連結会計の仕訳に強くなる超基礎トレーニング【第13回】成果連結:前期末貸倒引当金の調整(ダウン・ストリーム)


関口高弘
(公認会計士)

【編集部より】
会計人コースWebの読者アンケートによると、「連結会計」をマスターしたいという声がちらほら。日商簿記2級でも定番論点の一つとなり、会計士・税理士試験など会計系資格の合格を目指す人にとって避けて通ることのできない論点です。
そこで、本連載では、『連結会計の計算に強くなる3ステップ式問題集』の著者である関口高弘先生(公認会計士)に、「連結会計」の仕訳問題を週1回のペースで出題していただきます(毎週金曜日掲載予定)。
本連載で出題する問題は、連結会計に関する日商簿記2級レベルのインプット学習が一通りできた人を対象に、日商簿記1級や税理士試験・公認会計士試験にステップアップを目指す人にとって「土台」となる内容を想定しています。なお、毎回のテーマによって出題数は変動します。
もし本連載でつまずいた問題があれば、もう一度テキストでしっかり復習しましょう!

「本連載のねらい」はコチラをご覧ください。

さらに問題を解きたい方は、『連結会計の計算に強くなる3ステップ式問題集』をチェック!

今回のポイントー成果連結:前期末貸倒引当金の調整(ダウン・ストリーム)

前期末において貸倒引当金の調整を行っている場合には、差額補充法を前提とすると、連結修正仕訳は以下のようになります。

Point1.前期末の相殺債権 < 当期末の相殺債権

(借)貸倒引当金××*1(貸)利益剰余金××*2
     貸倒引当金繰入××*3

*1 当期末の相殺債権×貸倒引当金の設定率
*2 前期末の相殺債権×貸倒引当金の設定率、なお、株主資本等変動計算書の作成を前提とすると「利益剰余金当期首残高」勘定を用いることになる。
*3  貸借差額

Point2.前期末の相殺債権 > 当期末の相殺債権

(借)貸倒引当金××*1(貸)利益剰余金××*2
 貸倒引当金繰入××*3    

*1 当期末の相殺債権×貸倒引当金の設定率
*2 前期末の相殺債権×貸倒引当金の設定率、なお、株主資本等変動計算書の作成を前提とすると「利益剰余金当期首残高」勘定を用いることになる。
*3  貸借差額、なお、相殺債権は前期に比べて減少しているため、当該相殺債権で考えると戻入れとなるが、相殺される債権を含めたすべての債権(売掛金)に対する貸倒引当金は繰入になるのが通常であるため、仕訳は戻入れではなく繰入を使用している。

問題(全3問)

下記の各取引について仕訳しなさい。なお、勘定科目は、設問ごとに最も適当と思われるものを選ぶこと。
(なお、スマホでご覧の方は「画面をヨコ」にすると仕訳や表が見切れないのでオススメです。)

問1.

東京商事株式会社の大阪商事株式会社に対する売掛金残高は、×4年度末が¥2,000、×5年度末が¥5,000であり、当該残高に対して2%の貸倒引当金を差額補充法により設定している。なお、東京商事株式会社は、×3年度末に大阪商事株式会社の発行済株式数の60%を取得して支配を獲得している。×5年度末の連結財務諸表作成上、必要な仕訳を答えなさい。

 〔勘定科目〕

貸倒引当金売掛金非支配株主に帰属する当期純損益買掛金
利益剰余金非支配株主持分貸倒引当金繰入のれん

解答

(1)債権債務の相殺消去

(借)買掛金5,000 (貸)売掛金5,000 

(注) ×5年度の連結修正仕訳を作成するため、消去する金額は×5年度末の売掛金残高を使用する。

(2)貸倒引当金の調整 

(借)貸倒引当金100 (貸)利益剰余金40 
     貸倒引当金繰入60 

※ 解答の(2)の仕訳は下記①と②に分けて考えることができる。

① ×4年度末分

(借)貸倒引当金40 (貸)利益剰余金40 

×4年度末売掛金残高2,000×繰入率2%=40

② ×5年度末分

(借)貸倒引当金60 (貸)貸倒引当金繰入60 

(×5年度末売掛金残高5,000-×4年度末売掛金残高2,000)×繰入率2%=60

問2.

東京商事株式会社の大阪商事株式会社に対する売掛金残高は、×4年度末が¥8,000、×5年度末が¥6,000であり、当該残高に対して5%の貸倒引当金を差額補充法により設定している。なお、東京商事株式会社は、×3年度末に大阪商事株式会社の発行済株式数の80%を取得して支配を獲得している。×5年度末の連結財務諸表作成上、必要な仕訳を答えなさい。

 〔勘定科目〕

貸倒引当金売掛金非支配株主に帰属する当期純損益買掛金
利益剰余金非支配株主持分貸倒引当金繰入のれん

解答

(1)債権債務の相殺消去

(借)買掛金6,000 (貸)売掛金6,000 

(注) ×5年度の連結修正仕訳を作成するため、消去する金額は×5年度末の売掛金残高を使用する。

(2)貸倒引当金の調整

(借)貸倒引当金300 (貸)利益剰余金400 
 貸倒引当金繰入100     

※ 解答の(2)の仕訳は下記①と②に分けて考えることができる。

① ×4年度末分

(借)貸倒引当金400 (貸)利益剰余金400 

×4年度末売掛金残高8,000×繰入率5%=400

② ×5年度末分

(借)貸倒引当金繰入100 (貸)貸倒引当金100 

(×5年度末売掛金残高6,000-×4年度末売掛金残高8,000)×繰入率5%=100

問3.

東京商事株式会社(3月決算)は、×4年4月1日に貸付期間5年、利率年10%、利払日は年1回(3月末)で、大阪商事株式会社に¥5,000の貸付けを行った。東京商事株式会社は、長期貸付金の期末残高に対して、×4年度末は貸倒実績率3%で、×5年度末は貸倒実績率5%で貸倒引当金を設定している。なお、東京商事株式会社は、×3年度末に大阪商事株式会社の発行済株式数の70%を取得して支配を獲得している。×5年度末(×6年3月31日)の連結財務諸表作成上、必要な仕訳を答えなさい。

 〔勘定科目〕

貸倒引当金繰入未払利息受取利息貸倒引当金
長期貸付金長期借入金支払利息未収利息

解答

(1)債権債務及び取引高の相殺消去

(借)長期借入金5,000 (貸)長期貸付金5,000 
(借)受取利息500*1(貸)支払利息500 

*1 5,000×利率10%=500

(2)貸倒引当金の調整 

(借)貸倒引当金250 (貸)利益剰余金150 
     貸倒引当金繰入100 

※ 解答の(2)の仕訳は下記①と②に分けて考えることができる。

① ×4年度末分

(借)貸倒引当金150 (貸)利益剰余金150 

×4年度末長期貸付金残高5,000×繰入率3%=150

② ×5年度末分

(借)貸倒引当金100 (貸)貸倒引当金繰入100 

(×5年度末長期貸付金残高5,000×繰入率5%)-(×4年度末長期貸付金残高5,000×繰入率3%)=100

今回のトレーニングは以上です!
次回は7月21日(金)に公開予定です。それまでにしっかり今回の復習をしておきましょう!

<連載バックナンバー>
【第2回】資本連結:支配獲得日の会計処理①
【第3回】資本連結:支配獲得日の会計処理②
【第4回】資本連結:支配獲得後の会計処理①
【第5回】資本連結:支配獲得後の会計処理②
【第6回】成果連結:債権債務の相殺消去(資金取引)、期末貸倒引当金の調整
【第7回】成果連結:債権債務の相殺消去(ダウン・ストリーム)、期末貸倒引当金の調整
【第8回】 成果連結:期末未実現損益の消去(ダウン・ストリーム)
【第9回】成果連結:債権債務の相殺消去(アップ・ストリーム)、期末貸倒引当金の調整
【第10回】 成果連結:期末未実現損益の消去(アップ・ストリーム)
【第11回】 資本連結:開始仕訳①
【第12回】 資本連結:開始仕訳②株主資本等変動計算書の勘定科目
【第13回】成果連結:前期末貸倒引当金の調整(ダウン・ストリーム)
【第14回】成果連結:前期末未実現損益の消去・実現(ダウン・ストリーム)
【第15回】成果連結:前期末貸倒引当金の調整(アップ・ストリーム)
【第16回】成果連結:前期末未実現損益の消去・実現(アップ・ストリーム)
【第17回】成果連結:応用論点(仕入未達取引)
【第18回・完】成果連結:応用論点(連結会社振出の手形の割引・裏書)

【執筆者紹介】
関口 高弘(せきぐち・たかひろ)
1976年5月神奈川県生まれ。1998年10月公認会計士試験合格。1999年3月中央大学商学部会計学科卒業、2001年3月中央大学大学院商学研究科博士前期課程修了。公認会計士試験合格後、大手監査法人で上場企業を中心とした会計監査に従事。2002年4月公認会計士登録。日商簿記検定試験(商業簿記・会計学)、税理士試験(簿記論・財務諸表論)、公認会計士試験(財務会計論)の受験指導歴17年。現在は、中央大学経理研究所専任講師、中央大学商学部客員講師、朝日大学経営学部非常勤講師、高崎商科大学商学部特命講師他を務める。


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