穂坂 治宏(税理士)
「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識基準」という。)は、各種資格・国家試験でもすでに数多くの出題がなされています。
また未出題論点も多く、今後も理論・計算ともに多くの出題が予想されます。
「収益認識基準」は、従来の会計基準とは異なり、国際会計基準の規定を受け入れた基準であり、その文言自体が読みにくいとの声をよく聞きます。
そこで出題が予想されるもののわかりにくい「収益認識基準」における収益認識の基本的な考え方を振り返り、どのような点に注意して学習を行うべきか考えてみました。
基本となる原則
まずは「収益認識基準」の基本原則である第16項の規定をみておきましょう。
本会計基準の基本となる原則は、約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益を認識することである。
従来の収益認識の考え方が実現主義です。
実現主義では、商品販売なら①商品の販売と②現金等の対価の受領という2つの要件を満たすことで収益が認識されます。
「収益認識基準」における収益認識では、①商品を顧客に移転し、②対価の額で収益を認識するのですから、実現主義による収益認識と大きな違いはありません。
あえていえば実現主義では、収益を認識するタイミングのみが問題なのに対して、「収益認識基準」の収益認識には、その金額の決定が含まれています。さらに収益の測定について「見込み」の要素を含んでいる点が従来の収益認識とは異なります。
「収益認識基準」における収益認識には、見込みによる測定の要素を含む点がこれまでの収益認識との違いです。
このような特徴を前提に従来とは異なる「収益認識基準」における収益認識を具体的なステップに従って考えてみましょう。
5ステップによる収益認識
「収益認識基準」における「顧客との契約による収益」の認識は、次の5つのステップにより行います(収益認識基準17)。
(け)① 顧客との契約を識別する。 (り)② 契約における履行義務を識別する。 (と)③ 取引価格を算定する。 (ば)④ 契約における履行義務に取引価格を配分する。 (し)⑤ 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する。 |
「けりとばし」は、「収益認識基準」を蹴り飛ばしてやりましょう!との語呂合わせです(大日方隆先生@tobin1022作)。
① 「収益認識基準」における収益認識の第一ステップは、顧客との契約を識別することです。
まずは契約の内容を契約書等で確認します。
② 次にどのような履行義務を行うかを把握します。
例えば定期保守サービス付の商品販売なら商品の引渡義務と保守サービスの提供義務が該当します。
③ 取引の総額である取引価格を算定します。
④ ③で算定した取引価格を②の履行義務に配分します。
定期保守サービス付の商品販売では、取引価格をそれぞれの履行義務に配分します。
⑤ 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識します。
商品販売を行った段階で商品販売に係る収益を認識し、定期保守サービスの提供に係る収益はいわば経過勘定項目のように期間的に認識します。
「収益認識基準」における収益認識は、見積りを加味しますが、収入を基礎とする従来の収益認識の考え方が劇的に変わったわけではありません。
「収益認識基準」による収益認識は、収益費用アプローチによる収益認識といえるでしょう。
もっとも「収益認識基準」における収益認識は履行義務の充足により行われることから資産負債アプローチによる収益認識といわれることもあります。
これは必ずしも利益の測定に着目したものではなく、タイミングのみに関するものといえそうです。
実現主義の具体的な適用基準としては引渡基準が原則として採用されます。
これに対して「収益認識基準」では、顧客に対する財やサービスの移転は、顧客がその財やサービスの支配を獲得したときに行われるため(収益認識基準35)、検収基準が原則的な基準であるとされます。
どのようにアプローチするか?
「収益認識基準」の学習では、具体的な取引が収益認識の基本原則及び5つのステップのどこに該当するのかを考えながら学習するとよいでしょう。
また、「収益認識基準」では、契約と履行義務が重要な位置を占めています。
契約により履行義務が生じ、その履行義務との入れ替わりで収益が認識するというイメージを持てると「収益認識基準」が少しだけ身近に感じられるのではないでしょうか。
収益認識の基本原則と5ステップを中心に「収益認識基準」を攻略しましょう!
〈執筆者紹介〉
穂坂 治宏(ほさか・はるひろ)
税理士試験の簿記論と財務諸表論の受験指導をしている税理士。ネットスクールで簿財(標準)を担当。本誌「会計人コースWEB」への執筆も多数。著書に『ど素人でもわかる簿記・経理の本』(翔泳社)などがある。
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