【解答】
(問1)研究開発に関する情報の企業間の比較可能性の観点からは,費用処理または資産計上を任意とするような処理は適当でない。他方で,研究開発費はその発生時において将来の収益が獲得できるか否かが不明であり,研究開発計画が進行しその期待が高まったとしても,依然として確実とはいえない。仮に一定の要件を満たしたものについて資産計上を要求しても,実務上客観的に判断可能な要件を定めることは困難である。したがって,研究開発費は発生時に全額を費用として処理することとされている。(227字)
(問2)市場販売目的のソフトウェアの製品マスター制作費の処理について,まず研究開発に該当する部分,すなわち最初に製品化された製品マスターの完成までに要した費用は,研究開発費として処理される。次に研究開発終了後に費やされた制作費については,製品マスターの機能の改良・強化のための費用については無形固定資産のソフトウェアとして処理され,機能維持のための費用は発生時の費用として処理される。ただし,著しい改良・強化に要した制作費については,研究開発費に該当することとなる。(229字)
(問3)研究開発終了後の製品マスター制作費のうち,著しくない機能の改良・強化に要した費用が無形固定資産として計上されることとなるが,これは次の4つの理由による。第一に,製品マスターはそれ自体が販売の対象物ではない。第二に,製品マスターは機械装置等と同様にこれを利用して製品が作成される。第三に,製品マスターは法的権利を有している。そして第四に,適正な原価計算により取得原価を明確化できる。(190字)
【解説】
ソフトウェアおよび研究開発費からの出題です。
(問1)解答の通りです。問題としては,2019年1月号で扱う繰延資産の計上根拠と対比する形問われることが多いですので,繰延資産を学習した際に改めて本問を確認するようにしましょう。
(問2)市場販売目的の製品マスターの制作費については,まず研究開発費に該当する部分とそうでない部分とに区別してから論じわける必要があります。前者については,最初に製品化された製品マスターの完成までという時点をしっかりと押さえておきましょう(これは,開発の狩猟=研究成果の具体化の終了=販売の意思が明確化された時点,というロジックによります)。研究開発費に該当しない部分であっても,機能の改良・強化が著しければ,それに要した費用は研究開発費に該当しますので,この点は注意しておきましょう。
(問3)市場販売目的の製品マスターの制作費のうち資産計上される部分について,無形固定資産として計上される根拠を問うた問題です。各根拠についてはその意味も理解しておくことがポイントですので,本誌の方で確認しておきましょう!
つぶ問は、2018年9月号~2019年8月号までの連載「独学合格プロジェクト 簿記論・財務諸表論」(中村英敏・中央大学准教授/小阪敬志・日本大学准教授)に連動した問題です。つぶ問の出題に関係するバックナンバーはこちらから購入することができます。
【つぶ問】一覧
つぶ問1-1(財務諸表論)
つぶ問1-2(財務諸表論)
つぶ問1-3(財務諸表論)-概念フレームワーク
つぶ問1-4(財務諸表論)-企業会計原則
つぶ問2-1(財務諸表論)-棚卸資産の評価
つぶ問2-2(財務諸表論)―棚卸資産の評価
つぶ問2-3(財務諸表論)―固定資産の減損
つぶ問2-4(財務諸表論)―棚卸資産
つぶ問3-1(財務諸表論)―リース
つぶ問3-2(財務諸表論)―資産除去債務
つぶ問3-3(財務諸表論)―資産除去債務
つぶ問3-4(財務諸表論)―研究開発費
つぶ問3-4(財務諸表論)―研究開発費
つぶ問4-1(財務諸表論)―有価証券
つぶ問4-2(財務諸表論)―有価証券
つぶ問4-3(財務諸表論)―有価証券
つぶ問4-4(財務諸表論)―有価証券
つぶ問5-1(財務諸表論)―引当金・繰延資産、退職給付
つぶ問5-2(財務諸表論)―引当金・繰延資産、退職給付
つぶ問5-3(財務諸表論)―引当金・繰延資産、退職給付
つぶ問6-1(財務諸表論)―純資産(各項目、自己株式、新株予約権)、包括利益
つぶ問6-2(財務諸表論)―純資産(各項目、自己株式、新株予約権)、包括利益
つぶ問6-3(財務諸表論)―純資産(各項目、自己株式、新株予約権)、包括利益
つぶ問6-4(財務諸表論)―純資産(各項目、自己株式、新株予約権)、包括利益
つぶ問7-1(財務諸表論)―外貨、デリバティブ、ヘッジ、税金、税効果
つぶ問7-2(財務諸表論)―外貨、デリバティブ、ヘッジ、税金、税効果
つぶ問7-3(財務諸表論)―外貨、デリバティブ、ヘッジ、税金、税効果
つぶ問7-4(財務諸表論)―外貨、デリバティブ、ヘッジ、税金、税効果
つぶ問8-1(財務諸表論)―特商、工事収益、新収益認識
つぶ問8-2(財務諸表論)―特商、工事収益、新収益認識
つぶ問8-3(財務諸表論)―特商、工事収益、新収益認識
つぶ問8-4(財務諸表論)―特商、工事収益、新収益認識
つぶ問9-1(財務諸表論)―CF計算書、会計上の変更
つぶ問9-2(財務諸表論)―CF計算書、会計上の変更
つぶ問9-3(財務諸表論)―CF計算書、会計上の変更
つぶ問9-4(財務諸表論)―CF計算書、会計上の変更
つぶ問10-1(財務諸表論)―連結、のれん
つぶ問10-2(財務諸表論)―連結、のれん
つぶ問10-3(財務諸表論)―連結、のれん
つぶ問10-4(財務諸表論)―連結、のれん
つぶ問11-1(財務諸表論)―企業結合、事業分離
つぶ問11-2(財務諸表論)―企業結合、事業分離
つぶ問11-3(財務諸表論)―企業結合、事業分離
つぶ問11-4(財務諸表論)―企業結合、事業分離