【編集部より】
早いもので2022年もあとわずか。そして、この「年末年始の課題図書」の連載も今回でひと区切りです。本連載では、学者・実務家など10人の読書愛好家から、会計人コースWeb読者の皆さんにオススメする「年末年始の課題図書」をご紹介いただきました(1日お一人の記事を掲載してます・順不同)。
受験勉強はもちろん、仕事や人生において新しい気づきを与えてくれる書籍がたくさんラインナップされています。ぜひこの機会にお手にとってみてください!
今回の記事では、立命館大学経営学部教授の西谷順平先生にオススメの課題図書を聞きました!
編集部:オススメの課題図書、どのような基準でピックアップしたのですか?
西谷先生:今回、ビジネスに直接関係する専門書ではなく、あえて歴史や哲学、宗教といった分野から4冊ピックアップしました。それは、仕事の新しいアイデアや気づきは、異なる分野の本に触れたときに生まれるからです。欧米のビジネスパーソンも、バカンスなどの長期休暇では、大量の本を購入して何週間も過ごします。ビジネス書だけではなく、そのなかには小説や歴史、哲学といったジャンルの本も多く含まれます。それは教養を深めたりリフレッシュする目的はもちろんのこと、仕事とは関係のない本からビジネスへのアイデアが見つかるからです。そうした視点で、読みやすいものから硬派なものまでピックアップしています。
オススメ①世界史を俯瞰できるタイパ最強の1冊―『一気読み世界史』
編集部:まず1冊目を教えてください。
西谷先生:最近出版された本で、私と同じ立命館の出口治明先生が書いた『一気読み世界史』(日経BP)がおすすめです。2022年はウクライナとロシアの戦争がありますので、世界史や地政学に興味を持つ方も増えたのではないでしょうか。「でも、何を読んでいいかわからない…」という方には、はじめの1冊として最適です。
編集部:どんな特徴のある書籍ですか?
西谷先生:なんといっても、最近流行の「タイパ」が最強という点です。世界史の大切な部分が凝縮されているので、短時間でエッセンスを理解することができます。
また、世界史を俯瞰しているのも面白いです。「…が起こっていた。その頃、○○では…」のように、同時期に他の地域で何があったのか横串を通して書いているので、世界史を利用した大学受験を考えている受験生にも読んで欲しいですね。
オススメ②宗教とビジネスにもつながりが見えてくる―『哲学と宗教全史』
編集部:次のオススメ書籍も同じ著者なのですね。
西谷先生:そうですね、同じく出口先生が書いた『哲学と宗教全史』(出口治明【著】、ダイヤモンド社)も読んで欲しい1冊です。宗教家の方には嫌がられるかもしれませんが、自分が信じる宗教をどう売り込んでいたかというビジネスの視点も面白いです。つまり、アイデアによる信者獲得競争の側面ですね。たとえば、「ビシュヌ神」と「千手観音」など、ヒンドゥー教と仏教もお互いにアイデアを貸し借りし、競争して教義や祈る対象などを開発してきた点などが興味深いです。本書は一見するとビジネスの世界とは関係なさそうですが、読めば仕事のアイデアが湧いてくる気がしませんか?
オススメ③会計の教科書の裏側がわかる―『会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカー500年の物語』
編集部:次の本は私も読みました。面白いですよね!
西谷先生:会計関連の資格取得を目指す方にオススメなのが『会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカー500年の物語』(田中靖浩【著】、日本経済新聞出版社)です。私とは会計の世界史に対する見方は異なるものの、物語調で書かれていて、年末年始にざっと全体像を押さえたい方にはいいと思います。著者が公認会計士ということもあって、「会計」という仕事の幅広さや奥深さを知ることができます。
受験生はどうしても教科書を覚える、問題を解くということに終始しがちです。ですが、たとえば「減価償却」1つをとってみても、その歴史的な背景がわかると理解が深まりますよね。会計の教科書の記述がなぜ今のようになっているのか、自分が読んでいる教科書の裏側がわかるので、そうした点でも面白く読めるのではないでしょうか。
著者の田中先生は、他にもアートにからめて経営、会計について語る本など多数の著書があるので、その中から興味をもった本を手にとるのもおすすめです。
オススメ④読み応えのある歴史書―『日本人が知らない最先端の「世界史」』
編集部:それでは、最後の1冊のご紹介をお願いします。
西谷先生:本格的な歴史に触れたい方、もう少し突っ込んだ見方をしたい方には、『日本人が知らない最先端の「世界史」』(福井義高【著】、祥伝社)をオススメします。著者の福井先生も私も会計学者ですので、研究会などでお会いしたり、お話したりする機会もあるのですが、知的好奇心があふれていらっしゃいますし、色々なことに造詣が深くていらっしゃって驚きます。
編集部:出版当時に読んだ覚えがあるのですが、現地の言葉で書かれた原文の資料に数多くあたっているんですよね?
西谷先生:そのとおりで、数多くの原著・原文をもとにまとめられています。さきほど挙げた3冊は実務家の方が書かれた世界史の本であるのに対して、この本はやはり研究者が書かれた本だなという印象が強いです。先ほどの3冊よりも骨太で難しい本が好きな方には、こちらがオススメです。
編集部:ありがとうございました!
【お話を聞いた人】
西谷順平(にしたに・じゅんぺい)
立命館大学経営学部教授。西谷ゼミからは、毎年のように公認会計士試験や米国公認会計士試験の合格者を輩出。主な著書に『新版 財務会計の理論と実証』(共訳、中央経済社)、『保守主義のジレンマ』(単著、中央経済社)など。