【税理士試験】今年の簿記論はどうだった? 渡邉 圭先生が予想するボーダーラインと学習アドバイス


渡邉 圭(千葉商科大学准教授)

【編集部より】
2023年8月8日(火)〜10日(木)の3日間にわたり、令和5年度(第73回)税理士試験が実施されました。会計科目の受験資格が撤廃されてはじめての試験であり、本年度の受験申込者数は前年に比べ、簿記論が約23%増、財務諸表論が約28%増、全科目合計でも約14%増となりました。なお、本年度の合格発表は2023年11月30日(木)に予定されています。
そこで、本企画では、「簿記論」・「財務諸表論」・「法人税法」・「相続税法」・「消費税法」について、各科目に精通した実務家・講師の方々に本試験の分析と今後の学習アドバイスをご執筆いただきました(掲載順不同)。ぜひ参考にしてください!

全体的な難易度とボーダーライン

第73回税理士試験の簿記論は過去問と比較しても、問題量が多く、難易度の高い出題でした。

第一問は、基礎論点の出題でしたが、特殊仕訳帳という伝統的な帳簿組織が問われており、ソフトウェアの問題もケアレスミスを誘う内容となっています。

第二問では、外貨建取引のうち、為替予約、社債(利息法)を中心に出題されました。時間配分の関係で、後半の問題を取捨選択する必要があったでしょう。

第三問については、問題量が多く、特に棚卸資産は一般販売に加えて未着商品、製造販売と幅広く問われています。合格するためには、各問で基本的な論点を正確に解答することが求められます。

税理士試験では、日商簿記検定の試験範囲外の論点も出題され、簿記論・財務諸表論では理論的な考え方も問われます。
たとえば過去には、商品売買の記帳方法の1つである小売棚卸法が出題されました。現行の会計基準上、廃止された論点であっても、企業会計原則や連続意見書といった伝統的な会計諸原則が存在しているため、これらを踏まえて学習することをオススメします。

以上を踏まえ、全体的な難易度はAランク、ボーダーライン予想は60点以上、合格確実ライン予想は71点以上と考えます。この点数は、各専門学校が公表する解答速報を参考に自己採点の目安としてください。

*本記事においては、問題の難易度を次のように表します。
 Aランク:難しい 
 Bランク:普通
 Cランク:優しい

【第一問】特殊仕訳帳とソフトウェアについて

・難易度:B
ボーダーライン予想:16点以上
・合格確実ライン予想:21点以上

特殊仕訳帳による帳簿組織の構造について出題されました。伝統的な論点のため、あまり対策をしていない受験生にとっては点数が取りにくい問題だったと思います。

ですが、簿記論では帳簿組織の構造が問われるため、学習必須の論点です。ソフトウェアの問題も勘定科目が選択項目として示されており、そこから解答を予測することができます。そこで、第一問の難易度はBと判断しました。

特殊仕訳帳の問題は、当座預金出納帳、売上帳、仕入帳、手形記入帳に記帳する勘定科目と金額について問題文を読み取れば解答できるため正答したいところです。

また、残高試算表の推定は各勘定科目の金額を集計すれば解答可能です。問題量が過去の本試験と比較しても多いため、残高試算表の合計額は解答できなくても問題ないと思います。

ソフトウェアは、新しいソフトウェアの取得原価を正確に算定できたかがポイントです。X3年度、X4年度でソフトウェア開発のため、材料費、労務費、経費が消費されています。これは、ソフトウェアが完成するまで「ソフトウェア仮勘定」で処理しています。

しかし、この中には、現在使用しているソフトウェアに要した補助プログラム費用が含まれており(問題文に記載有り)、ソフトウェア廃棄損に振り替えています。そのため、新しいソフトウェアの取得原価は、補助プログラム費用を除いて計算する必要があります。

仮に、取得原価の算定を間違えた場合は、その他の論点で点数を獲得していればボーダーラインに入ると予想します。

【第二問外貨建取引(為替予約:独立処理)について

難易度:A
ボーダーライン予想:14点以上
・合格確実ライン予想:16点以上

外貨建取引のうち、商品売買に関する為替予約、ドル建ての社債発行を中心に出題されました。メモ用紙にT勘定を作り、金額を集計するなどの工夫が求められます。

仕訳の穴埋め問題と決算整理後の社債、社債利息(利息法)の金額が正当できると合格可能性が高まると思います。時間配分の関係で、決算整理後の減価償却費、仕入、外貨預金、為替差損益、決算整理前の外貨預金は解答できなくても問題ないでしょう。

為替予約に関しては、事前予約、同時予約、事後予約の会計処理があげられますが、原則法である独立処理に加えて、振当処理についての理解も受験生には求められます。

また、問題の指示で、ドル建てでは端数処理は行わず、円換算後に計算の都度四捨五入すると記載がありますので、読み落としがないことも合格には必要です。

【第三問総合問題:決算整理後残高試算表の作成について

・難易度:A
ボーダーライン予想:30点以上
合格確実ライン予想:35点以上

第三問は決算整理後残高試算表の作成が問われました。小口現金、当座預金、棚卸資産、有形固定資産、貸倒引当金、賞与引当金、退職給付引当金、株式引受権、出資金、経過・未経過勘定、消費税、法人税について出題されています。毎年出題されている内容に加えて、株式引受権など新しい論点も問われました。

このうち、小口現金(雑損失も含む)、当座預金、期末棚卸資産の評価、前払費用、未払費用、賞与引当金、退職給付引当金、減価償却、保険差益、自己株式、未払消費税、未着品売上、手形売却損、投資利益の論点は正確に解答する必要があります。

特に、本問の製品関連の金額は集計しやすいため、仕掛品、製品、異常減損費を解答できると合格可能性が高まります。異常減損・異常仕損は正常な原価に含めてはいけないため、金額を明らかにして製造原価から差し引きます。材料の棚卸減耗は加工費(製造間接費)となるため、集計ミスをしないようにします。

受験指導の経験上、製造業の論点を苦手とする受験生は多く、問題量も過去問と比較して多いため、難易度はAと判断しました。製造業の論点をより正答するためには、生産データ(加工の進捗度順にまとめる)、T勘定、ワークシートなどを使い、集計をしやすくするメモの工夫が求められます。

時間配分の関係上、税効果会計、圧縮積立金、株式引受権については正答できなくても合否に影響はないと考えます。

来年度の税理士試験に向けて

・ボーダーラインまたは合格確実ラインを超えていれば、次の科目へ進もう
ボーダーラインまたは合格確実ラインを下回る場合は、受験科目の復習をしよう

自己採点の点数に応じて9月からの試験対策が異なります。各専門学校が公表しているボーダーラインまたは合格確実ラインを超えていれば、9月から開講される講座を受講して、来年度の税理士試験に向けて対策をしましょう。

ボーダーラインまたは合格確実ラインを下回る場合は、合格発表まで応用問題集などを使って、復習をしながら知識を維持してください。応用問題集は月に1冊終わらせるペースで構いません。財務諸表論が未学習であれば、9月から講座を受けるなどして簿記論の復習と並行して学習するのも効果的です。

来年度本試験の受験科目が税法科目の場合は、学習量の関係から9月から学習を始めることをオススメします。自己採点から次のステップを判断するのは難しいと思いますが、本記事が1つの判断材料になれれば幸いです。

感謝しながら学習する

税理士試験の受験、本当にお疲れ様でした。

本試験までさまざまな誘惑を払い除けてきたかと思います。私も受験生時代は、試験直前に開催される花火大会、二度寝、友人との付き合いなど誘惑に負けそうな場面がいくつかありました。

そんな時は、「もし明日が本試験だったら…」と考えては「あの時もっと勉強しておけばよかった」と後悔する自分を想像して、勉強しなければいけない学習環境をつくりました。ですが、最も支えになったのは、家族や先生、友人の存在です。受験勉強の支えとなる身近な人に、常に感謝をしながら学習するということも、誘惑を振り払う要因になるでしょう。

8月の間はゆっくりと、余暇を楽しみながら休んでください。私も、ここまで数々の誘惑を振り払い、税理士試験に向けて頑張った学生たちを、花火大会に連れていってあげたいと思います! ^_^

<執筆者紹介>
渡邉 圭(わたなべ・けい)

千葉商科大学准教授。基盤教育機構・瑞穂会に所属。
2022年3月、千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了、学位取得(政策博士)。
瑞穂会では千葉商科大学学生を対象にした日商簿記検定3級から1級講座、税理士試験講座の運営および学生指導に従事し、2023年6月現在、日商簿記検定1級合格者194名(累計)、税理士試験簿記論合格者59名(累計)・財務諸表論合格者39名(累計)の輩出に貢献している。


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