向き不向きは? おすすめ教材は? 公認会計士試験「独学」Q&A


和歌山大学経済学部准教授 藤原 靖也

【編集部から】

公認会計士試験において、「独学」に対して興味関心のある受験生は少なくありません。

ただ、一般的に「独学で合格は難しい」というイメージが強く、また情報も少ないため、受験生のなかで「独学」に対する疑問や不安は多くあると思います。

そこで、公認会計士試験に独学で合格し、現在は大学で指導も行っている藤原靖也先生に、Q&A形式で「独学」にまつわる疑問に答えていただきました。

はじめに

私が公認会計士試験合格までに戦った日数は708日です。

大学3年生のときに日商簿記1級を、4年生のときに税理士試験の簿記論・財務諸表論を受験しました。そこで、「簿・財ともに合格できたかな」という手ごたえがあり、公認会計士試験に進みました。

ただ、当時は家庭の事情もあり、学費と生活費を支払うのに精いっぱい。また、どうしてもいったん就職して働かなければいけませんでした。

そのため、働きながら独学で公認会計士試験に挑戦しました。

この708日のなかで、試験の過酷さも、独学のしんどさも、合格して官報に氏名が載ったときの喜びも経験しました。

こう言っては何ですが、自分なりに一生懸命頑張りました。公認会計士試験がなければ、確実にいま大学で教鞭を執っていないです。

現在、公認会計士を目指す学生から「公認会計士試験は独学で合格できますか?」「体験談を聞かせてください」など、「独学」に関する相談を受けることが増えてきました。それは、あまり独学の実態をイメージできていないからかもしれません。

そこで今回は、学生から特に寄せられる4つの質問を例に、「公認会計士試験の独学」にまつわるギモンに答えていきます。

Q1 自分は独学に向いている?

私は独学に向いているでしょうか? また、独学で大切なことは何ですか?

独学で合格できるかは、計画を戦略的に策定できるか、にかかっています。

勉強のペースを自分で決められることが独学の強みです。とはいえ、自分とじっくり向き合ったうえで実現可能なレールを敷くこと自体がつらく、難しいんですよね。

しかし、これができる方は、独学に向いていると思います。

そして、独学で特に大切なことは、次の2つの期間を長い受験期間のどこかに置くことです。

「なんとしても頑張る時期」「あえて緩める時期」

精神論ということではなく、戦略的に設定します。

私は、税理士試験の簿記論・財務諸表論に合格して財務会計論の免除資格を得た(ことにした)うえで、「2年弱計画」を立てて公認会計士試験の学習をスタートさせました。

ざっくり言うと、税理士試験を受けた翌年5月に短答式試験合格、さらにその翌年8月に論文式試験合格を目指しました。

そのうえで、受験期間を大きく6つに分け、以下のように、各期間に緩急をつけて学習していました。

① 短答式試験に向けた学習期:大学4年の9月~翌年(卒業後)の5月

短答式試験では何が出題されるのかを分析し、教材を揃えたうえで、5月の短答式試験に向けて管理会計論・監査論・企業法の学習を行いました(税理士試験の簿記論・財務諸表論に合格できたため財務会計論は免除)。学習時間を十分に取り、なんとしても頑張る時期でした。

② 分析期:6~8月

短答式試験合格後は、ほとんど論文式試験の学習をせず、どのような対策が有益か、どう計画を立てればよいかを検討しました。実際に8月の論文式試験は受験しましたが、「こうすれば合格できそうだ」という手がかりをつかむことが目的でした。

③ 基礎のインプット期:9月~12月

全科目の学習を本格化させました。ただ、いきなりギアを上げるようなことはせず、根本的・基本的な考え方を網羅的に理解することを目的に学習を進めました。これは、試験傾向に合わせて学習スタイルを確立するためです。勉強のペースをあえて緩めていた時期でした。

④ インプットの完了期:1月~3月

4月に公開模試を受けることを決め、それまでに応用的な論点を含めて全科目のインプットを終わらせることを目的としていました。同時にアウトプットの比重も高め、理解が不十分なところはリストアップしていきました。12月までに確立させた学習スタイルを活かし、なんとしても頑張る時期です。

⑤ アウトプット期:4~6月

公開模試や問題集などを用いて基礎から応用までアウトプットを徹底的に行いました。本試験に立ち向かえるだけの実力を養うことが目的です。とてもつらい時期でしたが、歯を食いしばりました。公開模試の結果も見ながら、アウトプットを繰り返し、わかっていない論点はインプットしなおしました。

⑥ 直前期:7~8月

基礎を確認するとともに最後まで残った弱点をつぶす時期です。ただ、弱点にばかり目を向けると不安になるため、どちらかといえば基礎の再確認に時間を割きました。なによりも直前期は、「これもわかる、これもわかる。だから、大丈夫。」と自信を高め、覚悟を決める時期。新しい論点に踏み込むのは極力避け、心の平穏を保つために、あえて学習時間も抑えていました。

たとえば、短答式試験から1回目の論文式試験まで(上記②の期間)は、“あえて”勉強のペースを緩めました。

「燃え尽き症候群」というわけではなく、書いたとおり、1回目の論文式試験は目的が「合格」ではなかったからです。

あとの質問にも出てきますが、独学の悩みの1つに「情報不足」があります。

私はどうしても「各科目の得点分布」と「科目間の点数のつき方の違い」を知りたく、それらの情報を1回目の論文式試験で得ることで、何に重点を置いて学習すればよいか、その後の方針を立てようと考えていました。

このように、「今の時期は何を目的に勉強しているのか」を明確にすることが大切です。

そして、達成できたら緩めましょう。そうしないと、学習しているうちに体力・気力が切れてしまう場合もあります。

Q2 他の受験生のレベルは知ったほうがよい?

他の受験生のレベルが気になります。公開模試などで知っておいたほうがよいですか?

他の受験生のレベルは基本的に知らなくてよいです。他人を気にしすぎると不安になります。

また、こう言ってしまえば当たり前ですが、他でもない自分が点数を取れれば合格です。どの資格試験もそうかもしれませんが、結局は自分との戦いになります。

さらに公認会計士試験の場合、短答式試験のボーダーラインは公開されているので、合格のレベル感はわかると思います。

ただ、論文式試験に限っては、1回だけでも公開模試を受けておいたほうがよいかもしれませんね。

それは、レベル感をつかむことも1つですが、12月に第Ⅰ回短答式試験を受けて合格した場合、8月の論文式試験まで空白期間ができてしまうからです。試験の雰囲気が抜けてしまうと、ダラダラと勉強することにもつながりかねません。

公開模試は、その空白期間のど真ん中(3月~5月)にあるはずですから、「公開模試までに○○をできるようにする」という目標を置くこともできます。

それに、公開模試で3日間の感覚をつかんできたうえで、わからなかった論点を持ち帰って復習することもできます。

Q3 情報はどう集める?

試験に関する情報はどう集めたのですか?

私の場合、大きく分けて情報源は3つありました。

1つは、公開されている「出題範囲の要旨」です。

それに載っている論点をどれくらい知っているか、論点を網羅している学術書を読んで内容がわかるかを、すべての科目でチェックしました。

その結果、「会計学」以外の科目は1から勉強しなければいけないとわかりました。

2つめは、「過去問」です。

一番重い「会計学」の過去問を5年分くらい見て、今の自分の実力でどこまで対応できるのか、対応できないところはどこなのかを分析しました。

自分の現在位置と敵を知り、それらをすり合わせて計画の大枠を作りました。

最後は、「1回目の論文式試験の結果」です。

これをじっくり分析し、その後の学習に活かせたことは大きかったです。

ここで「会計学」を制する者が公認会計士試験を制するのだと思い知りました。

また、この科目でこの出来ならば、これくらいの素点、これくらいの換算得点になる、といったことがわかり、それが学習計画を見直すきっかけになりました。

Q4 おすすめの教材は?

おすすめの教材はありますか?

適した教材は科目によって、人によって違うかもしれません。そのため、なるべく大きな書店に行き、実際に探すのが一番よいと思います。勉強に直結することなので、慎重に選ぶべきです。

ただ、私なりに「こんな教材がおすすめ」というのは、あることにはあります。

たとえば企業法なら、司法試験対策用に「会社法」のテキストが市販されています。そのうち、一番わかりやすいと思うテキストがおすすめです。あとは、短答式試験直前に商法・金融商品取引法に少し触れるくらいでよいでしょう。

どの教材がよいのかわからないときのヒントになるのは、おそらく大学や大学院のシラバスです。

特に論文式試験では、学問的な思考力・応用力が試されますが、大学・大学院ではそのような力を固める教科書や参考書を採用しています。

そういった意味では、予備校の教材をインターネットなどで揃えたとしても、1冊は学術書を読んでおいたほうが絶対によいです。

たとえば私は、管理会計論の「原価計算」分野に関しては、日商簿記1級のテキスト・問題集に加え、岡本清先生の『原価計算(六訂版)』(国元書房、2000年)を使って学習しました。

900ページを超える本ですが、おかげで「原価計算」を得点源にすることができ、学びも多かったので論文式試験まで対応することもできました。

ただし、受験ということだけを考えた場合、どうしても受験対策用のまとまった教材がないことも事実です。特に、公認会計士試験に対応できるだけのアウトプット教材は、ほぼ市販にはないといってよいと思います。財務会計論の計算分野や、租税法が端的な例ですね。

それに関しては、今はインターネットなどで予備校の教材を揃えることも可能です。ツールは何でも活用しながら、自分に適した教材を使っていきましょう。

最後に

独学でも予備校でも、学習が始まれば、自分や予備校が選んだテキストや問題集をもとに進んでいきます。そこは、独学でも変わりません。

ただし、すべてのもとになるのは「計画」です。これは予備校では用意されていますが、独学では自分で用意しなければなりません。これが大きな違いです。

もし自分で作った計画が間違った方向性ならばアウトですし、よい方向性ならば大丈夫です。むしろ“自分仕様”になっている点で、とてもよいと思います。

計画の策定に十分な時間を取り、練り直し、頑張れるかが独学合格できるかを左右します。

もう1つ、学習中にわからないことが出てくることもあるでしょう。そんな場合に備えて、解決するための方策を計画に盛り込んでおくことも大切です。今なら、いろんな情報源があると思います。解決策を決めておくことで、計画がより盤石なものになるはずです。

【執筆者紹介】
藤原 靖也(ふじわら・のぶや)
和歌山大学経済学部准教授、博士(経営学)。日商簿記検定試験1級、税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験論文式試験に合格。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了後、尾道市立大学経済情報学部講師を経て現職。教育・研究活動を行いつつ、受験経験を活かした資格取得に関する指導にも力を入れている。


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