海外で働く公認会計士のリアル:#シンガポール編・林 竜太


【編集部より】
「海外で働くこと」を一度は憧れたことがある人も多いのではないでしょうか。しかし、言語や仕事、生活など、乗り越えるないといけないようなハードルもたくさんあって、なかなか踏ん切りがつかないという人もいるでしょう。
そこで、本企画では、海外で働いたことがあったり、今まさに海外でビジネス展開していたりする6名の公認会計士に、海外で働くリアルについて教えていただきました。きっと、今後のキャリアを模索するさいのヒントになるはずです!
今回は、「#シンガポール編」として、林 竜太 先生(Pure Consulting Pte. Ltd. 代表取締役・公認会計士)にご登場いただきます。
また、本シリーズは、#中国(北京・上海)→#シンガポール→#インド→#アメリカ(ニューヨーク)→#イギリス→#アフリカ(ルワンダ)と世界周遊気分を味わいながらご紹介する予定です。ご期待ください!(全6回・不定期掲載)

シンガポールで会計事務所を開業

はじめまして、林竜太(はやし りょうた)です。
シンガポールで会計事務所を営んでおり、シンガポール歴は10年目です。

現在、下記の業務を中心に取り組んでいます。
① シンガポール進出企業等におけるコンプライアンス
② 海外子会社の内部監査・内部統制支援
③ 財務デューデリジェンス
④ 海外進出コンサルティング

①のシンガポールにおけるコンプライアンス業務は、シンガポールに進出される日系企業や富裕層の方々に対する、シンガポールでの会社設立から会計税務支援等までを含むワンストップサービスです。

②・③の海外子会社の内部監査・内部統制支援、財務デューデリジェンスは、主に東南アジア諸国で業務を提供しています。

④の海外進出コンサルティングは、私自身が「HITOSAJIYA」という調味料ブランドを経営している経験を生かし、日系企業の海外進出に関連する経営コンサルティングを行っています。

20代半ばから10年間海外にいるため、公認会計士としてはかなり変わったキャリアですが、1つの生き方として海外を目指される方々のご参考になれば幸いです。

シンガポールに行ってみよう!

学生時代から海外に興味があり、バックパッカーとして旅をしていました。
公認会計士試験直後には南米に渡り2ヵ月間過ごしました。
監査法人に勤務していた時も、長期休暇には必ず海外に行っていました。
シンガポールへ渡る前は監査法人の国際部で働いていましたが、早く海外で経験を積みたいという思いが非常に強かったです。
そんな中、シンガポールにある会計コンサルティング会社から現地採用のオファーを頂きました。
「とりあえず行ってみよう!」くらいの勢いでシンガポール行きを決めました。

▶シンガポールの夜景

シンガポール、家賃が高い!

スーツケースひとつ分だけの荷物を持ってシンガポールに渡り、バックパッカーが泊まるような安宿に泊まり家探しをしました。
衝撃的だったのは、家賃の高さです。日本の倍の価格は当たり前でした。

ひとまずシェアハウスで暮らすことにしましたが、バックパッカーの経験があったためか、外国の方との共同生活も楽しむことができました。

多忙な中、現地の厳しさを思い知らされた

シンガポールに渡った2015年は、シンガポールでの会社設立から会計税務関連業務を行っていました。当時は日系企業のシンガポール進出ラッシュで、連日のように会社設立の問い合わせを頂いていました。

しかし、そんな中、困ったことが起きます。当時の私は27歳で、シンガポールでの実務経験も初めてのことばかりでした。一方で、現地業務サポートスタッフの方々は年上で実務経験も豊富でした。
サポートをお願いしても話を聞いてもらえないという状況が続き、とてもきつかったのですが、その悔しさをバネに働いたことも今となってはよい思い出です。

月の半分は海外出張

2017年頃から海外出張の機会が増え、月の半分はシンガポールから世界中のさまざまな国々に出張していました。
海外出張先で行っていた業務は、主に内部監査・内部統制関連業務やデューデリジェンス業務です。
海外で仕事をすることは華やかなイメージもありますが、現場では地道な作業が多いです。
内部監査でとんでもない量の現金が発見されたり、デューデリジェンスの際に二重帳簿が出てきたりと、日本では想像できない大きなサプライズが潜んでいることもあります。

そんな海外だからこそ、コミュニケーションが非常に重要です。
私は、仕事時にちょっとした会話をするよう心がけており、仕事後には一緒に食事に行くなどして関係作りを重視しています。ちょっとした会話の中にとても重要な情報が含まれていることが多々ありますし、異なる文化で育った方々から学ぶことも非常に多いです。

フィリピン拠点の立ち上げ

2019年には、前職でフィリピン拠点の立ち上げを担当しました。
シンガポールにいながら、月のうち1週間程度をフィリピンで過ごしていました。
会社としてシンガポールからアジア諸国に進出することは決まっていましたが、具体的にフィリピンに拠点を立ち上げるとまでは決まっていない段階からスタートしました。

進出候補先の国々を訪問し、ビジネスパートナーになりうる方々や現地の会計事務所と面談しながら、進出先を検討しました。
結果的にフィリピンに進出することに決め、現地の会計事務所と提携する形で拠点の立ち上げを行いました。
200名程度のフィリピン人従業員がいる会計事務所の中で、外国人は私ひとりだけでした。現地の方々とコミュニケーションをとりながら、主に内部監査・内部統制関連業務やデューデリジェンス業務を行いました。

フィリピンは、東南アジアの中でも独特な文化を持つ国です。
貧富の差が激しく、カトリックならではのチャリティー精神が根付いています。私も、チャリティーイベントなどに参加させてもらいました。
また、フィリピン人はパーティー好きで、9月からクリスマスを祝いはじめます。

人々の消費意欲が旺盛で、給料を1ヵ月に2回支払う必要があります。日本人は先々を考えて貯金をしますが、フィリピンでは今を楽しむことを重視しており、給料が振り込まれたら使い切ってしまう方が多いため、月に一度の給与払いだと厳しいようです。

シンガポールでのビジネス

現在は、シンガポールで会計事務所を営んでおります。

シンガポールのビジネス上のメリットは数多くありますが、特に立地や税制の面で大きなメリットがあります。

シンガポールは東南アジアの中心に位置しており、東南アジア諸国へはほとんどが2時間程度のフライトで行けるため、日本の国内出張感覚で海外出張が可能です。このため、シンガポール市場はもちろんのこと、東南アジア全域を市場と考えている日系企業や経営者との相性が非常にいいです。

私は東南アジア市場を見据えてシンガポールで挑戦されているお客様から毎日刺激を頂いていますし、私自身もシンガポールのみならず東南アジア諸国で業務を行うことも多いので、この立地には非常に満足しています。

また、シンガポールは法人税・所得税率が低く、キャピタルゲインが非課税であるなど、税制上のメリットが大きいです。この点は、海外展開を行う日系企業や経営者にはもちろんのこと、富裕層の方々との相性も非常にいいです。世界中から富裕層がシンガポールに集まるため、多くのプライベートバンクがシンガポールに拠点を構えています。

最後に

海外で働くという決断は確かに人生の転機になりますが、難しく考え過ぎる必要はないと思っています。
海外に来ると、今までとは全然違った選択肢も見えてくるものです。
もし海外で挑戦してみたいという思いがあるなら、一度飛び込んでみるのもありだと思います。
機会があれば、海外で挑戦されている方々や海外で働いてみたい方々とお話できたら嬉しいです。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。

執筆者紹介

林 竜太(はやし りょうた)

シンガポールの会計事務所Pure Consulting Pte. Ltd. 代表取締役/公認会計士


シンガポール歴10年目
慶應義塾大学卒業後、有限責任監査法人トーマツ、AGS Consulting Singapore Pte. Ltd.を経てPure Consulting Pte. Ltd.を創業。シンガポールで、会社設立から会計税務まで含めワンストップで支援を行っている。また、東南アジア諸国で、海外子会社の内部監査・内部統制関連支援、財務デューデリジェンス業務を提供。
さらに、HITOSAJIYAという調味料ブランドの経営も行っている経験を活かし、日系企業の海外進出に関連する経営コンサルティングも手掛けている。
・事務所ホームページ(https://pure-cslt.com
・HITOSAJIYAホームページ(https://hitosajiya.com

<こちらもオススメ>
「海外で働く公認会計士のリアル」

▶︎「中国(北京・上海)編(津田 覚)

▶︎「シンガポール編(林 竜太)

▶︎「インド編(野瀬大樹)

▶「アメリカ(ニューヨーク)編(吉井達哉)

▶「イギリス(ロンドン)編(森 大輔)

▶「アフリカ(ルワンダ)編(笠井優雅)


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