【税理士・財務諸表論】“自分だけの1冊”を見つけよう! かえる先生が教える「基本書」の選び方


諸角 崇順

【編集部から】
税理士試験の“新年度”がスタートした9月は、比較的時間に追われず勉強に集中できる時期。
そんな時期だからこそ、腰を据えて「基本書」を読むこともできると思われます。
そこで、受験生時代に「基本書」による学習を取り入れ、現在も「基本書」の活用を推奨されている、“かえる先生”こと諸角先生に、「基本書」の選び方・読み方を教えていただきました。

今回は、新たに財務諸表論を学習しようとしている方、今年度の試験が終わって財務諸表論にリベンジを誓った方に向け、2回にわたって、今だからこそ取り組んでほしい「基本書の読み込み」についてアドバイスをします。

①「基本書」の選び方(本記事)
②「基本書」の読み方はこちらから

「基本書」ってなんのこと?

まずは、「基本書」ってなんのこと?という方に、「基本書」とは何かを説明します。

簡単に言うと「基本書」は、実務家ではなく学者が書いた本をいいます。皆さんが勉強している財務諸表論でいうと、「会計学」「財務会計」「財務諸表論」といった用語がタイトルについていることが多いです。実際に足を運ばれた方はご存じだと思いますが、書店の棚にはたくさんの「基本書」が所狭しと並んでいます。

財務諸表論の学習において、この「基本書」は、参考書として、または辞書として、1冊は持っておいて損はありません。しかし、あまりに多くの「基本書」があることから、どれを選べばいいのかわからない!という受験生も多数います。

そこで、まずは「基本書」の選び方をご紹介します。

「基本書」を選ぶための前提要件

①ここ1~2年に出版されたもの

古いものだと最近の会計基準をカバーできていません。いくら名著と呼ばれるものであっても、受験勉強という観点からは避けるべきです(研究目的等であれば、古くてもかまわないと思います)。

②300~500ページぐらいのもの

ページ数が少なすぎると受験に耐えきれない、つまり合格レベルに達することができません。逆にページ数が多すぎると受験に対してオーバースペックとなり、合格まで遠回りになる可能性が高まります。皆さんは研究者になるわけではないので、「財務諸表論の合格」に必要なレベルの書籍を選びましょう。

③会計の世界で、ある程度名の通った出版社から出版されているもの

自費出版のすべてが悪いとは言いませんが、受験生、特に初学者は会計に関して初心者なので、まだ自分の目で本当に価値のあるものを選ぶ力がない以上、名の通った出版社のチェックを受けた書籍を選んだほうが失敗は少なくなります。たとえば、インターネットで「会計 出版社」と検索し、1ページ目に登場する出版社なら基本的に問題がないと思います。

まずは、これらの前提要件をクリアしている書籍を何冊かピックアップしましょう。そして、ピックアップが終わったら、自分に合った「基本書」を選んでいきます。

自分に合った「基本書」を選ぶ基準

書籍を選ぶ際、「カラーで見やすい」「図表が豊富」など、どうしても第一印象で決めがちですが、趣味として楽しむわけではないので、少し“冷徹な目”で判断することが必要です。

では、どのように選ぶのか? ここでは、私が実践している方法をご紹介します。

私は「基本書」に限らず専門書を選ぶ際は、何冊か候補を絞り込んだ後、実際に書店に出向きます。というのも、「基本書」は、実際に自分の目で見て比較することが大切だからです。大型書店が近くにない方は、県庁所在地の図書館などにあるかもしれないので、インターネットで蔵書検索をしてみましょう。

さて、ここでいう「比較」とは、①あるテーマを選び、②そのテーマのページを読み比べ、③一番わかりやすい書籍を選ぶ、というものです。

少しわかりにくいですね。もう少し具体的に説明してみます。

たとえば、興味のあるテーマを決め(ここでは「有価証券」と仮定)、ピックアップした書籍すべての「有価証券」のページを読み比べます。大切なのは、同じ論点で比較することです。書籍Aでは「引当金」、書籍Bでは「棚卸資産」、書籍Cでは「有価証券」といったように論点を変えてしまうと、本当の意味での「比較」ができないので、必ず同じ論点のページを読み比べるようにしましょう。

なお、ある程度学習している論点を選ぶのがオススメです。たとえば、日商簿記2級レベルの方であれば、最新の会計理論の論点では、そもそもの基礎知識が不足していると思いますので、「有価証券」や「純資産」などで比較すると、わかりやすいかどうかを実感しやすいと思います。

もう一度言いますが、「カラーで見やすい」「図表が豊富」といった第一印象は、あくまで参考程度にとどめ、自分が選んだテーマのページを読み込んで、一番わかりやすい書籍を選んでください。

ちなみに私は受験生のとき(1990年代)、周りの受験生の多くが受験に定評のある書籍を選ぶなか、当時はまだ中堅研究者の1人であった、関西学院大学の平松一夫先生の会計学に関する著書を 基本書として選びました。

「基本書」を選ぶ際の注意点

「基本書」は、自分の状況や知識に合わせて選ぶ必要があります。

たとえば、SNSでは、桜井久勝著『財務会計講義』(中央経済社)を「基本書」に選んでいる方を多く見かけます。

あくまで主観ですが、この『財務会計講義』は恐ろしく完成度が高いため、初学者が使いこなすには少しハードルが高いです。

「完成度が高い」=「説明に無駄がなく完璧」ということなので、財務諸表論の受験経験がある、公認会計士短答式試験に合格している、大学院で会計を学んでいるような方にとってはベストな「基本書」でしょう。

しかし、これから会計の世界に飛び込む方が「基本書」の1冊目に選んでしまうと、それこそ用語辞典を片手に読み進めないといけない事態に陥ると思います。

つまり、将棋の藤井聡太竜王が「私、この本で勉強しているんですよ」と、愛用している将棋の専門書をあなたに薦めたところで、あなたは内容を理解できる次元にはいない、ということと同じです。

友人や先輩から「基本書」を薦められることも多いと思いますが、その際は、紹介してくれた方の知識レベルをしっかりと考慮したうえで、意見を参考にしてください。

さいごに

ファッションで「基本書」を選ばないでください。

「あんな本、ダサい!」「こんな学者、知らんわ!」

そんな理由で素晴らしい書籍を最初から対象外にしてほしくないのです。

私は講師をしてもうすぐ30年になりますが、今でも新しい論点を学ぶときは、マンガ形式のものや初心者向けのものから入って、まずイメージを描くようにします。その論点のイメージをもってしまえば、その後の理解が圧倒的に早いからです。

書籍に無駄なものはありません。自分のレベルに合わない書籍を選ぶから無駄になるのです。だからこそ、

「あの学者の本なら間違いない!」「模試で全国1位の人が使っていた」

そんな理由で絶対に「基本書」を選ばないでください。自分に合った書籍に出会える人生、それがきっと幸せなんだと思います。

次回は、自分に合った「基本書」を選んだ後、それをどう読むかをお伝えします。

<執筆者紹介>
諸角 崇順(もろずみ・たかのぶ)

大学3年生の9月から税理士試験の学習を始め、23歳で大手資格学校にて財務諸表論の講師として教壇に立つ。その後、法人税法の講師も兼任。大手資格学校に17年間勤めた後、関西から福岡県へ。さらに、佐賀県唐津市に移住してセミリタイア生活をしていたが、さまざまなご縁に恵まれ、2020年から税理士試験の教育現場に復帰。現在は、質問・採点・添削も基本的に24時間以内の対応を心がける資格学校を個人で運営している。

ホームページ:『かえるの財務諸表論』 (peraichi.com)


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