つぶ問6-2(財務諸表論)―純資産(各項目、自己株式、新株予約権)、包括利益


【解答】

(問1)
 (a)では、自己株式を取得したのみでは失効しておらず、処分を通じて現金等の払込みを受けることができるため、他の有価証券と同様に、自己株式を換金性のある財産であるとみる。他方、(b)では、自己株式の取得が株主との資本取引であり、会社財産の払戻しの性格を有することを根拠とする。(133字)

(問2)
 自己株基準によれば、自己株式処分差額はその他資本剰余金の増減として処理することとされている。これは、自己株式の処分が新株発行と同様の経済的実態を有する、株主との資本取引であると考えられることを根拠とする。よって、自己株基準は(b)の考え方を採用しているといえる。(129字)

(問3)
 多額の自己株式処分差損が生じても、その他資本剰余金の残高が負にならない限り、その他資本剰余金の減額として処理する。しかし、払込資本であるその他資本剰余金が、最終的に負の残高になることは考えられないため、会計期間末にその他資本剰余金の残高が負になる場合には、利益剰余金で補てんすることとなる。(145字)


【解説】

 企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の減少等に関する会計基準」(以下、自己株基準)の内容からの出題です。

(問1)
 自己株式の会計的性格について問う問題は、あまり出題可能性の高くない論点ではありますが、自己株基準が(b)資本控除説に立っているという前提を学習するうえで、自己株式の位置づけについては諸説あったという経緯を知っておくと、理解の助けになるでしょう。

(問2)
 自己株基準では、自己株式の取得や処分を株主との間で行われる資本取引とみています。このため、自己株式の取得≒資本の払戻し自己株式の処分≒新株発行といったように位置づけられています。

 この観点からすると、自己株式処分差益は、取得による払戻額より処分による払込額の方が大きい=追加の払込みがあったといえるため、その他資本剰余金の増加として処理されます。他方、自己株式処分差損は、払戻額>払込額となりますから、払込資本の減少として処理すべく、その他資本剰余金のマイナスとして処理するわけです。

 しかし、処分差損については金額が大きくなると、(問3)のような問題が生じるようになります。

(問3)
 多額の自己株式処分差損が見込まれる場合、と問題文にありますが、解答する際には、それによってその他資本剰余金の残高が負(マイナス)になるか否か、という場合分けをする必要があります。

 その他資本剰余金がマイナスにならない限りにおいては、(問2)の考え方に従って、自己株式処分差損をその他資本剰余金から減額することになります。しかし、その他資本剰余金の残高でカバーできないほど多額の自己株式処分差損が生じた場合には、その他資本剰余金が負の残高となってしまいます。そもそも株主からの払込資本の一種であるその他資本剰余金が、「マイナスの残高になる」というのは、概念上想定できないため、このような場合には、利益剰余金(特に、繰越利益剰余金)を用いて、そのマイナス分を補てんするしかない、と考えられています。

 この論点は、資本と利益の混同禁止という大原則との関係で問われやすい論点ですので、あわせて押さえておくとよいでしょう。また、多額の当期純損失などによって利益剰余金が負の残高になる場合に、その他資本剰余金で補てんする処理(払込資本に毀損が生じているという事実を反映するため)についても、資本と利益の混同にはあたらないケースとして位置づけられていますので、あわせて押さえておくとよいでしょう。

つぶ問は、2018年9月号~2019年8月号までの連載「独学合格プロジェクト 簿記論・財務諸表論」(中村英敏・中央大学准教授/小阪敬志・日本大学准教授)に連動した問題です。つぶ問の出題に関係するバックナンバーはこちらから購入することができます。

【つぶ問】一覧
つぶ問1-1(財務諸表論)
つぶ問1-2(財務諸表論)
つぶ問1-3(財務諸表論)-概念フレームワーク
つぶ問1-4(財務諸表論)-企業会計原則
つぶ問2-1(財務諸表論)-棚卸資産の評価
つぶ問2-2(財務諸表論)―棚卸資産の評価
つぶ問2-3(財務諸表論)―固定資産の減損
つぶ問2-4(財務諸表論)―棚卸資産
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つぶ問3-2(財務諸表論)―資産除去債務
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