【編集部より】
秋スタートの公認会計士受験生の中には、はじめて法律科目を勉強するという人も多いのではないでしょうか。簿記のような計算科目の勉強とは異なり、条文の読み方や独特の表現などに慣れるところから始まるので、勉強の勝手がわからないということもあるそうです。
そこで本企画では、TAC企業法担当の宮内先生と成績・学習相談担当の平林先生による対談をお届けします。受験生からよく相談されるリアルな悩みを取り上げ、学習のヒントを探ります!
法律科目をはじめて勉強するとき
平林 公認会計士試験の受験勉強を始めたばかりで、法律にはじめて触れる受験生からは、「言葉が一つひとつ難しい。例えば、取締役や取締役会という用語に馴染みがない」、「“〇〇を除き”といった条文の表現や言葉遣いがとっつきづらい」という相談をよく受けます。
はじめて法律を学習する人が、勉強を進めやすくなるコツは何かありますか。
宮内 私の場合、入門クラスでは「条文は読んでいればそのうち慣れますから、とにかく読んでください」と伝えて、講義中にもできるだけ条文を見せるようにしています。
実は、昔に比べれば商法・会社法の条文もずいぶんと読みやすくなったんですよね。昔は句読点も濁点もなく、全てカタカナで書かれていました。ただし書も本文に続いていて、区別がわかりにくかったのです。それに比べれば、今は日本語としては読みやすくなりました。
ただ、どうしても受験生が読み間違えてしまう典型的な箇所というのはいくつかあるので、その点については講義で必ず事前に指摘するようにしています。
平林 その注意点に気をつけていれば、あとは「慣れ」が大きいでしょうか。
宮内 そうです、と言いたいところですが、事前に講義で指摘していても、毎年、後から必ず質問に来るポイントがあるんですよね…。
だから、「条文を読む」というのは、本当に何か必要に迫られ、たとえば論文式試験の問題が解けずに条文を探しにいって「あ、これじゃないか」と自分で見つける段階になって、はじめて「真面目に読む」のだと思います。つまり、普段どれだけ「ちゃんと読もう」と思っても、力の入れ具合が違うのかもしれませんね。
法律用語に慣れるには
宮内 条文に出てくる用語、たとえば「取締役」や「株主総会」という言葉に慣れていない人がいることは僕も少し感じていて、最近はテレビもあまり見なくなっているそうなので世代が違うのかなと思っています。
平林 確かに、テレビは見ずに、YouTubeがメインだという受験生が増えていますね。
宮内 そうですよね。昔はテレビ中心で、小さい頃から家では親が見るニュースが流れていて、6月には東京警視庁が総会屋対策を云々とか、経済ニュースでは取締役が云々とかいったように、言葉を聞く機会が生活の中に自然とあったんですよね。
講義では「少なくとも言葉を聞いたことがある」というのを前提に、話が進むこともあるので、そうすると最初の取っ付きとしてはキツイだろうと思います。
実は、「会社法」は高校生になったら、「民法」は中学生になったら勉強ができると一般的には言われているので、これまでは「株主総会くらいは言葉を聞いたことが当然あるだろう」という前提で講義をしてきたのですが、最近は、そうでもないのかなという認識に変わってきました。
平林 今の受験生だと、取締役よりもCEOといった言葉のほうが耳馴染みがあるかもしれないですね。
宮内 なるほど、そうですか。すると、たとえばYouTubeでも経済ニュースや企業ニュースを検索するといろいろあるので、それらを見るとイメージがつきやすくなるかもしれませんね。
とはいえ、そうでなくても、だいたい半年ぐらい過ぎたら皆さん慣れてくるので、最初はそんなに気にしなくてもいいのかなと思いますよ。講義を通じてイメージがついてくれば大丈夫です。
平林 そういえば宮内先生の講義では、例としてTAC株式会社の取締役や監査役を実名で繰り返し挙げてらっしゃいますよね。合格者と話すと、宮内先生の講義で自然とTACの役員を覚えてしまったと皆さん笑っておっしゃいます。
宮内 そうなのですよ。こちらの意図とは違うところで受験生の皆さんの記憶に残ることもあるようですが、「自分が住んでいる世界、つまり資本主義の中の株式会社というものについて実は勉強しているのだ」ということがわかればいいなと思って、例として挙げています。
平林 実際にTACや身近な会社の有価証券報告書で機関設計を見てみて、「この人のお名前聞いたことあるな、本当に取締役・監査役なんだ」というように少し具体例に触れると、よりイメージが膨らむかもしれませんね。
学習初期にどこまで覚えるか
平林 他にも「どこまで覚えるか」について相談を受けることもよくあるのですが、たとえば講義の後1週間ぐらいで、最低限どんなことをやっていると苦手意識がつかないでしょうか。ざっくりした納得感だけでよいのか、それとも細かいところまで読んでいくのか悩む人も多いですね。
宮内 とりあえず、完璧主義はNGですね。一度勉強したところで結局忘れますから、「ざっくり」でよいと思いますよ。最終的には数十回〜100回くらい繰り返したほうがよいので、「記憶からこぼれ落ちるんじゃないか」という恐怖感は捨てることをオススメします。
僕も、司法試験受験生だった当時は、試験前になると「忘れないように、忘れないように」と恐怖感に襲われていましたけども、普段の勉強でそんなことを考えても仕方がないので、「どうせ忘れるんだ」というくらいの受け止め方で構いません。
その時点で、そもそも完全にわかるはずもないですし、全部終わっている頃には前のほうを忘れているし…という状況ですからね。「点数をちゃんと取れるようにしよう」といったことは考えずに、「とりあえず理解できた」と思ったらそれでよし。
少なくとも、入門期は計算科目の学習が大切ですから、学習時間の配分の中で、最低限でもざっくりわかれば、どんどん次へ進んだほうがいいですよ。
平林 文言をしっかり覚えるというよりは、あえてざっくり記憶に残っているほうが前に進められるというのは、特に学習初期は大事かもしれませんね。
できれば次の講義までに短答問題集の簡単な問題を一度解いてほしいところですが、どうしても時間が限られる方は、あとで何回も復習や暗記はするので、たとえば先生が講義中に話した具体例で「あの話、面白かったな」といった程度の取っ掛かりだけでも記憶に残っていれば最初はよいのかなと思います。
宮内 そうですね。だから、「わかった!」と思ったら多少オーバーに感動しておくことが大事ですね。
僕は小さい頃から兄に勉強を教えられてきたのですが、数学で難しい問題が解けた時に、「わかったら感動しろ。感動したら、こうやって解けばいいんだって少しでも記憶に残るだろう」と言われて、「わかった〜! やった〜!」と声にも出していましたね。
勉強って眠くなってしまうので、声が出せない状況なら、心の中で「あ、そうだったのか! わ〜、素晴らしい!」、「この条文、うまくできているな〜!」と、ちょっと感動してみるとよいですよ。
平林 たしかに、「そういう決まりがあるんだな」と淡々と取り組むよりも、感動があったほうが記憶に残りますね。ありがとうございます。
(後編へつづく)
【対談者のプロフィール】
◆宮内 康浩(みやうち・やすひろ)
1962年、徳島県南部の小さな漁村で出生。大学入学で上京し、1986年、司法試験合格。翌1987年に一橋大学法学部を卒業した後、2年間の司法修習を終了。1989年4月に弁護士登録をして現在に至る。20年以上前から弁護士業務を休業し、資格の学校TACで講師を務める(現在は公認会計士講座企業法・民法を担当)。犬(クララ)と猫(レモン)を飼育中。
◆平林 黎(ひらばやし・れい)
TAC会計士講座講師(財務会計論-理論、個別成績/学習方法相談、質問対応、オンラインセミナー担当)。
1986年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。体調を崩し、会計士受験を一度撤退。2014年独学で保育士資格取得後、会計士を再度志す。2016年論文式試験に合格し、現職。2020年以降、オンラインでの相談対応・セミナーを開始。下記SNSで主に受験生・合格者に向けた情報発信を行っている。
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・Instagram(hirabayashi_tac)
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