髙橋 創
しかし驚きましたね、チュートリアルの徳井さん。3年に1度税務署に指摘されながらの9年間無申告というのはなかなかの図太さです。途中差し押さえもあったようですから、「メンタル強いなぁ……」というのが率直な感想でした。
実はこの第一報を聞いたとき、その報道の内容にはかなりの違和感がありました。今回はその違和感及びそのときにたててみた仮説(というより妄想)をお届けします。
違和感の内容
まず「3年間の無申告で1億2,000万ほどの課税もれ」と聞いたときには、「案外少ないな……」というのが第一印象でした。年換算したら利益4,000万円でしょ? あれだけの売れっ子ですから仮に1億稼いでいたとしたら経費は6,000万円。1人だけでやっている会社でそれだけの経費をなかなか使えるものではありません。それなのにこの程度の課税もれなの? というのがまず最初の驚きポイント。
2つめはプライベートの支出が経費に混入していたことが重加算税の対象となっていた点。重加算税は罰金の中ではラスボスです。経費についての「見解の相違」程度ではなかなか登場しません。というかラスボスがしょっちゅう登場しても困る。さらに期間も7年分。通常は5年までですので、よほど悪質と思われたのでしょうか。「見解の相違」くらいのことで? そんなこんなで「処分が重すぎなのでは?」という感想でした。
悪意のある妄想ですけども
ここで思い出したのが5年前くらいの裁判。明らかな脱税をしていた納税者が、そのことを指摘された際に「税務調査の際に、調査官から脅迫的な言動があり、その恐怖心によって修正申告させられた」として税務署を訴えた事例です。納税者が問題とした脅迫的な言動とは、「認めないならば、あと3年分の合計10年分を調査しなければならなくなるし、青色申告もできなくなるよ。」というもの。これが本当だとしたら心底恐ろしい。私だったらすぐ認めます。
最終的には納税者の主張は認められませんでしたので問題となる言動はなかったという判決が出たわけですが、税務調査の際にはこういう駆け引き的なものがないとは言えません。もしかしたら徳井さんの場合にも、重加算税や7年間の調査ということを認めさせる代わりに追徴税額が少なくなるようなことをにおわされたのではなかろうか。場合によっては「認めたら内々ですませてあげるから」といったような囁きがあったのではなかろうか。違和感とともにそんな妄想がだいぶはかどる事案でしたね、これは。実際にはそんなことはないのかもしれませんが。
〈執筆者紹介〉
髙橋 創(たかはし・はじめ)
税理士
税理士講座の所得税法講師、会計事務所勤務を経て、新宿で独立開業。新宿ゴールデン街のバー・無銘喫茶のオーナーでもある。著書に『フリーランスの節税と申告 経費キャラ図鑑』、『税務ビギナーのための税法・判例リサーチナビ』(ともに中央経済社)、『図解 いちばん親切な税金の本 19-20年版』(ナツメ社)がある。YouTubeで『二丁目税理士チャンネル』を運営中。
※ 本稿は、『会計人コース』2020年1月号に掲載した記事を編集部で再編成したものです。
記事一覧
第1回:家族旅行を経費にしようとしてはいけません
第2回:絶妙な言い訳なのか、苦しい言い訳なのか
第3回:世の中は「原則」と「特例」だけでできている?
第4回:悩み多きユーチューブ
第5回:有名人の話は妄想がはかどります
第6回:タイミングは大事というお話
第7回:I Love サンゴ礁
第8回:「ごめんなさい」で許される?
第9回:税金もウイルスには勝てないようです
第10回:おしゃれオフィスに引っ越したいけれど
第11回:テレワークの最大の敵は布団
最終回:次は酒場でお会いしましょう