石川景子(資格の大原 財務会計論担当)
【編集部より】
令和6年公認会計士試験第Ⅰ回短答式試験の合格発表がありました。結果を受けて、次の目標が明確になったという人も多いのではないでしょうか。
これまでは自己採点結果を基に立てていた学習プランにも、大きな変更が必要となる点もあるかもしれません。そこで今回は、資格の大原財務会計論担当の石川景子先生に、次の目標へ向けたアドバイスをいただきました!
12月短答式試験の合格発表がありましたね。
75%という例年と比べ高い水準の合格ラインとなりました。
ただ、合格者数・合格率ともに前年12月短答式試験と比べて微増していますので、合格のハードルが上がったというわけではなかったと思います。
あと一歩で悔しい思いをされた方も、実力不足を痛感された方も、ご自身の課題に対して一つずつ真摯に取り組んでいけば必ず合格に辿り着くので、一歩ずつ前に進んでいきましょう。
5月⇒8月合格を目指す方へ
5月⇒8月を目指す方から一番相談されるのは、「今の時期に短答向けの勉強(短答式用の問題を解く等)を継続するか否か」ということです。
私の経験からは、3月頃(短答用の演習が始まる頃)までは論文向けの勉強に全力を注ぐことをお勧めします。
なぜ論文向けの勉強が重要か
この試験は丸暗記だけでは最終合格まで辿り着きません。
仮に「短答特化型」の勉強に専念すると、どうしても“暗記”に偏重しがちになります。「今年はとりあえず短答合格を目指そう」と考え、短答向けの勉強に専念する方もいるようですが、そのような方は仮に短答を突破しても論文向けの勉強法がつかめないまま論文不合格を繰り返すことも多いように感じます。暗記偏重の勉強法で短答式試験に合格すると、その勉強法で正しいと思い込み、自身で勉強法を変えられないことが一因のように思います。
逆に、いったん論文向けの理解重視の勉強を進めた方は、知識の整理・暗記がスムーズに進むため、短答向けの勉強量を大幅に減らすことができ、短答本試験の直前数か月に短答特有論点を押さえれば充分に合格水準に達すると思います。理解重視の学習は論文式対策だけではなく、短答式対策にも繋がることに気付いて欲しいです。
また、理解を深めることは、計算力を養うことにも繋がります。体験されたとおり、本試験においては、見慣れない形式での出題や普段の演習とは異なる角度からの出題がありますよね。会計処理の背景まで理解する学習をしていると、そのような応用的な問題についても対応できるようになるのです。
論文式に向けた具体的な勉強法―「自問自答法」
前回の記事で私自身が実践していた理論の勉強法として「自問自答法」を簡単に紹介しました。当該記事を読んでくださった方からリクエストを頂き、今回はより具体的に紹介したいと思います。
財務会計の「資産除去債務」を例にしてみます。
「そもそも資産除去債務ってなに?」
「なぜ負債計上するの?」(そもそも負債の定義とは?)
「なぜ引当金計上ではなく資産負債両建て処理するの?」
「なぜ無リスクの割引率を使うの?」・・・
このような素朴な疑問のようなものを自分自身に投げかけて、説明してみる、ということを繰り返しました。私はどの論点を勉強するときも「そもそも」と「なぜ」を大事にしました。前回もお伝えしましたが、実際に仲間同士で問い掛け合いができると、より効果的だと思います。
テキストを読んでなんとなくわかった気になっていても、人に聞かれて説明できるか、と言えばなかなか出てこないことも多いと思います。
自分の言葉で人に説明できるようになって、初めて理解したと言えます。
いわば、短答式試験は「ヒヤリング試験」で、論文式試験は「スピーキング試験」なのです。
「今日は財務理論の資産除去債務のページを“読んだ”!」という人に上記のような基本的な質問を投げかけても、全部スラスラ答えられる人は少ないです。一字一句全部覚える必要はなく、理解重視の勉強ができている人(イメージしながら理解ができている人)であれば、テキスト・基準の言い回しとは違ってもポイントの説明はできるはずです。
論文式試験では基準の言い回しを使えた方が高得点になるのは事実なので、もちろん暗記も必要ですが、ポイントを理解していれば、表現力は5月短答後でも十分に身につきます。したがって、今の時期は理解に重きを置いた勉強を積み重ねて実力の向上を図ってください。
理解を深めていくと、これまで頭の中で点として無数に散らばっていた知識が線で繋がっていくような感覚になり、勉強が面白くなってくると思います。それは合格に近づいている証拠です。
ちなみに財務理論において「なぜ」などと理由を問う問題がきたら、「それをしないと(それを用いないと)どういった問題点があるか」といった視点で解答することが多いので、意識して勉強してみてください。
皆さんへのメッセージ
ここまで具体的な学習法についてお伝えしてきましたが、私自身の失敗経験からメンタル面で皆さんにお伝えしておきたいのが、「自分で勝手に限界を作らない」ことです。
私は何度も短答不合格を経験しています。
不合格を繰り返していた時は、合格確実視されるような成績上位者は「地頭が良くて別世界の人」と思っていました。自分はそうはなれないと勝手に思い込み、自分は合格ライン近くの点数を繰り返しているうちにいつか受かるはず!!と思っていました。
しかし、合格ライン近くの点数を取れるようになってから全く成績が伸びなくなりました。
そこでようやく「自分自身が成績上位者にならないと一生受からない」と気付きました。
成績上位者を目指すためにしたこと
成績上位者の方と自分とは何が違うのか、真剣に考え始めました。
まずは、「単純に机に向かっている時間の長さ」や「集中している時間の長さ」が圧倒的に違うように感じました(それまでは、そのことはわかっていてもその事実を直視しないようにしていた気がします)。
また実際に成績上位者の方と話してみると、「受け終えた演習に対する見直しの丁寧さ」、「ミスに対する対応の丁寧さ」等、やはり優秀な方には優秀な理由があると感じました。より具体的には、ダメだった自分は「良かった時の得点にフォーカスして自分を安心させる」ところがありましたが、成績上位者の方は「点数を取りこぼした部分(失点)にフォーカスし“何をしていたらもっと点数が取れたか”」を一つずつ分析していました。
成績上位者になりたいならば、自分を変えるしかない。
一歩ずつでもいいから成績上位者の勉強法に近づけて行こう。
そう決意をして、上述したような「成績上位者」と「自分」との違い、もっと言えば「理想の自分」と「現実の自分」との違いを埋めていく方法をノートに書き出して実践していきました。
その結果、凡人だと思っていた私が、次の半年後の短答は86%、論文も合格者の中で上位5%に入る成績で合格できました。
人は変われるのです。
誰でも努力次第で成績上位者になれるのです。
自分で勝手に限界を作って、成績上位者は別世界の人と思っていたらもったいないですよ!
「変わりたい」と思ったときが「変わる」ときです。
皆さんも、短答の合否にかかわらず、より高いレベルを目指して自分を磨いてみてください。
【執筆者紹介】
石川 景子
資格の大原 公認会計士講座 財務会計論(理論)講師
横浜国立大学経済学部卒業。2013年公認会計士試験合格。
大手監査法人にて監査業務に従事後、夫の海外駐在帯同を経て、資格の大原にて常勤講師として活動中。受験生時代に短答式試験の突破に苦労したものの、「自分改革」に成功して上位合格を果たした経験を踏まえて、受講生へ学習方法や学習計画、意識の持ち方など全般的な相談・指導を行っている。
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