わたしの独立開業日誌 #会計士・津田 覚


【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。

当初思い描いていたキャリアとは全然違うな!?

はじめまして。東京都三鷹市で2022年9月に独立開業しました公認会計士・税理士の津田 覚(つだ さとる)と申します。

現在は、上場企業向けの会計監査、決算・内部統制・海外子会社管理支援、財務デューデリジェンス、中小企業向けの税務顧問や資金調達・事業計画策定・事業拡大のための経営相談等の財務及び経営コンサルティングを提供しています。

監査法人在籍時に海外留学と海外駐在を経験して独立開業したのですが、今のキャリアは資格の勉強を始めた当初から思い描いていたわけではなく、色々な局面で面白そうなことを選んでチャレンジしていたら、いつのまにか辿り着いたものになります。

「海外で働いてみたい」「将来は独立してみたい」、「独立後にどうやって仕事を獲得していくか」等といったことが気になる、そんな方々の参考に少しでもなれば幸いです。

親しみやすさ・物腰の柔らかさ◎

合格するために自分は今なにをすべきかを考えて取り組んだ資格勉強

大学1年生の秋頃、「将来は何か手に職をつけて専門家として働きたい」と思い、資格の取得を考えました。私自身かなり多趣味で、特にゲームやサッカーが大好きなのですが、資格の取得(ここでは公認会計士の短答式・論文式試験の合格)を目指すのであれば、まずはその目標を達成することを第一に考えて、ゲームもサッカーも封印して勉強漬けの生活をするようになりました。

手始めに、資格予備校で過去の合格体験記を数年分見つけて、合格するために自分の状況にフィットしそうなロールモデルとなる人の記事を複数読み、試験の傾向や多くの合格者に共通するマインドセットを分析しました。

当時、私なりに導き出した自分の勉強方針・マインドセットは、①計算科目をとにかく得意にする、②理解を重視して、アウトプット中心の復習を繰り返す、③馴れ合いではなく本気で合格を目指す仲間と切磋琢磨する、④集中して勉強に取り組める環境を作ってくれている周囲の方々への感謝を忘れないというものでした。

今振り返ってみると、一定期間本気で取り組んだ勉強・仕事・趣味は、今の自分の自信に繋がっていると感じています。器用に色々なことを両立できる人もいますが、当時の自分はそこまで器用でもなかったので、一番自分が実現したいものは何かを考えて、それに集中して取り組むことも良いのではないかと考えています。ただし、時には息抜きも必要ですので、そのあたりは体調やモチベーションを勘案して上手くやっていきましょう。

海外への憧れ

監査法人に入所して配属されたメインの監査チームでは、管理職以上のほとんどが海外駐在を経験した人ばかりで、日頃の監査業務は非常に忙しそうでした。入社して間もない私の目には、皆さん、やりがいを感じて活き活きと働いているように映り、漠然と「自分も将来は海外で働いてみたい」と思ったことを今でも覚えています。

当時は海外駐在するためには最短でも5、6年程度は監査経験を積む必要があったのですが、法人に2年間の中国留学プログラムが存在していることを知り、「これはチャンスだ」と思い立候補しました。

大学の第二外国語は中国語を選択していたものの、不真面目な学生だったので「ニーハオ(你好)」、「シエシエ(謝謝)」くらいしか覚えていない有様でしたが、「2年くらい集中して勉強すれば何とかなる」と根拠のない自信と半ば勢いで挑戦しました。

留学したら話せるようになるわけではなく、それなりに大変な思いをしましたが、頑張れば案外何とかなるものだなと思いました。最初の半年は朝6時から夜11時までひたすら勉強する生活をしていたのですが、何か目標に向かって過ごした時間はとても充実していたと感じます。

今ではそのプログラムも短期となり、目の前に転がっているチャンスはいつまでもあるものではないのだなと感じています。時には勢いも大切ですね。

留学から帰国し、日本で数年働いた後、今度は仕事で上海に駐在することになりました。海外駐在はカッコいいイメージがありますが、蓋を開けてみると中々大変でした。

駐在する場所によって何が忙しいかは様々なのですが、中国では法定決算月が12月であるため、法定監査の繁忙期が1月から3月に集中し、かつ春節休みが間に入ること等が要因で、目が回るほど忙しかったです。4月に入ると日本の3月決算会社のパッケージ監査で繁忙期が続くため、「一体いつ終わるのだ…」という気持ちになりますが、確かに乗り越えると確固たる自信がつきました。

異なる文化的背景を持つメンバーとクライアントの方々とのコミュニケーション、日本から来られているマネジメントへの報告、親会社監査チームとの連携等、とても学ぶことが多くあり、泥臭く仕事に取り組んだことは今の仕事にも活きています。

独立開業を決意するまで

将来は独立したいという漠然とした願望はあったものの、明確なキャリアプランは描いておらず、試験に合格したら何となく監査法人3年・FAS3年・税理士法人3年の経験を積んで独立しようと考えていました。最近は、資格を目指す段階でしっかりとしたプランを描いている人もたくさんいて素晴らしいなと思うと共に、もう少し真面目に自分も考えておけば良かったかなと反省しています。

いざ働き始めて、「公認会計士登録をしたら独立するぞ…」「海外留学を終えたら…会社法監査や金融商品取引法監査の現場責任者を担当したら…海外駐在をしたら…」そう思っていたのですが、いざ新しいことに挑戦すると、今まで見えてこなかった景色が見えてきたり、今回の反省点や改善点を踏まえて「次はもっと上手くやってやるぞ」などといった思いも湧き、気付けば当初考えていたキャリアは何処へやら、監査法人に11年ほど在籍していました。

独立を本気で意識することになったきっかけは、海外駐在時にパンデミックの関係で思いがけず単身赴任になった際に、仕事や家族等も含めて「人生ひっくるめて将来どうありたいか」を真剣に考える機会があったことです。

人生は一度きりでなるべく後悔しないように生きたいと思い、そこから本気で独立を意識するようになりました。同業者の妻に、独立しようと思っていることを伝えたところ、あっさり「良いんじゃない? 応援しているから頑張ってね」と背中を押してくれたことも非常に感謝しています。

仕事への意識・姿勢が大きく変わることになった上司・クライアントとの出会い

やや偉そうに意識の高いことを書いてきましたが、恥ずかしながら社会人になって3年間くらいは理想と現実のギャップに苦しみながら働いていました。お世辞にも仕事がバリバリ出来ていたスタッフではなかったと今でも思っています。

2年間の留学生活を経て監査業務に戻ってきた際には、当時の監査法人の人手不足と仕事のブランク期間等の要因が重なり、無理が祟って体調を崩して休職する一歩手前となりました。

正直なところ「もう限界かな…?」と思っていたところ、新しく担当することになったクライアントがあり、その監査チームの現場責任者の方との出会いで仕事への意識・姿勢が大きく変わりました。社内外の関係者とのリレーション構築が上手く、上司からは信頼されて同僚や部下からも評判の良い、頭も良く仕事が出来て話も面白い、そんな人と一緒に働くことになりました。

その人からは本当に多くのことを学び、仕事が一気に楽しくなりました。今でも言葉では言い表せないくらいに感謝しています。それまでは何処かで斜に構えていた自分がいたのですが、目の前の仕事に全力で取り組んだほうがカッコいいと思うようになりました。

その後は、自分もその人のようになりたいという気持ちを強く持ち、話し方や人との接し方が大きく変わりました。その人のようには全然まだまだなれていませんが、自分と関わったことで良い影響を受けたと感じてもらえるような人になれたら良いなと思っています。

また、仕事が楽しくなってきたタイミングで、金融商品取引法監査の現場責任者をやってみないかという話があり、自分が一番その会社のビジネスに詳しくなるつもりで本気で仕事に取り組みました。一生懸命に頑張った甲斐もあり、社内外の方々と良好なリレーションを築くことができて、役員の方から個別にご相談いただく機会もありました。

とても個人的に思い入れのある会社で、今でも定期的に決算説明会資料等を読んで情報をキャッチアップするようにしています。いつか必ず自身の事務所を大きくして、相応しい提案を持って行けるようにすることが目標の1つとなっています。

独立開業にあたっての準備と監査法人で積んだ経験

独立したら色々なご縁で仕事をすることになると思い、監査法人を退職して転職・独立していく先輩・同期・後輩の方々には在職中にお世話になったことへの感謝を伝えるようにしていました。実際に開業してから前職の先輩・同僚・後輩の方から仕事のお話をいただいており、とてもありがたく感じています。

また、前職では色々な研修への参加、法人サッカー部の部長担当やリクルート活動への協力等、なるべく新しい知識や人との繋がりを意識して過ごしていました。企画・運営する側の大変さや苦労を知り、外から単に文句を言うのではなく内側から変えていく努力が必要だと感じ、独立後も色々な会務にも積極的に関わることを決心し、実際に取り組んでいます。

仕事については、目の前の仕事に一生懸命取り組むことが独立後の仕事に繋がると信じて、目の前の仕事で成果を出すことに注力していました。監査を通して多くの日本、米国、中国、IFRSといった基準にも触れ、プロジェクトマネジメントを学びました。また、中国での経験は分かりやすく差別化しやすい領域だと感じています。前職での経験は、間違いなく独立して提供しているサービスの土台になっています。

開業後のオフィスの様子

事務所の営業戦略と創業融資

監査法人で働いた年数よりも、独立してこれから働く年数の方が圧倒的に長くなると思い、開業1年目の営業戦略や方針は「まずは選り好みせず、ご縁をいただいたら全力で取り組んでみる」ことにしました。

いざ実際にやってみると、思っていたよりも難しいと感じたり、これは自分に結構合っているなといった気付きが多くありました。ただし、全方位戦略はリソースを確保できる規模の大きい事務所が採るべき戦略であって、自身は「選択と集中」を考える必要があると反省しています。経営理念や行動指針は独立前にしっかり考えておいたほうが良かったなと痛感しました。

また、自分や今後一緒に働くことになる方々が気持ち良く働けるように、事務所に置く机や椅子、コーヒーメーカー、PCやモニター、スキャナーやキーボード等の家電やガジェット類にはかなり拘りました。

事務所を借りる際は、金融機関から借入も行い、事務所の将来計画や資金繰り表を作成したことで、金融機関の担当者の方との繋がりを作ることができて、顧問先の社長さんとの話も一層弾みました。自分自身が経験するとより具体的に話せるようになるので、とてもオススメです。

デスク周りの様子

はじめにぶつかった壁

頭では理解していたものの、独立すると営業、経理、総務、法務、労務等といった全ての意思決定を自身が行う必要があります。全て自分が決めるので、そこが面白い点でもあるのですが、業務が立て込んでいるところに別の要対応なものが発生すると一気に忙しくなり、なんでもかんでも引き受けると大変な思いをする、これが私のはじめにぶつかった壁でした。

また、仕事を入れていない日は不安になりソワソワするので結局仕事をしてしまうという独立開業あるあるも経験しました。偉大な先輩方から「まずはプライベートの予定を入れて、その後に仕事を入れると良いよ」というアドバイスをいただき、今はこれを徹底しています。

家族と一緒に過ごす時間を多く取りたいと思ったことが独立を決めた要因の一つなのですが、気付けば毎日夜まで働いている…そんな時期が現在進行形で続いています。

振り返ってみると、壁にぶつかっては乗り越えてを繰り返しているので、「乗り越えられない壁はない」とポジティブに捉えて頑張ることが大切なのだと思います。

独立してからの仕事術

独立してからは、とにかく色々な場に顔を出して多くの人にお会いすることを意識しています。仕事のほとんど100%が前職、同業、金融機関、古くからの友人、仕事で関わったことのある人経由であり、ご縁を大切にしています。話してみると、何かしら課題や悩みを抱えている方が多く、自身がお役に立てそうな領域については、お役に立ちたいという気持ちで提案をしています。私が取り扱っていない領域については詳しい専門家にお繋ぎする等して「この人に相談すれば解決への糸口を見つけてくれる」、そんな存在になりたいと考えています。

周りには全く違った形で仕事を受注している人もいますが、目の前の仕事を一生懸命に取り組むことで次に繋がっている点は共通しているので、地道に信頼を勝ち取っていくことがシンプルかつ汎用性のある取り組みだと考えています。

また、多趣味・好奇心が強いことが多方面で活きていると感じています。ビジネス面で会社の事業に興味を持ったり、プライベート面でも共通項を見出して関係を深めていくスタイルが自身に合っているので、これからも楽しむことは忘れずに仕事とプライベートを両立しつつ引き続き頑張ろうと思っています。

そして、ゲーム、サッカー、サウナ、ガジェット、手芸、漫画、アニメ、グルメ、ライブ参加等に興味がある方は、お仕事・プライベート関わらず是非仲良くしていただけたら嬉しいです。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。
少しでも何か参考になるものがありましたら、幸いです。

【執筆者紹介】
津田 覚(つだ さとる)

1988年神奈川県横浜市生まれ。2009年、慶應義塾大学3年時に公認会計士の短答式・論文式試験に合格し、株式会社TACの公認会計士講座合格アドバイザーを経て、2011年に大手監査法人に入所。監査法人時代は、国際事業部にて主に会計監査のサービスを提供し、中国の北京へのMBA留学、上海への海外駐在を経験したうえで、2022年8月末にマネジャーの職位で退職。
2022年9月より独立開業し、公認会計士として会計監査に加えて上場企業向けに決算、内部統制、海外子会社管理支援等のサービスを提供。税理士として主に武蔵野エリア(吉祥寺・三鷹・武蔵境)の中小企業に対して税務顧問・申告書作成サービスや財務及び経営コンサルティング等を手掛ける。
2023年7月より公認会計士協会東京会の独立開業支援プロジェクトチームのメンバーに就任。
X(旧Twitter)(@cpa_game_change
事務所ホームぺージ(近日公開予定)

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