はExcelで行い、仕訳を直接会計システムへ入力する場合もあります。

固定資産管理システムを使用している場合、登録データがどのように会計システムに仕訳として入力されているかを、システムの操作マニュアルなどから確認します。Excelなどで固定資産管理を行っている場合は、実際に起票された仕訳とExcelファイルの各データを照合し、どのデータが仕訳の起票に必要なのかを確認する必要があります。

処理のチェックや承認方法の確認

固定資産の処理を行った後のチェックや承認方法は、企業ごとに異なります。

固定資産システム内で処理のチェックから承認まで行われる場合もあれば、Excelで管理している固定資産データを印刷し、紙ベースでチェックと承認を行う場合もあります。

この処理のチェックや承認方法については、固定資産の業務マニュアルと前月以前に処理した帳票類を参考に、チェックや承認がどのタイミングで行われ、何をチェックすべきかを一つずつ確認します。

固定資産の業務マニュアルが用意されていない場合でも、自分用に簡易的な作業手順メモを作成することをおすすめします。固定資産の処理は複雑で、一度の確認では覚えることが難しいため、後から振り返るためのメモを残しておくと便利です。そして、このメモを整理して業務マニュアルや引継ぎ時の資料とすることも可能です。

このように、経理処理の実際の流れを追っていき、仕訳の起票方法と処理のチェックや承認方法を確認することで、固定資産の実務における基本処理の全体像が把握できます。

まとめ

今回の連載では、「固定資産の実務における基本的な理解」というテーマで、経理のための実践的な勉強法を解説しました。

固定資産の実務では、固定資産の計上基準、取得や除却・売却の処理、そして減価償却費の計算など、基本的な経理処理の理解が必要となります。これらは固定資産の実務の基本でありながら、作業範囲が広く、処理の判断が難しい場合もあるため、実務の難易度は高いと言えます。

この記事では、固定資産の実務における基本的な理解を深めるためのポイントを厳選して解説しました。これから実務を担当する方、または既に実務に携わっている方にも参考にしていただけたら幸いです。

次回のテーマは「税金計算の実務」です。事業会社で税金を考えるとき、まず思い浮かぶのが法人税の計算です。この法人税の計算は、多くの場合、社外に委託されていますが、専門性の高い経理パーソンを目指すためには、その計算方法を理解しておくことが重要です。

税金計算が難しそうだと感じている方でも、実践的な勉強法を通じて理解を深められるよう、具体的な解説を行っていきます。

(第5回おわり)

<執筆者紹介>

葛西一成@元上場企業経理部長

東証プライム・グロース上場2社で経理部長を経験後、独立開業。独立後は経理パーソン向けキャリアサポート・会計関連システム開発導入サポート・決算業務フォローや執筆活動に注力。X(旧Twitter)では、フォロワー1.5万人超の「経理部IS」アカウントにて、経理の仕事に関する情報を発信中。
著書に『経理のExcelベーシックスキル』(中央経済社)がある。
経理部IS(@keiri_IS

<著書紹介>

経理のExcelベーシックスキル(葛西 一成 著、中央経済社)
▶︎業務効率がアップするノウハウを現場経験豊富な著者が伝授します! Excelの難しい機能を極める前に知っておきたい使い方から管理方法まで。チーム全員に必須の1冊です。

【「経理のための実践的勉強法」バックナンバー】
第1回:スキルアップを目指そう!
第2回:前払費用の実務
第3回:賞与引当金の実務(前編)(中編)(後編
第4回:固定資産実務をマスターするまでの道のり
第5回:固定資産の実務における基本的な理解(前編)(後編

経理部ISこと、葛西一成@元上場企業経理部長さん執筆のバックナンバー記事もぜひご覧ください!

【連載バックナンバー(全10回)】
第1回:現役経理部長が教える! 経理の仕事でExcelがマストな3つの理由
第2回:現役経理部長が教える! 経理に必要な4つのExcelスキル~ミス削減&作業効率化にマスト!
第3回:現役経理部長が教える! 仕事が効率化するExcelを‟見やすくする”スキル
第4回:現役経理部長が教える! 今すぐやるべき‟Excelでミスを防ぐ”方法
第5回:現役経理部長が教える! 仕事で評価される‟わかりやすいExcelの表”を作成する方法
第6回:現役経理部長が教える! Excelを使いやすくする5つの方法(前編)(後編)
第7回:現役経理部長が教える! 経理業務の効率化に役立つ! 使いやすいExcelファイルの管理方法(前編)(後編)
第8回:現役経理部長が教える! 仕事スピードを速くするExcel関数とショートカットキー
第9回:現役経理部長が教える! Excelピボットテーブル活用術
第10回:現役経理部長が教える!  作業効率化に役立つExcel機能3選

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