税理士・森川敏行先生に聞く! キャリアチェンジの時に大切にしたこと


森川敏行(税理士)

【編集部より】
令和8年度税理士試験を受験された皆さま、お疲れ様でした。束の間の夏休みを過ごす方もいらっしゃるのではないでしょうか。一方、例年、試験明けには就職説明会が実施されることも多く、就職・転職活動をスタートする方も多いはずです。そこで、本企画では経験豊富な税理士の方々に、キャリアを考えるときに大切にしてほしいことについてお聞きしました。

簿・財に合格してから就職する

私自身が税理士試験を受けたのはずいぶん前ですが、当時の経験を振り返って書きます。

会計事務所に就職してから、簿記論と財務諸表論を受講する方もいますが、個人的にはお勧めしません。できれば、はじめての簿記論と財務諸表論は学生のときに勉強するか、仕事をしないで受験勉強することをお勧めします。

望ましいのは2科目を合格してから会計事務所に就職することです。難しければ、せめて1科目合格してから就職先を探します。
というのは、簿記論と財務諸表論は関連性が高いので最初は2科目まとめて勉強しますが、2科目を働きながら勉強するのは大変難しいからです。

専門学校の授業とは別に、毎日長時間の勉強が必要です。

会計事務所に働きながら簿記論と財務諸表論の勉強をすると、はじめは頑張るのですが途中から授業についていけなくなります。合格ラインに達しないと途中から受講をやめてしまう。そんな状態が2年も続くと税理士試験自体を諦めてしまいます。

できるだけ簿記論と財務諸表論の合格まで専念にし、合格後に就職活動をするほうが税理士に早く近づけます。
親に迷惑かけたくないという人もいますが、早く合格するほうが親孝行です。

どうしても仕事をしないといけない人は、せめて合格レベルに達してから働くことを勧めます。

迷わず大学院にいく

簿記論と財務諸表論の2科目が受かれば何とかなります。残り税法1科目の合格を目指します。

本当は法人税法か所得税法のどちらかを勉強するのが理想です。税理士という仕事をする上でこれらの税法は根幹になります。1年はみっちり勉強するほうが望ましいので、どちらかの科目を合格するのが理想です。

ただし、こだわってはいけません。厳しそうであれば他の税法で構いません。消費税法や相続税法、ボリュームの少ない国税徴収法でもいいのです。

税理士試験はあくまで税理士になるための手段です。学生の方なら法人税法や所得税法を一度は受験することを勧めますが、最短で合格することを重視するなら勉強時間が少ない科目を選びます。

3科目に受かれば、あとは大学院で勉強をします。無事に大学院を修了し、国税審議会から認定されれば税理士資格が手に入ります。

大手の事務所を目指す

会計事務所はできるだけ大きな事務所に就職することを勧めます。これは大手事務所で定年まで働くことを勧めるわけではありません。

大手事務所は顧問先の件数がたくさんあります。売上の大きな法人や相続税の申告も大型案件があります。そうした数多くの事例や経験を積むことで自身の能力が上がります。

また、大きな事務所だと大勢の人が働いています。自分より経験豊富な人もたくさんいます。そうした人と仕事の話や相談ができる。その経験が何よりも得難いものです。

会計事務所は転職が当たり前の業界です。大手事務所での経験があれば、転職する際でも他の事務所に転職しやすくなります。

小さな事務所でも転職できますが、大きな事務所を経験しておくと、その後の転職先の幅が広がります。できれば大きな事務所を経験するほうがいいです。

営業の経験をしておく

これは皆が経験できることではないかもしれませんが、できるだけ営業の経験を積んでおくことを勧めます。

自分が働いている会計事務所にどんな営業ルートがあるかを調べます。
ネットで集客しているのか、金融機関からの紹介なのか。
新規で顧問先になったところはどういう経緯で顧問になったかを研究します。

営業担当の部署がある事務所であれば、自ら営業を志願するのも方法です。そうすれば営業のノウハウを学ぶことができます。

これから開業をするのなら、営業のノウハウを身につけてから開業することを勧めます。

税理士は会計業務や税務申告はできますが、営業経験がない人がほとんどです。
税理士になって独立したのはいいけど、どうやって顧客を開拓したらいいのかわからない人が多い。

かくいう私もその一人です。独立してから金融機関にあいさつに行きましたが、それきりで終わりました。どうやったら顧客を紹介してくれるか、深く考えたことがなかったのです。そのため何年も顧問先が増えずに苦戦しました。

だから営業を積極的に行っている事務所で働いて、そのノウハウを学んで独立したほうがいいです。

できるだけ円満に退職する

会計事務所を辞めて独立するとき、内心は不満があって辞めることも多いかもしれません。そうした気持ちがあっても封印をして円満に退職しましょう。

この業界は狭いです。トラブルで辞めると話が知れ渡ることもあります。それだけでなく、どこで誰と繋がるかわかりません。

私の例でいうと、勤務した会計事務所で金融機関のAさんと仕事をしていました。数年後、私は東京の事務所を辞めて京都で独立しました。

すると、同じ頃にAさんも関西に転勤になりました。

Aさんから所長に「転勤したので関西の税理士を紹介して欲しい」と連絡がきたのです。所長が私を繋いでくれて、再びAさんと関西で仕事をすることになりました。まさに人との縁を感じる出来事でした。

また、事務所を退職後、自分が担当していた顧問先を外注扱いで依頼されることもあります。独立すると収入がいきなりゼロになります。独立当初から収入があると大変助かります。

揉めて辞めていいことはありません。独立するときはできるだけ円満に退職しましょう。

【執筆者紹介】
森川 敏行(もりかわ としゆき)

税理士
1967年京都市生まれ。同志社大学商学部卒業。1994年に税理士登録。
大手税理士法人の医療事業部部長を経て、1998年森川会計事務所を開所。大手歯科メーカーの「歯科開業セミナー」の講師を20年以上続けている歯科専門の税理士。会計税務だけでなく開業立地からマーケティング、内装までも相談に応じる。モットーは「お客様と開業10年たっても共に喜びを分かち合いたい」
著書に、『患者に選ばれる歯科医院の開業と経営Q&A70』(中央経済社)、『歯科医院の円満な引継ぎ方・終わらせ方』(クインテッセンス出版)がある。
・Xアカウント(@fx_travel

【著書紹介】

患者に選ばれる歯科医院の開業と経営Q&A70』(森川 敏行、中央経済社)



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