5月23日に令和3年公認会計士試験短答式試験が実施されました。
受験された皆さん、手ごたえはいかがだったでしょうか。SNSを見ると、「難しかった」という感想をはじめ、さまざまな声を目にします。
すでに8月の論文式試験の勉強を始めている方はもちろん、12月の短答式試験を視野に入れている方もいらっしゃるかもしれません。
そこで、福岡大学准教授・公認会計士で、受験指導にも熱心に取り組まれている井上修先生に今年の短答式試験を振り返っていただきました。
また、次回の短答式試験を視野に入れている場合、どう対策すべきかについても、お話を伺いました。
管理会計論は難、財務会計論は捨て問あり
――5月23日の短答式試験は、井上先生からみていかがでしたか? 特に「管理会計論が難しかった」という声を耳にします。
井上先生 管理会計論、難しかったですね。ただ管理会計論は、前回は少しだけ簡単になりましたが、例年難問が出されてきた科目なので、少し前の管理会計論に戻ったな、という印象です。
今回は「解なし」と評判の第1問をはじめ、容易に解答できる問題が少なかったといえます。特に、後半の「管理会計」の問題に経営学の視点が混じっており、少し面食らってしまった受験生も多かったと思います。
そのため、いわゆる「管理会計」の論点では、あまり差がつかない可能性があります。他の科目でそれなりにできたか、これが合否の分かれ目になるかもしれません。
――難問続きの管理会計論。対策はあるのでしょうか?
井上先生 学生からも「管理会計論がまったくできなくて、どうすればいいのか」という質問が多く寄せられました。ただ、いつも伝えているのですが、管理会計論が受験生にとって難しいのは当然なんです。なぜなら、いわゆる「管理会計」の部分は、短答式試験の他の科目とは異なり、法的な規制のない領域ともいえるからです。
企業法・監査論・財務会計論には、もととなる法律や基準がありますよね。管理会計論も「原価計算」には基準がありますが、「管理会計」は基本的には法的な規制に基づく必要がなく、また、経営学の視点も求められると言われています。
受験勉強という枠組みで見れば、「この基準の、この規定に基づいている」という拠り所が少ないので、限られた時間のなかでは、理解にブレが生まれやすいかもしません。また、作問する側も少し自由な出題が可能ともいえます。
そのため、仮にしっかり勉強した場合であっても、本試験では「見たことがない」「聞いたこともない」ということも起こりうると思います。
だからこそ、管理会計論(特に「管理会計」の領域)には、“国語力”とでもいうのでしょうか、「現場で出題者の意図や問題文を正確に読み取る力」が他の科目以上に求められるともいえます。
とはいえ、「今回の短答式試験で管理会計ができなかったから、次こそ管理会計を重点的に頑張ろう」と気負う必要はないと思います。先ほど述べたように、「管理会計」は法的な規制に基づかない学問領域ともいえますので、限られた時間で、どんな試験問題にも対応できるレベルまで極めることは少し効率が悪いかもしれません。
まずは、「原価計算」や財務会計論の計算をしっかり固め、法規制(範囲)がはっきりしている他の科目、今回であれば、企業法や監査論で高得点がとれるように対策することを忘れないでいただきたいです。
――管理会計論にはそんな特徴があるのですね。他の科目はいかがでしょうか?
井上先生 財務会計論でも、少し意地悪な出題があったといえます。論点として簡単のように思えても、解いてみたら泥沼……という方も多かったのではないでしょうか。逆に、最後のほうに比較的簡単な問題があったり……。
そのため、財務会計論は、いかに問題を見切って「次に進む勇気」をもてたかがポイントになったのではないかと思います。
企業法と監査論は、企業法で少し難しい判例も出題されましたが、監査論は過去問ベースで比較的解きやすく、おおむね例年どおりの難易度だったと思います。
――今回の財務会計論のように「捨て問」を見極めるのが難しい場合、どうすればよいのでしょうか?
井上先生 たしかに私も、簡単そうな論点は、「いける!」と思って解いてしまいます。なにせ簡単そうに見えるので(笑)。こういった場合は、常日頃から自分の中で方針を決めておくとよいと思います。たとえば、「5分以上かかったら次の問題にいく」というように。
ただし、練習の段階で実践しておかないと、「見切りをつける感覚」は養いにくいです。本番であればあるほど、取り掛かった問題には固執してしまい、時間を浪費しがちです。「自分が解けない問題は周りも解けない」と、思い切って次の問題に進む勇気も大事だと思います。
短答合格が不安でも論文の勉強は始めよう!
――「今年の短答式試験がダメかもしれない」という方は、次回の12月までどのように勉強をすればよいでしょうか。
井上先生 まずは、今年の短答式試験に自信がなくても、論文式試験の勉強をしてみるのがオススメです。いわば短答式試験は枝葉(細かい知識)を勉強するもので、論文式試験は幹(もととなる知識)を勉強するものです。木の幹があってこその枝葉なので、論文式試験の勉強は、短答式試験にも活きてきます。逆に、短答式試験の復習を今からしたところで、すぐに枯れてしまう枝葉、つまり忘れてしまう知識を詰め込むだけになりかねません。
今年はボーダーラインや合格者数が例年とは異なる可能性もあるので、もしかすると8月の論文式試験に進めることもあるかもしれませんよね。そうしたら御の字です。たとえ12月の短答式試験に目標を移したとしても、まずこの3ヵ月は論文式試験の勉強に特化することをオススメします。どちらにせよ活きてくる勉強です。
ただし、まだ一概には言えませんが、今回の自己採点で総合55%を切った場合、租税法と経営学については、結果が出るまでは手をつけず、その他の科目を中心に勉強したほうがよいでしょう。
――具体的な勉強方法はありますか。
井上先生 計算を重視しつつ、テキストで理論の読み込みをしてください。できれば全体をもう一度1周してほしいです。たとえば、「テキストの後ろから読む」という方法がオススメです。
“受験生あるある”ですが、前半は張り切って読んで書込みまでしたりするのに、後半は時間がなくなってじっくりとは読まなくなる……なんてことはありませんか? いま一度、時間をとって論点をまんべんなく読み込んでみてください。
その際は、ただ暗記するのではなく、理解することが重要です。「理解する」というのは漠然としたことですが、まずは、テキストを読んでいて「腑に落ちるかどうか」「意味がわかるかどうか」を目安にしてみてください。
ピンチをチャンスに捉えよう
――今回の短答式試験でモチベーションが下がってしまった方もいるかもしれません。勉強のモチベーションを上げるには、どうすればよいでしょうか。
まず今回の短答式試験でダメだったとしても、過度に落ち込む必要はありません。なぜなら、5月短答よりも12月短答に合格したほうが、最終的に論文式試験に合格しやすいともいえるからです。
短答式試験は自己採点ができるため、今回の5月短答が思うようにいかなかった方は、今すぐにでも次の本試験に向けて再スタートを切ることができます。気持ちを切らすことなく、継続的な勉強ができる状況なのです。
また、12月合格の場合は、論文式試験まで時間があるので、心に余裕が生まれ、租税法や経営学もじっくり勉強できます。むしろ、多くのチャンスが与えられたと思って、ぜひ前向きに挑戦していただきたいです。
――参考になるお話をありがとうございました!
〈お話を聞いた人〉
井上 修(いのうえ・しゅう)
福岡大学准教授・公認会計士
慶應義塾大学経済学部卒業。東北大学大学院経済学研究科専門職学位課程会計専門職専攻、同大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。研究分野は、IFRSと日本基準の比較研究、特別損益項目に関する実証研究。福岡大学では「会計専門職プログラム」の指導を一任されている。当プログラムでは、現役の大学生が多数、公認会計士試験や税理士試験簿記論・財務諸表論に在学中に合格を果たしている。本プログラムから2018年は10名、2019年は5名、2020年は6名が公認会計士試験に合格。