科目免除を目指す税理士受験生のための「志望大学院」の選び方5


佐藤憲亮(税理士)

【編集部より】
税理士試験が終わると、受験生の中には大学院ルートについて調べる人も増えると聞きます。自分にとって最適な選択をすべく、情報収集から始めることになりますが、どういったポイントを比較検討すればよいのかなかなかわかりません。
そこで、大学院出身者でもあり、ブログで情報発信もされている佐藤憲亮先生(税理士)に‟「志望大学院」の選び方”についてご執筆いただきました。大学院ルートという選択をはじめて聞いたという人も、これから調べようとしていたという人も、きっと参考になるはずです!

手探りでの情報収集からスタートした

今年も税理士試験が終わり、ほっと一息ついている方も多いこの時期。次の選択肢として大学院を検討している方も多いのではないでしょうか。

近年、税理士試験+大学院を選択する方が増えてきており、以前よりも大学院の情報も収集しやすくなりました。私が大学院を検討していた頃は、ネットやSNSで検索してもあまり情報がない状況であったため、各大学院から資料を取り寄せることから始めました。

そもそも、大学院に入学するために学歴は関係あるのか、大学院入試はどのようなものなのか、学費はいくらかかるのか、本当に税理士試験科目免除は受けられるのか、などなど・・・
わからないことだらけの中、手探り状態だったのを覚えています。

本記事では、大学院を検討されている方の疑問を解消するため、大学院を選ぶ際のポイントを5つピックアップしてご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

大学院の選び方

1.通信 or 通学

大学院には通信制と通学制があり、それぞれメリット・デメリットがあります。ご自身の状況や方向性に合った選択をするようにしましょう。

通信制通学制
メリット・移動時間がかからない
・近隣に大学院がない場合でも入学できる
・教員、他の学生との交流がしやすい
・数が多いため選択肢も多い
デメリット・学費が高い
・数が少ないため選択肢も少ない
・対面で交流する機会が少ない
・移動時間がかかる
・教授と合う合わないの影響が出やすい

私は税理士事務所で働きながら通学制の大学院に2年間通いました。通学時間はおおよそ片道30分、学費は2年間で約130万円。その大学院は他と比べて通学距離が短く、学費が安かったため、実質的に他に選択肢はなかったです。

なお、通学時間を短縮できる通信制も検討しましたが、学費が2年間で200万円以上必要となり、さらに年1回は東京のスクーリング(対面指導)に参加する必要があるとのことで費用面、時間面を考慮し、通信制は選択肢から外して検討していました。

近隣の大学院で税理士試験の科目免除が受けられるのかは、河合塾KALSという大学院受験予備校のサイトに「税理士「税法」科目免除大学院リスト」が掲載されていますので、まずは検索してみてください。

ただ、このリストにない大学院であっても科目免除対応している大学院もありますので、一覧に記載がないときは直接大学院に問い合わせてみましょう。

2.学費(奨学金)

学費は大学院によって大きく異なりますので、事前に2年間の学費を確認しないといけません。学費が2年間で約130万円の大学院もあれば、約360万円必要な大学院もありますので、負担可能な範囲で大学院を選択する必要があります。

大学院の学費を全額自己資金でまかなうことは厳しいため、収入が一定以下の場合は日本学生支援機構の奨学金制度を使うことをおすすめします。

奨学金は、1種(無利子)と2種(有利子)に分かれており、1種で借りることができた場合は、貸与期間中に特に優れた業績を挙げた者として日本学生支援機構から認定を受けたときは、その奨学金の全額または半額を返還免除されますので、可能であれば1種を選択してください。奨学金を借りるには入学後の奨学金説明会に参加し、一定期間内に書類を提出する必要があります。

なお、2種であっても在学中は奨学金の返済は卒業まで猶予され、直近の利率は固定金利で年0.537%、変動金利で年0.050%と、他の金融機関の融資制度と比較しても金利は相当低いです。

また、奨学金は、月額5万、8万、10万、13万、15万円のいずれかから金額を選択し、2年間合計で120万~360万円借りることができます。私はもしものときに備えて満額の360万円借りました。それでも借入は・・・と懸念される方は、とりあえず借りておき、借りた資金は使わずに自己資金でまかなう。そして、卒業後すぐに全額返済すれば、在学中は手許現金を減らさずにすみます。奨学金は、もしものときの保険と考えて活用することが重要です。

その他、各々の大学院で制度は違いますが、大学院の事務局などから給付型奨学金制度の情報を収集することができますので、条件に合致するのであれば応募することも検討しましょう。

3.合格率

大学院では秋入試(9~10月)と春入試(1~2月)の2回行われ、毎年数名しか合格者を出さない大学院もあれば、50名以上合格者を出す大学院もあり、その合格率は大きく異なります。合格率は合格者数と受験者数で算出することができますが、合格者が定員を大きく下回っている大学院もあります。合格者が定員を大きく下回っているにもかかわらず合格率が低い大学院は、合格基準が高く難易度も高いといえるでしょう。

また、大学院によっては研究以外の目的(科目免除目的)で来ている受験生を受け入れない方針のところもあるらしく、合格率が異常に低い大学院については事前にしっかりと情報収集をする必要があります。

古い情報にはなりますが、参考までに2018年と2019年に税理士試験科目免除の実績がある大学院の入試試験合格率の一覧を記載します(大学院の受験者数等を公表していた「大学入試図書館RENA」のサービスが終了しているため、当時入手した古い情報で合格率を算出しています)。
受験校をどこにするかは合格率も参考にしてください。

(著者作成。本表に記載された大学院以外でも科目免除が受けられるところもあります。)

4.指導者

大学院により、論文指導を行う指導者が1名のところもあれば、複数人体制で指導を行っているところもあります。一人の指導者から複数の学生が指導を受ける場合は、その分一人当たりの指導時間が短くなってしまいます。手厚く指導を受けたいと考える場合は、指導者が複数いる大学院を選んだほうが良いでしょう。

また、論文を執筆するには指導者から密に指導を受ける必要があるため、指導者との相性も重要となります。そのため、入学前にご自身の論文テーマと指導者の専門分野が合致しているのか、指導者が執筆した論文・書籍などを読んで、指導者の考えを知っておくことも重要です。

実際私の通った大学院では、指導者と相性が悪く、論文を書ききれずに退学した方もいらっしゃいました。論文を書くのはご自身ですが、指導者の指導なしには論文は完成できませんので、指導者との相性は大事な要素です。

5.大学院入試

大学院に入学するためには入試を突破しなければいけません。難易度は大学院により異なりますので、事前に情報収集して難易度を確認してください。

大学院の出願資格はおおむね下記の3点となっており、必ずしも4年制大学を卒業している必要はありません(大学院により異なる場合もありますので事前に確認が必要です)。

① 4年制大学を卒業している又は卒業見込み

② 文部科学大臣が指定した者

③ 本大学院研究科において、大学を卒業した者と同等以上の学力があると認めた者

これを知らず、大学を卒業していないという理由で大学院を諦めている方もいますが、一定以上の実務経験を積んでいれば受験資格を得られることもあります。実際、私の知人で高卒で大学院に入学して修了した方もいらっしゃいます。

大学院入試は、9月~10月の秋入試、1月~2月の春入試の2回行われます。大学院は秋入試がメインとなっており、秋に定員まで合格者を出し、辞退がなければ春入試は実施しないところもあります。そのため、受験するのであれば秋入試を目標にするのが無難です。

大きく分けると大学院の入試試験は下記の2種類になります。

一般入試(社会人経験なし)

研究計画書(事前提出)+ 筆記試験(税法)+ 筆記試験(外国語)+ 口述試験(大学院による)

社会人入試(社会人経験1年以上あり)

研究計画書(事前提出)+ 筆記試験(税法)+ 口述試験

大学院によっては社会人入試がないところもあるため、試験内容は事前にホームページなどで確認が必要です。私が通った大学院は、事前に研究計画書を提出し、試験当日に筆記試験と口述試験がある形式でした。ちなみに研究計画書とは、研究するテーマの選定理由、研究目的などについて簡潔にまとめた計画書のことを言います。

筆記試験は税理士試験とはまた違った試験で、過去の判例、税制改正の背景や自身の考えを記述する小論文形式のものが多いと思います。口述試験は研究計画書の内容について、筆記試験の内容について質問されました。

これらは事前準備なしに突破することは難しいため、私は大学院のホームページから過去問をダウンロードして解き、研究計画書についての問答を予測、さらに下記の書籍を読んで基本的事項を整理しました。その他、最近ニュースなどで話題になっている税制についても押さえておくほうがいいと思います。

・『租税判例百選』(中里実有斐閣)
・『税法入門』(金子宏有斐閣
・『よくわかる税法入門』(三木義一、有斐閣
・『大学院・大学編入学 社会人入試の小論文 改訂版 思考のメソッドとまとめ方』(吉岡 友治実務教育出版

これらの書籍については、古い版のものでも大事なエッセンスを拾うことができますので、最新のものにこだわらなくても大丈夫です。

あと、有名な書籍として『租税法』(金子宏、弘文堂)がありますが、これは辞書のようなものであるため、現時点では熟読する必要はないかと思います。また、入試には税法六法の持ち込みができることが多いので、持ち込みの可否を事前に確認しておきましょう。

大学院入試や修士論文執筆で収集した文献・書籍の一部

まとめ

本記事では、税理士試験科目免除の大学院に行きたいけれど、何から検討したらいいかわからない…という方に向けて大学院を選ぶ際のポイントを5つご紹介しました。

私は税理士試験勉強をはじめた頃から、税理士試験で5科目合格して税理士になること(いわゆる官報合格)を目指していましたが、年齢的なこと、家族の状況などを鑑みて大学院を選択しました。

大学院では税理士試験勉強とは違う視点で税法を学ぶことができ、新しい考え方、ものの見方が身についたと感じています。税理士試験5科目合格であっても、大学院を選択したとしてもルートが違うだけで税理士になるという目的は変わりません。どちらのルートがいいのかは、ご自身の状況に合わせて選択することが大事です。

余談ですが、私はいわゆる官報合格で官報に氏名が載る経験をしたいと思い、当初は5科目合格を目指していました。しかし、税理士試験科目免除したとき、税理士登録したときにも官報に氏名が載ります。ルートは違えど、官報に名前が載るという経験はできたので、税理士になり官報に氏名が載るという目的は達成できました。

手段にこだわりをもって目的を達成することは大事ですが、目的と手段を見失わないようにすることも大事です。大学院が気になっている方は、後悔しないよう、まずは情報収集からはじめてみましょう。

<執筆者紹介>

佐藤憲亮(さとう・けんすけ)

佐藤憲亮税理士事務所 税理士
京都市出身。 医療系特化事務所、税理士法人の社員税理士(役員)を経て、気軽に相談できる専門家として税務顧問業務をメインに活動。実務で得た知識や経験を活かし、税務記事や税務論文の執筆、自身でブログの運営をしている書くことが好きな税理士。大学卒業後、税理士事務所で14年の実務経験を積みながら、大学院で2年間税法を学ぶ。2020年に税理士登録。2023年6月に京都市中京区にて独立。


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