渡邉 圭
(千葉商科大学基盤教育機構准教授)
この連載講座では、「日商簿記では学ばないけれど、税理士試験の簿記論・財務諸表論では必要になる論点」を学習します。
簿記論・財務諸表論の学習は広範囲にわたるため、日商簿記では深く学んでいない論点も対策しなければなりません。
税理士を目指して簿記論・財務諸表論の学習を始めた方、「いずれは税理士に」と考えている方は、この連載講座を使って効率的に学習を進めていきましょう。
前回は、「債権債務」について、日商簿記3級レベルの復習を行いました。
今回は、日商簿記検定試験での未学習項目である「為替手形」について解説していきます。
為替手形
為替手形とは、手形の振出人(発行者)が、第三者の支払人(名宛人)に支払いを委託し、手形の受取人(指図人)は第三者から一定の金額を受け取る形式の手形です。約束手形は「振出人=支払人」となりますが、為替手形は「振出人≠支払人」となります。次の設例を使って、為替手形の仕訳例を示します。
【設例】
次の取引について、当社と相手先の各商店の仕訳を答えなさい。なお、仕訳が不要の場合は、借方科目に「仕訳不要」と記入すること。
① 当社は、S商店に商品3,000円を販売し、代金は掛けとした。
② 当社は、U商店から商品1,000円を仕入れ、代金はS商店の引受けを得て為替手形を振り出した。S商店は当社のから為替手形の呈示があったため、これに応じて引受けを行い、U商店は為替手形を受け取った。
【解答】
(単位:円)
① 当社の仕訳
(借) 売掛金 3,000 (貸) 売上 3,000
① S商店の仕訳
(借) 仕入 3,000 (貸) 買掛金 3,000
① U商店の仕訳
仕訳不要
② 当社の仕訳
(借) 仕入 1,000 (貸) 売掛金 1,000
② S商店の仕訳
(借) 買掛金 1,000 (貸) 支払手形 1,000
② U商店の仕訳
(借) 受取手形 1,000 (貸) 売上 1,000
【解説】
まず、為替手形を使う場合は、3人の人物が登場します。為替手形を使う前に、【設例】の①では、当社とS商店で掛け取引を行っています。当社の立場から、S商店に対して3,000円の売掛金を保有しており、その状態からU商店と仕入取引を行い、代金の支払いは為替手形を振り出して決済を行っています。これは、S商店の承諾を得たうえで、S社の売掛代金を受け取らない代わりに、S商店がU商店に当社の仕入代金を手形により支払う取引となります。
当社は、S商店から回収できる売掛金1,000円を受け取らない代わりに、U商店から仕入れた仕入代金をS商店に手形で支払い可能か承諾を得ます。S商店がこれに応じれば、当社が振り出した為替手形をU商店に渡して取引が成立します。為替手形の作成には収入印紙も必要ですが、印紙代金の負担を場合によっては支払人が負うこともあります。
練習問題にチャレンジ
【問題1】
次の取引について、当社と相手先の各商店の仕訳を答えなさい。なお、仕訳が不要の場合は、借方科目に「仕訳不要」と記入すること。
当社は、U商店から商品2,000円を仕入れ、代金は掛け代金のある得意先S商店の引受けを得て為替手形を振出した。S商店は当社のから為替手形の呈示があったため、これに応じて引受けを行い、U商店は為替手形を受け取った。
【解答1】
(単位:円)
・当社の仕訳
(借) 仕入 2,000 (貸) 売掛金 2,000
・S商店の仕訳
(借) 買掛金 2,000 (貸) 支払手形 2,000
・U商店の仕訳
(借) 受取手形 2,000 (貸) 売上 2,000
【問題2】
次の取引について仕訳しなさい。
① 当社は、仕入先から商品300,000円を仕入れ、代金のうち200,0000円は同店受取り、得意先引受けの為替手形を振出し、残額は掛けとした。なお、仕入れに要した諸掛6,000円は現金で支払った。
② 得意先に商品120,000円を売上げ、代金を得意先振出し、AA商店を名宛人とする為替手形を受取った。
③ 仕入先に対する買掛金につき、仕入先振出し、BB商店受取りの為替手形70,000円の引受けをした。
④ 商品90,000円を売上げ、代金は自己(当店)振り出しの約束手形を裏書譲渡された。
⑤ 得意先の売掛代金60,000円の回収として、自己(当店)振り出しの為替手形を裏書譲渡された。
【解答2】
(単位:円)
①の仕訳
(借) 仕入 306,000
(貸) 売掛金 200,000
買掛金 100,000
現金 6,000
②の仕訳
(借) 受取手形 120,000 (貸) 売上 120,000
③の仕訳
(借) 買掛金 70,000 (貸) 支払手形 70,000
④の仕訳
(借) 支払手形 90,000 (貸) 売上 90,000
⑤の仕訳
(借) 受取手形 60,000 (貸) 売掛金 60,000