【連載】経理のための実践的勉強法~③賞与引当金の実務(後編)


葛西一成@元上場企業経理部長(経理部IS)

【編集部より】
経理部に配属され、会計のことを勉強しないといけなくなったけど、仕事に直結する勉強法ってどうすればよいの? 担当することになった業務について知りたいとき、どのようにアプローチして、どんな本を読めばいい? そんな悩みを抱えている人もいるのではないでしょうか。
そこで、複数の上場企業で経理の実務経験のある、経理部ISこと葛西一成氏に、経理のための実践的な勉強法についてアドバイスをいただきます。ぜひ、スキルアップにお役立てください!(月1回掲載予定)

前編では、「賞与引当金の実務」を勉強する流れとして、以下の5つのステップを紹介しました。

✔ Step1 賞与引当金の基本を学ぶ前編

✔ Step2 自社の賞与制度を理解する前編

✔ Step3 月次・決算・賞与支給時の経理処理を確認する中編

✔ Step4 賞与引当金に関連する経理処理を確認する(後編)

✔ Step5 賞与引当金の作業スケジュールをまとめる(後編)

後編の今回は、Step4・5について解説します。

Step4 賞与引当金に関連する経理処理を確認する

賞与引当金には関連する経理処理が3つあります。

・賞与に係る社会保険算定

・賞与引当金の税務調整

・賞与引当金に係る予算策定

賞与引当金の担当者は、これらの処理も理解しておく必要があります。

賞与に係る社会保険算定

賞与の支給においては、給与と同様に社会保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料及び雇用保険料)がかかります。

そのため、賞与引当金の計上と合わせて、会社が負担する社会保険料も未払として計上する必要があります。

この社会保険料の処理を理解するには、次の3つの内容を確認する必要があります。

・計算方法を知る

・計算資料の内容を確認する

・仕訳を確認する

これらの確認方法について、以下で詳しく解説します。

計算方法を知る

まずは、賞与に係る社会保険料の計算方法を知ることから始めます。

・計算方法

標準賞与額(賞与支給額から1,000円未満切り捨てた額)×各保険料率※(会社負担分)

社会保険料率は年度によって改定される場合があるため、賞与引当金の処理を行う前に最新の社会保険料率であるかチェックします。

計算資料の内容を確認する

次に、計算資料の内容を確認していきます。まずは、賞与に係る社会保険料の計算資料の有無を確認します。

一般的な例として、賞与に係る社会保険料は、Excelなどで作成された賞与引当金算定資料や賞与支給一覧表などと連動して計算されることがあります。この資料から具体的な社会保険料の計算状況が把握できます。

ここでは、Excel等で自分なりに社会保険料の計算をシミュレーションしてみてください。そのシミュレーション結果と計算資料が一致するかを確認することで、計算方法の理解を深めることができます。

仕訳を確認する

賞与に関連する社会保険料は、月次決算、四半期・年次決算、賞与支給後それぞれの時点において処理が行われます。まず、これらの時点ごとに発生する仕訳を抽出し、自社で実際に起票されている仕訳パターンを確認していきます。

【事例】賞与に係る社会保険料の仕訳

・月次決算(賞与引当金と合わせて計上)

(借)法定福利費(貸)未払費用

・四半期、年次決算(賞与引当金確定額に係る社会保険料を計上)

(借)未払費用(貸)法定福利費 
(月次計上分を戻す)
(借)法定福利費(貸)未払費用   
(賞与引当金見積り額に係る社会保険料を計上)

・賞与支給後の社会保険料納付

(借)未払費用(会社負担)
   預り金(従業員負担)
   法定福利費 
(貸)現金および預金
未払費用と実際納付額の差額は法定福利費で処理する場合あり。

賞与引当金の税務調整

賞与引当金の実務は、できれば賞与引当金の税務処理も理解しておきたいところです。

税務上、対象となる事業年度終了の日までに債務が確定しない場合には、損金算入が認められないため、賞与引当金は税務上否認されます。

この税務処理を理解するためには、前期の貸借対照表と法人税申告書を手元に用意して以下の内容を確認します。

前期貸借対照表の賞与引当金残高が、

・法人税申告書の別表4にて加算されている

・別表5-1差引翌期首現在利益積立金に計上されている

これで、賞与引当金が税務上否認処理されていることが確認できます。

なお、税務処理は通常、外部に委託されたり他の税務担当者が行ったりすることが一般的です。しかし、賞与引当金の業務全体を理解するためにも、法人税申告書を確認し、税務処理の状況を把握することが重要です。

さらに余裕があれば、賞与引当金は税効果会計にも関係することに注意を払ってみてください。

賞与引当金に係る予算策定

企業では、来期の業績目標を立てるために予算を策定します。この予算策定では、将来の目標利益(営業利益や経常利益など)に基づいて賞与原資の概算値を計算し、毎月の賞与引当金の見積りが行われます。

賞与引当金の担当者は、この予算策定に関与することもあります。したがって、自社がどのようなルールで賞与引当金の予算を策定しているかを確認する必要があります。

また、予算で計算された賞与引当金の見積り額は、そのまま月次決算の月割り計上額として使用されることがあります。そのため、月次決算処理と予算の関係性も確認しておくことが重要です。

Step5 賞与引当金の作業スケジュールをまとめる

これまで説明してきた内容を全て確認したら、最後に賞与引当金の経理処理スケジュールを簡潔にまとめてみることをおすすめします。

年間スケジュールとして、どの時期にどのような賞与引当金に関する処理を行うべきかをまとめることで、作業全体の流れがわかりやすくなります。また、これにより今後の作業漏れを防ぐ助けにもなります。

【事例】賞与引当金年間スケジュール

まとめ

今回は、経理のための実践的勉強法「賞与引当金の実務」について解説しました。

賞与引当金の実務は企業によって処理方法が異なり、また税務や予算管理業務も関連するため覚えるべきポイントが多い実務です。

賞与引当金の実務に取り組む際には、まず基本的な作業から学び、実務上の注意点を把握しながら作業年間スケジュールを作成し、実務全体の流れを理解することが必要です。

これから賞与引当金の実務を担当する方や既に実務に関わっている方は、今回の記事を参考にしていただけたら幸いです。

次回は「固定資産の実務」を取り上げます。経理実務の中でもメジャーな固定資産ですが、多くの論点があります。実務者が理解すべき固定資産の作業項目を洗い出し、解説していきます。

(連載第3回おわり)

<執筆者紹介>

葛西一成@元上場企業経理部長

東証プライム・グロース上場2社で経理部長を経験後、独立開業。独立後は経理パーソン向けキャリアサポート・会計関連システム開発導入サポート・決算業務フォローや執筆活動に注力。X(旧Twitter)では、フォロワー1.6万人超の「経理部IS」アカウントにて、経理の仕事に関する情報を発信中。
著書に『経理のExcelベーシックスキル』(中央経済社)がある。
経理部IS(@keiri_IS

【「経理のための実践的勉強法」バックナンバー】
第1回:スキルアップを目指そう!
第2回:前払費用の実務
第3回:賞与引当金の実務(前編)(中編)(後編
第4回:固定資産実務をマスターするまでの道のり
第5回:固定資産の実務における基本的な理解(前編)(後編
第6回:法人税等の計算スキルを身につける(前編)(後編

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第1回:現役経理部長が教える! 経理の仕事でExcelがマストな3つの理由
第2回:現役経理部長が教える! 経理に必要な4つのExcelスキル~ミス削減&作業効率化にマスト!
第3回:現役経理部長が教える! 仕事が効率化するExcelを‟見やすくする”スキル
第4回:現役経理部長が教える! 今すぐやるべき‟Excelでミスを防ぐ”方法
第5回:現役経理部長が教える! 仕事で評価される‟わかりやすいExcelの表”を作成する方法
第6回:現役経理部長が教える! Excelを使いやすくする5つの方法(前編)(後編)
第7回:現役経理部長が教える! 経理業務の効率化に役立つ! 使いやすいExcelファイルの管理方法(前編)(後編)
第8回:現役経理部長が教える! 仕事スピードを速くするExcel関数とショートカットキー
第9回:現役経理部長が教える! Excelピボットテーブル活用術
第10回:現役経理部長が教える!  作業効率化に役立つExcel機能3選

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