公認会計士試験に独学で合格するには? ハードルを乗り越える「ロードマップ」のすすめ


和歌山大学経済学部准教授 藤原 靖也

【編集部から】

公認会計士試験に「独学」で挑戦しようと思っても、高いハードルを感じ、何から始めればよいのかわからず、足踏みしてしまう方も少なくありません。

そこで、公認会計士試験に独学で合格し、現在は大学で指導も行っている藤原靖也先生に、どのような「壁」が独学にあるのかを説明していただいたうえで、それを乗り越える策としての「ロードマップ」の作り方や例についてアドバイスをいただきました。

公認会計士試験の独学合格は「無謀」か?

いま、学生から公認会計士試験の「独学」についての質問が明らかに多くなっています。

よく寄せられる質問とその回答については、以下の記事でご紹介したとおりです。

ただ、こういった質問の底には、「独学では無理ではないか…」という大きな不安があるのだと思います。

皆さんは、公認会計士試験に独学で挑戦する、と聞いてどう考えますか?

「公認会計士試験をなめるな」と思う方も、「無謀だ」「不可能だ」と考える方もいるでしょう。

たしかに現状では人数も少なく、「一部の人を除いて無理だ」という認識が強いかもしれません。

しかし、背中を押す意味で私の結論を述べるなら、独学合格は道こそ険しいですが可能です。金銭的理由で独学を選ばざるを得ず、泣きながら学習し、合格した私もその1人です。

独学に付きまとう「壁」とは?

公認会計士試験に独学で挑む場合、なぜ道が険しくなるのでしょうか?

まず、独学に限った話ではありませんが、公認会計士試験の範囲の「広さ」と「深さ」があります。対応方法を考えなければなりません。

ただ、独学にはもう2つ、大きな壁があります。

1つめは「情報不足」です。

たとえば私の受験生時代、短答式試験のボーダーラインは72%~73%が標準でした。また、短答式試験が年に1回しかなかった時代です。会計基準の大改正もありました。

そのなかで、試験を突破するためにはどうすればよいのか? これに答えるために必要な情報は、すべて手探りで見つける必要がありました。

公認会計士試験はある意味で「情報戦」ですが、独学の場合、必要な情報を必要なときに得ることは極めて難しいです。

2つめは「孤独」です。

独学は、常に1人での戦いです。周りの進度も見えなければ、自分の実力がどれくらいなのかも見えません。

たとえば私の受験生時代、TwitterのようなSNSはありませんでした。孤独との戦いはとてもつらかったことを覚えています。

たしかに今はSNSで情報を得ることもできるようになりましたが、SNSは時として焦りを生むことにつながりかねない諸刃の剣です。

いつの時代も独学は、心が折れそうな状況を強いてきます。

どの順序で合格レベルを目指すのか?

では、こういった独学に付きまとう「壁」をどのようにクリアしていけばよいのでしょうか?

その処方箋は、「どの順序で合格レベルに達するのか」という自分なりのロードマップを中長期的に組み、1つ1つ乗り超えていくことです。

幸いにも、簿記・会計分野に関しては日商簿記3級・2級・1級などがあり、順を追って勉強できるようになっています。さらに、税理士試験の簿記論・財務諸表論もあります。また、年に数回、予備校が公開模試を行っています。

それらをロードマップに組み込んで利用しながら、基礎的知識を得たり実戦経験を積んだりし、ステップを踏んで学習することをおすすめします。

ロードマップを考えるにあたっては、次の3つのことを重視してください。

① 日商簿記1級に合格できるだけの実力があるか否かを軸にする

会計学を制する者が公認会計士試験を制する。

これは間違いありません。その会計学の基本論点が日商簿記1級には詰まっています。

自分の弱点も日商簿記1級の学習時点でわかり、公認会計士試験の学習でも同じところで躓くはずです。

まずは、日商簿記1級に合格できるだけの実力があるか否かを軸にロードマップの始まりを設定しましょう。

② 「1日○時間やる」ではなく「ここまでに○○ができるようになる」を目標にする

ロードマップを絵に描いた餅にしないためです。

「○時間やった」というプロセスは評価の対象外です。試験は「○点取れた」(○○ができるようになった)という結果をもとに評価されます。

よって、この分野が理解できるようになる、という目標設定が大切です。

もちろん時間は必要ですが、「○○ができるようになる」を目標にすると、時間はあとからついてくるはずです。

③ だいたい1ヵ月~3ヵ月単位で目標を設定し、進捗に応じて練り直す

人間は機械ではありません。1日単位で目標を設定すると、たとえば体調不良に対処できませんし、調子が出ないときもあるでしょう。短期的な思考は焦りを生みます。

中期的な単位で目標を設定することで、うまくいかなかったときに計画を見直すことができます。なにより、長期戦になる公認会計士試験においては、緩急をつけて学習を行うことが重要です。

ロードマップの例

ロードマップは皆さんの現在地(学習度合い)によって違います。

ここでは、軸とすべき日商簿記1級の学習経験の有無に沿って、ロードマップの例と学習の指針(ひとことアドバイス)をお話しします。ロードマップの例は、あえて中期的なものに留めています。

2022年4月から始めることを想定していますが、皆さんにとって始めるタイミングも、進度も違うと思います。あくまで参考資料として見ていただけると幸いです。

簿記・会計を1から学習する方~日商簿記2級の学習経験がある方

2022年4月~6月 日商簿記2級の学習・知識の定着
 ↓
2022年7月~11月 日商簿記1級の学習
 ↓
2022年12月~5月 他の科目も加え、2023年5月の短答式試験に向けた学習・受験

〈ひとことアドバイス〉

公認会計士試験の初学者です。まずは日商簿記2級までの内容を学習し、理解できているどうかを2~3ヵ月かけて確認してください。

いきなり負荷をかけると心が折れますし、日商簿記2級は次の基礎になります。「現金・預金」といった基礎的な分野も公認会計士試験では出題されます。

そのうえで、ぜひ日商簿記1級を目指してください。

日商簿記1級レベルの知識が公認会計士試験の「会計学」の基本になります。日商簿記1級を勉強することで、「この問題は知っている」という問題も増えます。特に計算問題は、日商簿記1級に知識を追加していくような学習になると思います。

その後、他の科目も含めて公認会計士試験のテキストを使って学習し、まずは短答式試験の合格を目指しましょう。

日商簿記1級(税理士試験 簿記論・財務諸表論を含む)の学習経験がある方

2022年4月~12月 短答式試験に向けた学習・受験
※ 2022年8月 税理士試験 簿記論・財務諸表論の受験
 ↓
2023年1月~8月 合否に関係なく、論文式試験に向けた学習・受験

〈ひとことアドバイス〉

公認会計士試験「会計学」の計算分野の基礎の学習を終えた状況です。この時点で、かなりのアドバンテージがあります。

まず、他の科目も含めて公認会計士試験のテキストを使って学習し、まずは12月の短答式試験の合格を目指しましょう。

その際、日商簿記1級を学習したときに弱点だった論点や、理論分野も手厚く学習することをおすすめします。各科目の学習時間のバランスをとることにも慣れておいてください。

その過程で、合格していない場合は、ぜひ税理士試験の簿記論・財務諸表論の受験も検討してみてください。範囲は日商簿記1級の商業簿記・会計学とほぼ重なっており、合格すると短答式試験・財務会計論の免除を受けることができます。論文式試験の分量の多い問題への慣れにもつながるでしょう。

そのうえで、短答式試験が終わったら論文式試験の学習へ速やかに移行してください。重い科目である租税法や選択科目を学習するとともに、大きく出題傾向が変わる財務会計論や論述問題にも慣れていきましょう。アウトプットの練習を積み上げて、論文式試験を突破してください。

おわりに

独学でも、道は険しくとも合格は可能です。

一方、独学では「何をどう学習すれば合格に辿り着くのか」という計画がすべてです。この点で、ロードマップは、情報不足と孤独からくる不安をかき消してくれます。

さらに言えば、独学には独学ならではの大きな魅力があります。

1つめには、もちろん受験のための費用を抑えることができることがあります。

ただ、なにより2つめが魅力です。人それぞれにスケジュール感やどんな学習が適しているかは違いますが、独学では自分なりのカリキュラムで学習することができます。

3つめに、そういった過程を通じて自己管理能力が身につきます。今の時点で自分にとって何が足りないかを分析し、学習を練り直しながら自分のペースで学習を進めることができるのは、独学の大きな魅力です

習得すべき論点自体は、予備校であれ独学であれ変わりません。

自分なりのロードマップを立て、正しいやり方で学習を重ねることができると、合格に近づく。これは間違いありません。

その際に、私の体験が、独学で公認会計士試験に挑戦する皆さんの不安を少しでも解消する一助になり、励みになれば幸いです。応援しています。

【執筆者紹介】
藤原 靖也(ふじわら・のぶや)
和歌山大学経済学部准教授、博士(経営学)。日商簿記検定試験1級、税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験論文式試験に合格。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了後、尾道市立大学経済情報学部講師を経て現職。教育・研究活動を行いつつ、受験経験を活かした資格取得に関する指導にも力を入れている。


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