つぶ問9-2(財務諸表論)―CF計算書、会計上の変更


【解答・解説】

 キャッシュ・フロー計算書に関して、表示や損益と収支の違いなど理論でも問われることがあるため、今回はそれぞれの成否を判断する問題としました。

① 正しい

 当座借越などについて、貸借対照表では負債の短期借入金として記載されますが、キャッシュ・フロー計算書で負の現金同等物に該当する場合には現金及び現金同等物のマイナスとなります。そのため、理論上は現金及び現金同等物の期末残高がマイナスになることもあり得ます。

② 誤り

 現金同等物として取り扱うのは、取得日から満期日または償還日まで3ヵ月以内の短期投資であるため、期間1年の定期預金は含みません。なお、この「3ヵ月」は企業によって異なることがあることは本誌で説明したとおりです。

③ 誤り

 費用として税引前当期純利益からは引かれていますが支出を伴わないため、間接法ではプラスの調整項目として記載が必要です。直接法の場合は記載不要となります。

④ 正しい

 売掛金残高が増加しているということは、税引前当期純利益に含まれている売上高に対して相対的にキャッシュ・フローが少ないはずであるため、マイナスの調整が必要です。

⑤ 誤り

 営業活動にかかる資産・負債の増減は営業活動によるキャッシュ・フローに記載して調整が必要です。商品残高の増加は、税引前当期純利益から引かれている売上原価よりも仕入高の方が大きいはずであるため、マイナスの調整が必要です。

⑥ 誤り

 記載箇所やプラス・マイナスの記載は正しいですが、小計欄より上の金額と下の金額が同額とは限りません。小計欄より上では営業活動に関連しない損益として調整するため費用額をプラスしますが、小計欄より下では実際の支出額をマイナスします。

⑦ 正しい

 支払利息、受取利息、受取配当金の表示は2つの方法が認められていますが、支払配当金は財務活動で表示します。

⑧ 正しい

 支出時点と費用計上時点は異なりますが、費用性資産にかかる支出額は基本的に減価償却等を通じていずれかの期間の費用として処理されます。よって、それぞれの全期間の合計は一致します。

 例外として、現物出資により取得した資産は、取得にあたり支出はありませんが減価償却等で費用処理されるため、全期間の支出合計と費用合計が一致しません。(受贈の場合も支出はありませんが、受贈益=全期間の費用合計となります。そこで、「費用」を「損益」と読み替えると、全期間の支出合計と損益合計が一致します。)

⑨ 誤り

 売買処理を行ったリース取引及びリース料の支払いは、ファイナンス・リース取引にかかるリース債務及び支払利息の支払いにあたるため、財務活動(利息部分は財務活動または営業活動)に記載されます。

⑩ 誤り

 税理士試験ではキャッシュ・フロー計算書の出題頻度が多くないため、本誌では為替差損益の説明を割愛しましたが、念のため今回のつぶ問で出題しました。

 外貨現金や預金の換算差額(為替差損益)は、同額だけ円貨での現金及び現金同等物自体の増減が生じるため、キャッシュ・フロー計算書に記載が必要です。そして、3活動のいずれにも該当しないため、まずは⑥の支払利息等と同様に営業活動から除くために営業活動によるキャッシュ・フローで調整を行います。そして、営業活動によるキャッシュ・フローの小計欄より下ではなく、3活動のさらに次の独立項目として「現金及び現金同等物に係る換算差額」に記載します。

 これが、もし仕入や売上(買掛金や売掛金)などの営業活動に付随して生じた為替差損益の場合は、営業活動によるキャッシュ・フローの調整が不要です。なぜならば、損益のうえでは営業外の為替差損益であっても、キャッシュ・フロー計算書では営業活動から生じたものと扱われるためです。仮に、決済済み(受払済み)の為替差損益ならば税引前当期純利益に含まれて、そのまま調整を行わずに営業活動によるキャッシュ・フローとなります。また、未決済で期末の外貨建売掛金や買掛金などの換算差額の為替差損益ならば、まだ為替差損益に対応するキャッシュ・フローはありませんが、売上債権や仕入債務の増減に含めて調整が行われるため、やはり為替差損益を独立して調整する必要はありません。

つぶ問は、2018年9月号~2019年8月号までの連載「独学合格プロジェクト 簿記論・財務諸表論」(中村英敏・中央大学准教授/小阪敬志・日本大学准教授)に連動した問題です。つぶ問の出題に関係するバックナンバーはこちらから購入することができます。

【つぶ問】一覧
つぶ問1-1(財務諸表論)
つぶ問1-2(財務諸表論)
つぶ問1-3(財務諸表論)-概念フレームワーク
つぶ問1-4(財務諸表論)-企業会計原則
つぶ問2-1(財務諸表論)-棚卸資産の評価
つぶ問2-2(財務諸表論)―棚卸資産の評価
つぶ問2-3(財務諸表論)―固定資産の減損
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