税理士・税理士試験受験生のための不動産鑑定士試験入門ーー5位合格者が教えるノウハウ


東恩納拓麻(税理士)

【編集部より】
税理士や税理士試験受験生の中には、不動産鑑定士試験に興味がある方もいらっしゃるかと思います。本稿では、税理士で、不動産鑑定士試験に5位合格したという猛者、東恩納先生に勉強法についてご執筆いただきました。

はじめに

沖縄で唯一の相続税専門の税理士事務所で修行中の税理士の東恩納拓麻(ひがしおんな・たくま)と申します。
勉強をはじめて1年9ヵ月で不動産鑑定士試験の論文式試験において全国5位で合格することができました。

最初から上手くいったわけではなく、勉強をはじめて9ヵ月で受験した1回目の論文式試験は407位(871人中)で不合格でした。407位不合格から5位合格へレベルアップできた理由は、所長の石川から教わった勉強法を実践したことです。

407位→5位!

その勉強法は、一言でいうと「範囲を絞り込んで、理解と反復を重視する勉強法」でした。
この記事では、この勉強法を中心に共有させていただきます。

また、所長の石川(公認会計士・税理士・不動産鑑定士)が会計人コースWebのコラム「独立開業日誌」で取り上げられているので、気になる方はぜひお読みいただければと思います。

なぜ税理士・不動産鑑定士を目指したか

「なぜ税理士・不動産鑑定士に?」とよく聞かれます。
まずは、簿記を始めたキッカケから振り返りたいと思います。

兄へのコンプレックス

私には2個上の兄がいて、小・中・高・大まで同じ進路(部活も小学校から高校までずっと同じサッカー部)を進んできました。

高校の成績はオール5、サッカー部では常にレギュラーで地区の優秀選手にも選ばれ、おまけに身長も186センチと非の打ち所がないバッチリな兄でした。私は学校の成績はボチボチですが、サッカー部では万年補欠、高校3年最後の大会ではベンチ入りもできない状況で、ダメな自分と優秀な兄をいつも比較してばかりでした。

大学生の兄に対抗して、高校時から簿記の勉強をはじめる

高校は普通科だったので、大学に入学する直前まで簿記の存在も知りませんでした。

高校最後の休み期間中、時間を持て余しているときに、大学生の兄が勉強していた日商2級のテキストを家で見つけました。

同じ学部に入学する予定だったので、「大学の勉強を少しでも早くスタートすれば、兄との差を埋めることができるのでは!?」と考えて、簿記の勉強をはじめました。

その後、兄へのコンプレックスをモチベーションに勉強を続け、大学1年で日商簿記3級、2級に合格して、大学2年の6月で1級に合格することができました。自信のない私にとって、「この分野ならいけるかも!」と思わせてくれたものが簿記でした。

簿記で自信を持ち、4年で税理士試験官報合格を達成

その後、税理士試験にチャレンジ、4年で官報合格(税法:法人・消費・相続)することができました。

EY税理士法人の沖縄事務所に入所し、外資系の日本子会社の税務申告をメインに7年間勤務(沖縄2年→東京2年→沖縄3年)しました。
(令和4年9月に今の相続税専門の石川事務所へ転職して今に至ります。)

「転職・独立時に自信をつけたい」と不動産鑑定士試験に挑戦

「税理士試験に合格したのに、なぜさらに不動産鑑定士を目指したのか」という問いに対しての答えは、一言で言うと、「もっと自信をつけるため」です。

ある程度経験を積んで転職・独立を考えたときに、これまでのキャリアを捨てて、外でやっていけるのかと不安になりました。

そのとき、「何かしなきゃ」と宅建の勉強を始め、運良く合格できました。
そこで、「それじゃあ、より難易度の高い不動産鑑定士にチャレンジしてみよう」となったのです。

「税理士と不動産鑑定士のダブルライセンスで専門性の高いサービスを提供するために」などと言えれば格好よかったのですが、本音は「将来役に立つか分からないけど、少しでも自信をつけるため」というものでした。

不動産鑑定士について

不動産鑑定士は、一言でいうと「不動産の適正な価値を鑑定する専門家」です。

例えば、「日本で一番価格が高い土地」として銀座4丁目がニュースになりますが、これは不動産鑑定士が行う「地価公示」がもとになっています。

不動産鑑定士の登録人数は、9,798人(令和5年1月1日時点、不動産鑑定士補含む、国土交通省HPより引用)です。

税理士の登録人数は、81,219人(令和6年2月末時点、日本税理士会連合会HPより引用)ですので、税理士と比較するとかなり少ないです。

税理士✕不動産鑑定士のメリットとは

私自身は試験に合格しただけのまだまだ修行中の身です。

ただ、公認会計士・税理士・不動産鑑定士事務所に勤務するなかで、お客さまから「資産税に強い税理士に相談したい」というお問い合わせを多くいただきますので、以下のようなWライセンスのメリットを感じています。

円満に仲良く遺産分割をするお手伝いができる

相続した不動産を仲良く分けたいけど、相続税の評価額を基準に分けると不公平感が出てくる場合があります。時価(売ったらいくら)の目安を提示することで、円満に仲良く遺産分割を行うお手伝いができます。

税務署に認めてもらえる鑑定評価

相続税評価額が時価(売ったらいくら)を上回っているケースでは、鑑定評価で評価額を下げることができますが、税務署から認められなければ意味がありません。税理士・不動産鑑定士だからこそ、税務署側の考え方を踏まえて、税務署が納得する鑑定評価書を作ることができます。

不動産鑑定士試験について

不動産鑑定士の試験は、短答式、論文式の2段階になっています。

短答式試験

短答式試験は、「不動産に関する行政法規」、「不動産の鑑定評価に関する理論(鑑定理論)」があり、各2時間、40問ずつ、マークシート方式で出題されます。

論文式試験

論文式試験は、「不動産の鑑定評価に関する理論(鑑定理論)」が300点(記述200点、演習100点)、教養科目「民法」「経済学」「会計学」が記述でそれぞれ100点ずつ、合計600点満点で出題されます。

税理士試験と不動産鑑定士試験の比較

個人的には、不動産鑑定士試験は、簿財と法人税の3科目を同時に受験するボリュームと同じイメージです。

ただ、単純な比較ができないポイントとして、以下の点があります。

「毎年1科目ずつ受験できる税理士試験」と「全科目を一度に受験する不動産鑑定士試験」

1科目に絞れば税理士試験は1日2時間で終了ですが、不動産鑑定士試験は免除がなければ6科目12時間を3日間にわたって行います。なので、一度に記憶する量は不動産鑑定士のほうが多くなります。

私の場合は会計学でアドバンテージがありましたが、それでも鑑定理論・民法・経済とジャンルの違う勉強を同時に進めるのは、かなりハードでした。

「ケアレスミスが許されない税理士試験」と「リカバリーができる不動産鑑定士試験」

税理士試験は1科目に専念している人も多く、1つの計算ミスで不合格になることも多いです。不動産鑑定士試験は6科目の合計点で合否が判断されるため、得意科目でリカバリーということも可能です。

私が不動産鑑定士試験に5位合格するまで

1年目は働きながらの勉強に慣れず、不合格

税理士試験受験時代は、学生でした。そのため、毎日一定の勉強時間が確保でき、直前期は一日8時間以上勉強していました。税理士試験時代は、講義を聞いたあと、テキストを頭から最後まで覚えるつもりで取り組み、答練もTAC、大原、両方を受けていました。

それに対し、不動産鑑定士試験は、働きながらの受験となりました。平日の仕事が終わった後や、休日に勉強時間が限られていたため、講義動画をみてテキストを整理するだけで時間が足りなくなってしまいました。

その結果、アウトプットの時間はほとんど取れず、1回目の論文式試験は407位(871人中)で不合格となりました。

事務所所長からのアドバイスで「範囲を絞り込んで、理解と反復を重視する勉強法」に変更

1回目の論文式試験のあと、今の事務所へ転職しました。
そして、公認会計士・税理士・不動産鑑定士の所長から勉強法のアドバイスをもらいました。

その内容は、「範囲を絞り込んで、理解と反復を重視する勉強法」です。

具体的なポイントは、以下の3つになります。

①ゴールから逆算して「範囲」を絞る
②記憶を定着させるために「理解」が重要
③アウトプット重視で「反復」する

ゴールから逆算して「範囲」を絞る

上記の3つのポイントを説明するために、まず円周率4桁を4秒で覚えていただけますでしょうか。

3.141

覚えられたでしょうか。では、次に下の円周率から20桁を20秒で覚えてください。

3.14159265358979323846264338327950288419716939937510.....

皆さんは20桁暗記できたでしょうか。私は6~7桁しか暗記できませんでした。

人それぞれ暗記できた桁数は違うと思いますが、ここでお伝えしたかったことは、「暗記力」ではありません。

ポイントとしては、暗記する「量」が5倍に増えると、暗記する「時間」は5倍以上必要になる点です。逆に言えば、「量」を半分に絞れば、「時間」は半分以下に短縮できます。つまり、「合格に必要な時間」を短縮できます。

ただ、範囲を絞りすぎて必要な部分がモレるとダメなので、①ゴールから逆算して勉強範囲を絞ることが重要です。

すべての教材をまんべんなく使っているときは、教材を1周回すのに1ヵ月以上かかり、覚えてもすぐ忘れて、手ごたえがなく、「このペースだと全然間に合わない、まずい、もうダメだ」と諦めそうになっていました。

アドバイスを受けた後は、本試験に出る確率の高いであろう答練に絞り、答練だけを何度も繰り返しました。すると前に進んでいる感覚があり、気づくと1日ですべての答練の復習ができるようになり、その後は、必修論点の総ざらいテキスト、こう書け(問題集)の重要論点と優先順位の高い順に広げていきました。

まずは優先順位をつけて狭い範囲を完璧にして、余力があれば周辺論点と広げていき、結果として一通りきちんと回したというのが理想だと思います。

記憶を定着させるために「理解」が重要

次に、ゴールが「円周率20桁を暗記すること」に決まったとします。
ただ、不規則な20桁の数字の暗記は大変です。そこで、暗記の方法として「語呂合わせ」があります。
ただ、ここでお伝えしたかったことは、「暗記=語呂合わせ」ということではありません。
ポイントとしては、「ただの数字(3.14159265358979323846)」より「ストーリーのあるイメージ」のほうが記憶に定着しやすいということです。
「ゴールに必要な情報」に意味を持たせて、「理解」することで覚えやすくなります。

なかなか難しいですが、自分の言葉で人に説明できるレベルまでいければ完ぺきだと思います。私の場合は、講義中の内容を目次や余白に整理していました。

余白に整理(経済学)
目次に整理(民法)

また、暗記の方法としては、字面だけで暗記するのではなく、一度、文の構造を整理してから暗記していました。

具体的には、①暗記する理論を略して、②略字を覚えて、③略字の内容を肉付けして覚えるステップです。

文脈を押さえているのでど忘れすることが少なく、アウトプット時は、略字だけ紙に書くと時短につながりました。

条文

アウトプット重視で「反復」する

最後に、一度暗記しても忘れてしまうのが人間です。

エビングハウスの忘却曲線で示されている通り、一度暗記してから忘れるまでの時間は、何度もアウトプットを繰り返すことで伸ばすことができます。

ここで重要なポイントとして、そもそも暗記できていない状態だと反復しても意味がない点です。円周率でいえば、10桁、15桁しか覚えてない状態で反復していても、20桁をアウトプットすることはできません。

アウトプットは、①一言一句紙に書く方法と、②答案構成だけ書く方法の2つに分けていました。

直前期に入る前までは、①をベースに丁寧に暗記を行いました。

直前期に入ってからは、「試験直前の2時間で復習できる状態」をゴールに意識しながら、②をベースに1日で回す範囲を増やしていくスタイルにしました。

アウトプット

最後に

今の勤めている事務所では、「ふーんで終わってはダメ。学んだことは使ってなんぼ」と指導されています。

不動産鑑定士の試験に合格しましたが、ゴールは、「学んだ知識を使ってお客さまに価値を感じてもらえるサービスを提供できること」なので、これからもコツコツ頑張ります!

profile

東恩納拓麻(ひがしおんな・たくま)

24歳で大学院在学中に税理士試験官報合格。EY税理士法人の沖縄事務所在籍中に宅建士試験合格をキッカケに不動産鑑定士試験の勉強を開始。31歳、勉強をはじめて1年9ヵ月で令和5年不動産鑑定士試験(論文式)に全国5位で合格。沖縄で唯一の相続税専門の公認会計士・税理士・不動産鑑定士のもとで修行中。


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