ざっくりわかる新リース会計基準【第3回】 現行リース会計基準と新リース会計基準ではどこが違う?


登川雄太
(CPA会計学院公認会計士講座講師、CPAラーニング簿記検定コース講師)

【編集部より】
2024年9月に公表された新リース会計基準。
新聞紙上などでも大きく取り上げられるなど、現在最も注目されている会計論点の1つです。
実務への影響はもちろんですが、会計士・税理士試験、簿記検定などでも今後出題範囲となることから、その考え方は押さえておきたいところですね。
本連載では、登川雄太先生にポイントを全4回で解説していただきます。

第1回 なぜ、新リース会計基準ができたのか?
第2回 基本的な会計処理を押さえよう!
第3回 現行リース会計基準と新リース会計基準ではどこが違う?
第4回 オフバランス処理ができるケースと貸手の会計処理

前回の記事にて、新リース基準の会計処理は、現リース基準のファイナンス・リース取引と同様である点を説明しました。今回は、現リース基準とは異なる点にスポットライトを当てて解説をします。

リースの識別

新リース基準におけるリースの定義は、次のようになっています。

リースとは、原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約または契約の一部分をいう。

現リース基準の定義と言い回しは異なっていますが、その意味について大きな違いはありません。ただし、現リース基準にはこれ以上の定めはないため、リース会計の対象になるかどうかは、「賃貸借契約」や「リース契約」など、契約上の法形式により判定されるのが一般的でした。

しかし、新リース基準では、「どのような取引がリースに該当するか」という点が新たに定められました。

<フローチャート>
 ① 資産が特定されているか
      ↓Yes
 ② その資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している
      ↓Yes
 ③ その資産の使用方法を指図する権利を有している
      ↓Yes
 その契約はリースを含む(リース会計が適用される)

②と③は、資産を借手が自由に使用できるか(その資産の使用権を借手が支配しているか)の判定であり、一般的な「支配」のイメージ通りであるためそこまで難しいものではありません。

一方、①はイメージが難しいため具体例を用いて説明します。資産が特定されているかどうかというのは、簡単にいえば、「借りているものが明確かどうか」ということです。借りているものが明確でないならば、その契約はリースを含まない(リース会計を適用しない)と判断されます。

<特定されていない例>
当社製品の輸送を依頼するために、輸送業者であるA社と契約を締結した。契約では、どの輸送車を使用するかは定められていない(用いる輸送車は、日時や輸送場所などを勘案し、A社がその都度決める)。

この場合、対象資産は特定されていないため、②・③の判定をせずとも、使用権を支配していないことが明確です。よって、この契約はリースではないと判断され、輸送車の使用権はオンバランスされません。

<特定されている例>
当社製品の輸送を依頼するために、輸送業者であるA社と契約を締結した。その製品は特殊な製品であり、専用の輸送車を用いる必要があるため、用いる輸送車が契約において指定されている(当該輸送車以外は使用しない)。

この場合、どの輸送車の使用権を獲得しているのかが明確です。そのため、②と③の判定を行い、その使用権を当社が支配しているとされれば、オンバランス処理します。

リース期間

現リース基準におけるリース期間は、「借手と貸手の間で合意された期間」となっており、契約において定められた解約不能のリース期間と解されるのが一般的です。そのため、基本的にリース期間の決定に際して見積りが入る余地はありません。

対して新リース基準では、延長オプションや解約オプションを考慮して決定することとされており、リース期間を見積る必要が出てくるケースがあります。

<具体例>
 ・解約不能の期間は4年間
 ・契約には、「借手が希望すれば、4年経過後も、毎年、当該契約を1年間更新できる」と、リースの延長オプションが付されている。

この場合、延長オプションが付されているため、延長オプションを行使するかどうかを見積もってリース期間を決定します。仮に、「延長オプションを行使し6年間リースすることが合理的に確実である」と見積もった場合、リース期間は6年間となります。

リース料の構成要素

現リース基準において、リース料総額は、合意されたリース料に、残価保証または割安購入選択権がある場合その金額を含むこととされていますが、これ以上の規定はありません。

新リース基準では、固定リース料に以下の項目を加減算することとされています。

 ① 残価保証の支払見込額
 ② 行使が合理的に確実である購入オプションの行使価額
 ③ 指数またはレートに応じて決まる変動リース料
 ④ 解約違約金の支払額

③・④は現リース基準には定められていなかった項目ですが、貸手にに対して支払うものであるため、リース料総額に含めることが明記されました。また、①の残価保証は、現リース基準では残価保証額の全額をリース料に含めますが、全額を支払うとは限らないため、新リース基準では支払うと想定する見積額となっています。②は現リース基準における割安購入選択権ですが、新リース基準では「割安」であることは限定していません。

<具体例>
 ・固定リース料の総額は5,000円である。
 ・残価保証の定めがあり、契約期間終了時にリース物件の処分価額を500円まで保証する定めが付されている。

この場合、現リース基準では、残価保証額の全額500円をリース料に含めていました。しかし、新リースでは残価保証額を見積ります。仮に、「支払額を300円と見積もった」のなら、リース料総額は5,300円になります。

使用権資産

現リース基準では、リース債務の計上額とリース資産の計上額は同額となります。しかし、新リース基準においては、他の資産と同様に、付随費用がある場合は使用権資産に含める必要があります。

<具体例>
 ・リース料総額の割引現在価値は4,000円である。
 ・契約手数料50円を現金で支払った。

 この場合、リース開始時の仕訳は次のようになります。

 (借)使用権資産4,050 (貸)リース負債4,000
              現金預金50

このように、新リース基準では、リース負債の計上額と使用権資産の計上額に差異が生じることがあります。なお、付随費用以外にも、使用権資産には、リース開始日までに支払ったリース料、資産除去債務に対応する除去費用、受け取ったリース・インセンティブを加減算することとされています。

まとめ

前回の記事では、「新リース基準は、従来よりも簡単になった」と言いましたが、それはシンプルな問題の場合です。

本記事でわかる通り、新リース基準では、従来なかった細かい定めが多く追加されました。そのため、全体としては、受験生の負担は大きく増えることになります。公認会計士試験や日商簿記検定1級のように、難易度が高い試験では、この点まで問われる可能性は十分にありますので、油断せずおさえるようにして下さい。

【執筆者紹介】
登川 雄太
(のぼりかわ・ゆうた)

CPA会計学院公認会計士講座講師、CPAラーニング簿記検定コース講師。専門は財務会計論
1986年生まれ。慶應義塾大学3年次に公認会計士試験に合格。慶應義塾大学経済学部卒業後、監査法人トーマツを経て、現職。CPA会計学院では、簿記入門講義(簿記3級の内容)から公認会計士試験の財務会計論まで広く教えている。「楽しくわかる、わかるは楽しい。」をコンセプトにした簿記・会計をわかりやすく解説するウェブマガジン『会計ノーツ』を運営。

<主な著書>
世界一やさしい 会計の教科書 1年生』ソーテック社、2021年
この1冊ですべてわかる 財務会計の基本』日本実業出版社、2024年

Xアカウント:@nobocpa


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