【編集部より】
新年度スタート目前! 「スキルアップがしたい!」、「キャリアやプライベートで新しい発見がしたい!」と考えている人も多いのではないでしょうか。そこで、本企画では、実務家・講師などの読書愛好家から、会計人コースWeb読者の皆さんにオススメする「春休みの課題図書」をご紹介いただきました(1日お一人の記事を順不同で掲載します・不定期)。
受験勉強はもちろん、仕事や人生において新しい気づきを与えてくれる書籍がたくさんラインナップされています。ぜひこの機会にお手にとってみてください!
今回の記事では、Jack1e先生(公認会計士)に課題図書をお薦めいただきました!
「春休みに読みたい課題図書」ということで、主に会計士受験生または監査法人勤務の若手会計士向けに、会計監査の仕事をするにあたって避けては通れない「不正会計」をキーワードに、いくつか書籍を紹介させていただきます。
オススメ①『粉飾の論理』(高橋篤史、東洋経済新報社)
カネボウ、メディア・リンクス、ライブドアというかつて世間を騒がせた粉飾決算を題材に、社内の当事者だけではなく社外の関係者も含めた人間模様や粉飾スキームを、徹底的な取材に基づき緻密に記載しています。
今でも多発する不正会計について、第三者の立場からは「なんでそんな状況になるのか?」と首を傾げたくなるかもしれません。
しかし、始まりは些細なきっかけに過ぎなかったのに、弱みを握られ、強欲な関係者が増えるにつれ、止めたくても止められない負のスパイラルがいかにして構築されたのか、私自身もこの本を通して全然遠い話ではないことに気付かされると同時に、背筋が凍る思いがしました。
オススメ②『業種別・不正パターンと実務対応』(EY新日本有限責任監査法人編、中央経済社)
1冊目で粉飾の背景を狭く深く知った次は、実際にどんな不正がどのように起きているのか、広く浅く知るための本がおすすめです。まさに「彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず」です。
不正を業種別に分類することで監査の勘所を知ることができるだけではなく、意外なほど不正の動機や機会は業種にかかわらず似ていることを、100社の過去事例の分析が物語っています。
ボリュームも少なく解説は大変平易であり、随所にあるエピソードも含めてサクサク読めるので、日々の勉強や実務と結びつけやすく、新たな発見もあるでしょう。
オススメ③『実践 不正リスク対応ハンドブック』(EY新日本有限責任監査法人編、中央経済社)
最後は実務家向けですが、不正会計に関して最も包括的に記載している書籍の1つを紹介します。
代表的な不正会計の手口やチェックポイントに加え、ストーリーに基づく不正の防止・発見方法、不正発覚後の対応実務まで網羅しています。
特に最後の点に関して、会計に限らず不正発覚時は初動対応が肝要であり、この本で証券取引所、財務局、監査法人、調査委員会等の関係者を含むその後の動き方をイメージできます。
私も不正関連の仕事で不明点が出た場合には、真っ先に手に取る書籍です。
おまけ「第三者委員会ドットコム」
書籍ではありませんが、個々の不正の実態や原因をより深く学ぶには、「第三者委員会ドットコム」がまとめている調査報告書を読み込むのが最も効果的です。
報告書の質は委員会次第であり、内容も総じて難解ですが、多数のヒアリングやフォレンジックに基づく臨場感のある不正現場の再現やその原因分析は大変勉強になると同時に、読み物としても楽しめます。
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…いかがでしょうか。
倫理観の高い読者の皆様にはピンと来ない点もあるかもしれませんが、組織が大規模化・複雑化するにつれて、不正を意図する者やその機会はどうしても増えてしまうものです。
故に「市場の番人」である公認会計士や、内部管理体制の役割は大変重要です。これらの本を通して、不正会計等の「有事」への備えを固め、その役割をますます高めたいものですね。
<執筆者紹介>
Jack1e
公認会計士
大手監査法人(日本・米国)で会計監査に従事した後、複数のスタートアップ企業でCFOや上場準備業務の統括、上場後のIR業務等を経て、会計、内部統制、上場準備等のコンサルティング業務に従事。最近のXでの活動は情報収集がメインで、note(@jkczs)で日々の学習記録その他のよもやま話を配信中。
・Xアカウント(@Jack1e_Khaan)