つぶ問6-3(財務諸表論)―純資産(各項目、自己株式、新株予約権)、包括利益


【解答】

(問1)
 従業員等にストック・オプションを付与することで、これと引換えに従業員等から企業に追加的な労働サービスが提供され、企業は自らに帰属する労働サービスを消費する。企業に帰属する財貨の消費と同様に、当該サービスの消費を費用として処理することが、整合的といえる。(126字)

(問2)
 新株予約権が権利不行使によって失効した場合、失効した新株予約権の帳簿価額を減額し、同額を新株予約権戻入益として処理する。従業員等に報酬として付与されていた場合には、失効によって発行会社は自社の株式を時価未満で引き渡す義務を免れることができ、結果的に提供されたサービスを無償で消費したものと考えられるため、失効部分の利益処理がなされる。(167字)

<別解>
 新株予約権が権利不行使によって失効した場合、失効した新株予約権の帳簿価額を減額し、同額を新株予約権戻入益として処理する。新株予約権の失効は、その付与に伴う純資産の増加が株主との直接的な取引によらないものとなったことを意味することから、当該失効部分を利益として計上し、株主資本に算入すべきと考えられる。(150字)

(問3)
 ストック・オプションの公正な評価額は、付与日時点におけるストック・オプションの公正な評価単価に付されるストック・オプション数を乗じて計算される。このうち、ストック・オプション数からは権利不確定による失効の見積数を控除しなければならない。これは、従業員等から提供されるサービスは、権利確定日以降に権利行使できるストック・オプションと対価関係にあると考えられるためである。(184字)


【解説】

 ストック・オプションの会計処理に関する、基本的事項を出題しました。

(問1)
 ストック・オプション計上時の借方科目の取扱いに関する問題です。見解は、新旧株主間での富の移転は費用認識の対象とはならないという視点と、ストック・オプションを付与する取引では会社財産の流出がないという視点からの主張がなされます。これらの主張は、会計の基礎概念に近いレベルからの根拠づけがなされているため、説得力も強い反論となっています。ひと通り見解を押さえておきましょう。

(問2)
 新株予約権の失効に関する処理は、ストック・オプションとは切り離した論点として押さえてしまいがちです(ストック・オプションを1つの独立した論点として位置づけてしまい、他の新株予約権の論点と区別してしまう、といった方がよいかもしれません)。

 本問は、ストック・オプションとのつながりを意識させつつ、新株予約権の失効時の処理を問うた問題になっています。解答はストック・オプションを前提とした記述になっていますが、別解として示した内容は、新株予約権全般の失効時の処理の根拠となるものです。本問はストック・オプションを前提とした問題ですから、前者の記述を解答としています。

(問3)
 「失効」には、権利不行使と権利不確定の2種類があることを前提に、不確定による失効がストック・オプションの公正な評価額の計算上、どのように考慮されるかを問うています(権利不行使は(問2)で出題したとおり)。解答自体は、公正な評価額の計算過程をたどればよいだけですので、それほど難しくはないはずですが、用語を正しく理解し、使い分けられているかがよくわかるため、解答してみて自分の理解が不十分であったり、うまく説明できなかったりしたのであれば、理解が不十分だという証拠ですので、もう一度本誌の内容を復習しておきましょう。

つぶ問は、2018年9月号~2019年8月号までの連載「独学合格プロジェクト 簿記論・財務諸表論」(中村英敏・中央大学准教授/小阪敬志・日本大学准教授)に連動した問題です。つぶ問の出題に関係するバックナンバーはこちらから購入することができます。

【つぶ問】一覧
つぶ問1-1(財務諸表論)
つぶ問1-2(財務諸表論)
つぶ問1-3(財務諸表論)-概念フレームワーク
つぶ問1-4(財務諸表論)-企業会計原則
つぶ問2-1(財務諸表論)-棚卸資産の評価
つぶ問2-2(財務諸表論)―棚卸資産の評価
つぶ問2-3(財務諸表論)―固定資産の減損
つぶ問2-4(財務諸表論)―棚卸資産
つぶ問3-1(財務諸表論)―リース
つぶ問3-2(財務諸表論)―資産除去債務
つぶ問3-3(財務諸表論)―資産除去債務
つぶ問3-4(財務諸表論)―研究開発費
つぶ問3-4(財務諸表論)―研究開発費
つぶ問4-1(財務諸表論)―有価証券
つぶ問4-2(財務諸表論)―有価証券
つぶ問4-3(財務諸表論)―有価証券
つぶ問4-4(財務諸表論)―有価証券
つぶ問5-1(財務諸表論)―引当金・繰延資産、退職給付
つぶ問5-2(財務諸表論)―引当金・繰延資産、退職給付
つぶ問5-3(財務諸表論)―引当金・繰延資産、退職給付
つぶ問6-1(財務諸表論)―純資産(各項目、自己株式、新株予約権)、包括利益
つぶ問6-2(財務諸表論)―純資産(各項目、自己株式、新株予約権)、包括利益
つぶ問6-3(財務諸表論)―純資産(各項目、自己株式、新株予約権)、包括利益
つぶ問6-4(財務諸表論)―純資産(各項目、自己株式、新株予約権)、包括利益
つぶ問7-1(財務諸表論)―外貨、デリバティブ、ヘッジ、税金、税効果
つぶ問7-2(財務諸表論)―外貨、デリバティブ、ヘッジ、税金、税効果
つぶ問7-3(財務諸表論)―外貨、デリバティブ、ヘッジ、税金、税効果
つぶ問7-4(財務諸表論)―外貨、デリバティブ、ヘッジ、税金、税効果
つぶ問8-1(財務諸表論)―特商、工事収益、新収益認識
つぶ問8-2(財務諸表論)―特商、工事収益、新収益認識
つぶ問8-3(財務諸表論)―特商、工事収益、新収益認識
つぶ問8-4(財務諸表論)―特商、工事収益、新収益認識
つぶ問9-1(財務諸表論)―CF計算書、会計上の変更
つぶ問9-2(財務諸表論)―CF計算書、会計上の変更
つぶ問9-3(財務諸表論)―CF計算書、会計上の変更
つぶ問9-4(財務諸表論)―CF計算書、会計上の変更
つぶ問10-1(財務諸表論)―連結、のれん
つぶ問10-2(財務諸表論)―連結、のれん
つぶ問10-3(財務諸表論)―連結、のれん
つぶ問10-4(財務諸表論)―連結、のれん
つぶ問11-1(財務諸表論)―企業結合、事業分離
つぶ問11-2(財務諸表論)―企業結合、事業分離
つぶ問11-3(財務諸表論)―企業結合、事業分離
つぶ問11-4(財務諸表論)―企業結合、事業分離


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