和歌山大学経済学部准教授
藤原 靖也
【編集部から】
公認会計士試験科目のなかでも苦手な方が多い「管理会計論」。
今回、「管理会計」を専門に研究され、公認会計士試験の指導にも力を入れられている藤原靖也先生(和歌山大学経済学部准教授)に、管理会計論を克服するためのヒントを教えていただきました。
特に短答式試験を受験する方は必読! 論文式試験にまで活きるヒントが詰まっているので、ぜひ本記事を参考にご自身の学習を振り返ってみてください。
管理会計論に必要なのは「国語力」
以前、「なぜ『管理会計論』が足を引っ張るのか?」という記事のなかで、管理会計論を克服するヒントは他の科目以上に「問題と対話」することである、と書きました。
その際に重要なのは、パターン学習に終始するのではなく、一定の基礎が身についたのちに「国語力」を会得することです。
このたび、管理会計論の近年の出題傾向を説明したのち、2回にわたって、「国語力」の必要性とその身につけ方の一端をご説明します。
苦手とする方が多い管理会計論の学習に関し、皆さまのヒントになれば幸いです。
公認会計士試験において試される「知識」とは思考の枠組みのことである
前提として、多くの方が持つ誤解を解いておかなければなりません。
それは、公認会計士試験の管理会計論で問うとされている「知識」とは何か、その言葉が何を意味しているのか、です。
管理会計論の出題者が想定している「知識」とは、パターンをいくつ知っているか、などではありません。
「ある問題につき、管理会計論ではどのように考えるのか?」という思考の枠組みのことを、「知識」という言葉で表しているのです。
たしかに管理会計論の問題では専門用語の暗記だけで正答できる問題も何問かあります。しかし、暗記一辺倒で解ける問題は数が知れています。特に近年の問題を見ると著しく減っています。
そうではなく、「管理会計論ではどのように考えるのか」という思考の枠組みに沿って答えられるか? が問われるのです。得点の比重もこのタイプの問題のほうがはるかに大きく、論文式試験ではその枠組みを駆使・応用できるかが問われるのです。
管理会計論の出題傾向にみる「パターン学習」の怖さ
このことを象徴する文章の1つをご紹介します。平成23年の試験委員が作成した、論文式試験「出題の趣旨」の一部です。
論文式試験の出題傾向は、下記の通り、あるいはそれ以上に、“応用的に”なっているように思います。
一般的なテキストで解説されている例題は、単一の問題だけを切り取っているだけのものがほとんどである。しかし、現実には複合的な意思決定を要求される場面が多々あり、また・・・管理会計の他の主要な問題領域とも相互に関連を有する。そうしたケースにどのように対応していくか、応用力とさらには管理会計的な分析の限界と課題に関する知識の有無を問う問題となっている。 |
このなかにある「知識の有無」は、明らかに暗記しているか否かを意味していません。「管理会計の思考の枠組みに沿って検討できるか否か」を意味しているのです。
そして、このような問題への対応力は、決して「パターン学習」のみで身につくことはありません。
ですから管理会計論において「パターン学習」に終始することは本当に怖いのです。「国語力」を養うための学習とは逆方向の学習方針だからです。
令和4年論文式試験でも「国語力」が試された!
上記のことを試す傾向は、令和4年論文式試験の問題でも色濃く反映されていました。
それぞれの問題で想定されている会社像が違い、検討課題も違います。何より、すべてが架空のケースを題材にしており、文章をしっかりと読み込まなければケースの全容や問題の流れがわからなくなっていました。
これは解説するより「百聞は一見に如かず」だと思います。一度、問題を入手し、ご覧になってください。公認会計士・監査審査会のホームページより入手可能です。
実際、受験生のなかには、面食らった方や「手も足も出ない」と感じられた方も多いでしょう。分量の多さに圧倒された方も多いと思います。
何より、解答された方は「何かが違う」と感じたはずです。計算問題も理論問題もパターン学習だけでは解けないようになっていたからです。
「国語力」があるかどうかが、短答式試験に合格した後に待ち構える論文式試験の出来栄えにも響いてきます。特に、問いに答えるための情報を的確に読み取り、分析できるかどうかが出来栄えに反映されるのです。
短答式試験の問題の傾向
近年の短答式試験でも、管理会計論の思考の枠組みに基づき、問題の全容を把握するとともに資料を整理しながら解いていく問題がほとんどです。与えられた資料や文章の内容を的確に読解・整理する力―「国語力」―も問われます。
短答式試験をなぜパターンの暗記のみで乗り越えることができないかは、もうおわかりでしょう。パターン学習にシフトすると、暗記しているものとまったく同じ問題でしか得点できなくなるためです。
パターン学習のみでは点数が一定水準で止まるのは、火を見るよりも明らかなのです。
実際に問題を見てみよう
では、どうすればよいのかと思われる方も多いと思います。そこで、実際の問題を用い、考えてみましょう。問題として取り上げるのは、令和4年第Ⅱ回短答式試験の問題10です。
さて、皆さんはこの問題を3~5分で解けるでしょうか?
実はこの問題は、1回解説を聞いてしまえばオーソドックスな最適プロダクト・ミックスの決定問題だと気づくはずです。しかし、初見では手が止まった方も多かったのではないでしょうか。
それは、出題形式が典型的なパターン問題とは少し異なるからです。解答の軸となる管理会計の思考の枠組みが欠如していると戸惑ってしまうと思います。
解答にあたっては、問題文から以下の情報を整理する必要はありますが、それさえできれば解答は容易です。
問題文を読んだとき、最適プロダクト・ミックスの決定に関する以下のような「思考の枠組み」が頭の中に浮かんだでしょうか。
・この工場はどんな能率を有する設備を有しているのか ・この工場は何円の貢献利益を生みだす製品を製造・販売しているのか ・優先的に製造・販売すべき製品はどれか ・月間の運転可能時間と需要上限の制約の関係で、各製品、最大で何個製造・販売できるのか |
この問題は、管理会計の思考の枠組みに沿って整理することができれば簡単に解けます。
しかし、その発想が普段の学習段階からないと、解答に苦しめられ時間も取られるようにできている問題なのです。
この問題で点が取れれば500点満点中の7点(1.4%)を獲得できます(300点満点中なら約2.33%)。やはり正答したい問題です。
次回に向けて:「国語力」をどのように身につけるか
管理会計論を味方につけるヒントは「国語力」にあります。そのためには、一定の枠組みを知識として身につけたのち、しっかりと問題とキャッチボールをしながら、必要な情報を収集・整理する力を磨く練習を重ねることが重要です。
そのうえで、次回(9月21日掲載)は短答式試験に絞りますが、管理会計論に必要な「国語力」の身につけ方を、具体的に問題を用いて紐解いてみたいと思います。
「管理会計の思考の枠組みを用いて的確に整理する」がキーです。
それがどれほど役に立つか、そして身についているかを確かめつつ、管理会計論の学習のヒントにしてみてください。
【執筆者紹介】
藤原 靖也(ふじわら・のぶや)
和歌山大学経済学部准教授、博士(経営学)。日商簿記検定試験1級、税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験論文式試験に合格。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了後、尾道市立大学経済情報学部講師を経て現職。教育・研究活動を行いつつ、受験経験を活かした資格取得に関する指導にも力を入れている。
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