連載 『会計士・税理士・簿記検定 財務会計のセンスが身につくプチドリル』(第143回)ー 自己株式①‐⑦の復習


長島 正浩(茨城キリスト教大学教授)

*連載のねらいはこちら!

Q1(空欄補充)
取得した自己株式は,(  ①  )をもって純資産の部の(  ②  )から控除する。
期末に保有する自己株式は,純資産の部の(  ②  )の末尾に(  ③  )として一括して控除する形式で表示する。

A
① 取得原価
② 株主資本
③ 自己株式
※「自己株式の取得,処分及び消却に関する付随費用は,損益計算書の営業外費用に計上する」
*自己株式会計基準7項,8項
『会計では“自己株式” 投資家は“自社株” 米国では“treasury stock(金庫株)”と呼んでいるらしい…』

Q2(空欄補充)
自己株式の処分又は消却をした結果,その他資本剰余金の残高が(  ①  )となった場合には,会計期間末において,その他資本剰余金を(  ②  )とし,当該(  ①  )をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から( ③  )する。

A
① 負の値
② 零
③ 減額
*自己株式会計基準12項
『大切に金庫に保管した自己株式もいずれは“処分”か“消却”がなされる』(桜井23版,263頁「設例6」)

Q3 自己株式について,純資産の部で「一括して控除する形式」にて表示しなさい。

A 

*自己株式会計基準8項(参考:財務諸表等規則 様式第五号)
『金庫(株主資本)に保管しているにもかかわらず控除するとは・・・』(桜井23版,287頁「図表11-13」)

Q4 自己株式の扱いについての論拠は?

A
資産説:自己株式を取得したのみでは株式は失効しておらず,他の有価証券と同様に換金性のある会社財産とみられるという考え。
資本控除説:自己株式の取得は株主との間の資本取引であり,会社所有者に対する会社財産の払戻しの性格を有するという考え。
*自己株式会計基準30項
『自己株式の“処分”は,資産説によると“売却”で,資本控除説によると“発行”なのだ!』(桜井23版,263頁)

Q5 自己株式の取得に関する付随費用はなぜ財務費用なのか?

A
自己株式の取得の付随費用は,株主との間の資本取引でない点に着目し,会社の業績に関係する項目であるとの見方に基づく。また,新株発行費用を株主資本から減額していない処理との整合性からも損益計算書の営業外費用に計上する。
*自己株式会計基準51項,53項
『付随費用の相手は金融機関等であるから資本取引にならない。これも“資本控除説”によっている!』

Q6 自己株式処分差益はなぜ資本剰余金として処理されるか?

A
自己株式処分差益は,自己株式の処分が新株の発行と同様の経済的実態を有する点を考慮すると,その処分差額も株主からの払込資本と同様の経済的実態を有すると考えられるため。ただし,資本剰余金のうち,資本準備金は会社法において分配可能額からの控除項目とされ,その他資本剰余金は控除項目とされていないため,自己株式処分差益はその他資本剰余金に計上する。
*自己株式会計基準37項,38項
『自己株式の処分を“新株の発行”としてとらえ,株主からの払込金のうち資本金・資本準備金となっていない部分のこと』(桜井23版,263頁)

Q7 その他資本剰余金の残高を超える自己株式処分差損をその他利益剰余金から減額することは,資本剰余金と利益剰余金の混同にあたらないか?

A
その他資本剰余金は,払込資本から配当規制の対象となる資本金及び資本準備金を控除した残額であり,払込資本の残高が負の値となることはあり得ない以上,払込資本の一項目として表示するその他資本剰余金について,負の残高を認めることは適当ではない。よって,負の残高を利益剰余金で補填するほかないと考えられる。
*自己株式会計基準41項
『要するに(会社法的には)資本剰余金も利益剰余金も株主資本なので問題ないのである』

◎復習しましょう!
1.CF計算書
2.一株当たり当期純利益
3₋1.金融商品会計①‐⑦
3₋2.金融商品会計⑧‐⑭
3‐3.金融商品会計⑮‐⑳
4-1.棚卸資産会計①‐⑥
4-2. 棚卸資産会計⑦‐⑫
5‐1.収益認識会計①‐⑦
5₋2.収益認識会計⑧-⑫
6.リース会計①‐⑥
7.固定資産の減損①‐⑩
8.ソフトウェア会計①‐⑥
9.研究開発費会計①‐⑦
10.繰延資産①‐⑦
11.退職給付会計①‐⑥
12.資産除去債務①‐⑥
13.税効果会計①‐⑥
14.ストック・オプション会計と役員賞与(報酬)会計①‐⑧

〈執筆者紹介〉
長島 正浩
(ながしま・まさひろ)
茨城キリスト教大学経営学部教授
東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。簿記学校講師,会計事務所(監査法人),証券会社勤務を経て,専門学校,短大,大学,大学院において非常勤講師として簿記会計や企業法を担当。その後,松本大学松商短期大学部准教授を経て,現在に至る。この間35年以上にわたり,簿記検定・税理士試験・公認会計士試験の受験指導に関わっている。

*本連載は,『会計人コース』2020年1月号付録『まいにち1問ポケット財表理論』に加筆修正したものです。


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