【経済ニュースで読み解く会計】「自分のせいじゃない」には意味があったかも?―影響可能性原則と管理可能性の適切な水準


東京理科大学経営学部・准教授 岩澤佳太

【編集部より】
話題になっている経済ニュースに関連する論点が、税理士試験・公認会計士試験などの国家試験で出題されることもあります。でも、受験勉強では会計の視点から経済ニュースを読み解く機会はなかなかありませんよね。
そこで、本企画では、新聞やテレビ等で取り上げられている最近の「経済ニュース」を、大学で教鞭を執る新進気鋭の学者に会計・財務の面から2回にわたり解説していただきます(執筆者はリレー形式・不定期連載)。会計が役立つことに改めて気づいたり、新しい発見があるかもしれません♪ ぜひ、肩の力を抜いて読んでください!

前回、管理可能性原則という考え方を紹介しました。教科書は「管理できることだけで評価せよ」と教えるのに、実務ではそうなっていない。しかも、それは世界中の企業で共通して観察される現象であるという話でした。

では、企業の業績評価制度はデタラメなのかというと、そうではありませんでした。前回の最後に提示した問いに、今回は答えていきたいと思います。手がかりは、あの決算ニュースの中にあります。同じ関税環境のもとで、赤字に転落した自動車メーカーと、利益を確保したメーカーがありました。この差はどこから来たのでしょうか。

「管理できない」と「影響できる」は違う:影響可能性原則

前回の話を聞いて、こう考えた方もいるかもしれません。「管理不能なものは評価から外すべき。当然だ」と。たしかに、管理可能性原則はそう主張します。

しかし、少し立ち止まって考えてみてください。たとえば関税は一企業には動かせません。これは事実です。でも、関税の「影響を小さくする」ことはどうでしょうか。

たとえばホンダは、通期で期初に4,500億円と見積もっていた関税影響額を、部品の現地調達化を進めることなどで3,100億円まで圧縮する見通しを示しました[1]。関税率そのものは変えられなくても、調達先の地理的多様化や現地生産比率の引き上げで影響を縮小する余地はあったのです。米国での価格改定によって利益を押し上げたことも、管理不能な関税に対する能動的な対応でした。

こうした例は製造業に限りません。たとえば飲食チェーンのエリアマネジャーを想像してみてください。最低賃金の引き上げで人件費が上昇した。最低賃金は政策で決まるもので、エリアマネジャーには動かせません。しかし、シフトの効率化やオペレーションの見直しで、人件費の上昇分をある程度は吸収できる。関税もそうですし、最低賃金もそうですが、「管理できない」ことと「何もできない」ことは同じではないのです。

ここで登場するのが、「影響可能性原則」という考え方です。管理可能性原則が「管理できることだけで評価せよ」と主張するのに対し、影響可能性原則は、直接管理はできなくても、影響を与えることができる範囲にまで責任を拡張する考え方です。

この違いは、非常に重要です。管理可能性原則を厳格に適用すると、たとえば「外的要因は管理できない→だから自分の評価とは無関係→対策する必要がない」という思考停止が起こりかねません。しかし現実には、外的要因への対応力、つまり「影響可能な領域」でどれだけ工夫したかが、業績格差を生んでいます。

影響可能性原則の観点からすれば、企業が管理可能性原則を厳密に適用しない理由が見えてきます。たとえば工場長に関税等の外的要因の責任を一切負わせなければ、「関税対策は自分の仕事ではない」と思考停止してしまう。
しかし、あえて一部の責任を負わせることで、「自分にできる範囲で影響を与えよう」、「他部門に何かいい対策はないか働きかけよう」という現場の創意工夫やコミュニケーションを引き出す、そういう設計思想があるのです。

では、何でもかんでも責任を負わせればいいのか?

ここまで読むと、「それなら管理不能な要素も全部責任に含めてしまえばいいのではないか」と思うかもしれません。影響可能性を広く認めて、ミドルにもっと多くの責任を負わせればよいと。

しかし、これもうまくいきません。影響可能性の範囲を際限なく広げると、ミドルマネジャーに過大な責任を負わせることになります。「関税も為替も地政学リスクも競合動向も、全部お前の責任だ」と言われたら、どんなに優秀なマネジャーでも疲弊します。「何をやっても正当に評価されない」と感じれば、モチベーションは低下し、創意工夫どころではなくなるでしょう。

つまり、管理可能性が「高すぎても低すぎてもダメ」という問題が浮かび上がります。ここで問われるのは、「管理可能性の適切な水準はどこにあるのか」ということです。これは理屈だけでは答えが出ない問いであり、実際の企業でデータを取って検証する必要があります。

管理可能性は「中程度」がいい―筆者らの研究

筆者らは、この問いに実証的に取り組みました(Iwasawa, Masuya and Onitsuka, 2025)。研究対象は、日本の教育ビジネスを展開する、ある企業のミドルクラスのマネジャーたちです。

この企業では、ミドルマネジャーが担当地区の予算達成の責任を負っています。教室の運営費用の多くは教室長が管理できます。しかし、たとえば広告宣伝費は、本部のマーケティング施策にも依存するため、教室長には部分的にしかコントロールできません。このように、「管理可能なコスト」と「部分的にしか管理できないコスト」が混在している環境です。

この調査では、定性的なインタビュー調査と定量的な質問票調査を組み合わせた混合法を用いて、ミドルマネジャーの管理可能性の知覚とパフォーマンスの関係を分析しました。

結果は興味深いものでした。管理可能性の知覚とパフォーマンスの間には、逆U字型の関係、つまり、管理可能性の程度が中程度のときにパフォーマンスが最も高くなることが統計的に確認されたのです。

なぜでしょうか。分析の結果、そこには2つのメカニズムが同時に働いていることがわかりました。

1つ目は、「役割明確性」です。予算に対する管理可能性が高まると、「自分は何をすべきか」が明確になります。目標予算を達成するという役割がはっきりする。これは管理可能性を高める効果です。

2つ目は、「役割柔軟性」です。広告費のように部分的にしかコントロールできないコストが配賦されると、教室長は「このコストにどう対処するか」を自分で考える必要が出てきます。たとえば地域特性に応じて、自分で効果的な広告のかけるべきエリアを検討して広告部門に提案するなどです。
これが、役割を柔軟に捉えて創意工夫する動機になるのです。

管理可能性が中程度のとき、この2つがバランスします。「やるべきことは明確で、しかも自分の工夫で結果を変えられる余地がある」この状態が、ミドルマネジャーのパフォーマンスを最大化することをデータから明らかにしました。

逆に、管理可能性が高すぎると、役割は明確になりますが、「言われたことだけやればいい」という硬直が生まれます。管理可能性が低すぎると、そもそも何が自分の仕事なのかが不明確になり、予算達成に向けたモチベーションを失います。

「俺のせいじゃない」に意味があった

ここまで読んで、前回の問いに対する答えが見えてきたのではないでしょうか。教科書どおりなら、管理不能な要素は業績評価から除外されるべきです。しかし実務の多くの企業は、あえてそうしていない。それは制度設計のミスではなく、意図された仕組みだった可能性があるということです。

管理不能な要素を一部含めることで、中間管理職に「自分の持ち場を超えた視野」を持たせる。「関税は動かせないが、その影響を小さくする方法を自分で考える」。そういう思考と行動を引き出す設計です。「知った上で意図的に厳密には適用していない可能性があった」のです(Merchant,1987)。

もちろん、バランスは大切です。管理不能な要素を負わせすぎれば、現場は疲弊します。筆者らの研究が示すように、管理可能性は高すぎても低すぎてもパフォーマンスが下がる。適切な水準は「中程度」。この上手なコントロールこそが、管理会計や業績評価の設計で求められることなのかもしれません。

前回の冒頭では、業績未達だった際、「これって俺のせいじゃないですよね?」と叫びたくなった工場長がいました。彼の叫びは、もっともです。
関税やエネルギー価格の乱高下は確かに、彼には動かせません。でも、彼の会社が彼にそれを評価に含めていることには、実は意味があった可能性があります。関税やエネルギー価格の影響を小さくする工夫、たとえば調達先の多様化、現地生産比率の引き上げ、価格転嫁の交渉、そうした「影響可能な領域」で、彼に動いてほしかったのかもしれません。

会計の勉強をしていると、ルールや原則を覚えることで精一杯になりがちです。でもルールの先には、「なぜそのルールがあるのか」、さらに「そのルールをどう使いこなすとどういうことができるのか」という、もっと面白い世界が広がっています。
管理可能性原則は、その入口の1つです。与えられた条件で問題を解くだけでなく、会計ルールを使いこなして組織を導くことができる。そこに管理会計の醍醐味があります。
差異分析や責任会計の論点も、単なる暗記事項ではなく「組織を動かすための設計思想」として見ると、さらに面白くならないでしょうか。
興味を持ったら、ぜひ色々な書籍や論文を手に取ってみてください。

(編集部注:本記事の内容は脱稿時(5/11)の情報に基づいています)


[1]本田技研工業「2025年度第3四半期決算説明会資料」(2026年2月10日)および「2025年度決算説明会資料。

【参考文献】
Iwasawa, K., Masuya, K., & Onitsuka, Y. 2025. Application of controllability principle in the context of structural empowerment: Examining performance outcomes based on U-shaped perspective. Asian Review of Accounting, (In press).

【この記事を書いてくれた人】
岩澤佳太(いわさわ・けいた)
東京理科大学経営学部准教授。2021年度慶應義塾義塾大学大学院商学研究科修了、博士(商学)。専門は管理会計およびコストマネジメントで、定量的・定性的なアプローチから日本企業の管理会計実態の解明に関心がある。
日本会計研究学会 学会賞・学術奨励賞、日本原価計算研究学会 学会賞(論文賞・奨励賞)など受賞歴多数。


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