税理士 鈴木雅人
【編集部から】
税理士試験の“新年度”がスタートした9月は、学習スタイルや勉強法を確立させる時期。
とはいっても、合格のための戦略はさまざまに考えられるため、「どんな学習スタイルや勉強法がいいのか?」と悩む受験生も多いと思われます。
そこで、大学生時代・専念時代・社会人時代と、さまざまな環境下での受験を経験された鈴木雅人先生に、それぞれの時期を振り返っていただき、「やってはいけない」という切り口で、学習面・生活面・メンタル面についてアドバイスをいただきました。
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・専念編(本記事)
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専念受験生時代は長い「助走期間」
学生受験生として、専念受験生として、そして社会人受験生として、さまざまな状況下で税理士試験を受験した当時にフォーカスしながら、3回にわたって「やってはいけないこと」を振り返る本企画。
2回目となる今回は、「専念受験生時代」を振り返ってみます。
私は、大学卒業後の1年間、税理士試験に集中するため勉強に専念をしていました。メンタル的に一番きつかったのは、この時期です。
大学時代の友人は就職し、社会人として人生を前に進めていますが、自分はなんだか停滞している気がしていました。
このように専念受験生の方は焦りを感じることもあると思いますが、調子を崩すことなく、「助走期間が長いぶん、遠くに跳べる」と思って、目の前のやることにだけ集中してください。
【私の受験歴】 大学4年生:簿記論・財務諸表論を学習 大学卒業後1年間(専念):所得税法を学習 社会人時代:消費税法・住民税を学習 |
学習していたのは所得税法
税理士試験で官報合格を目指すうえで、避けて通れないのが税法の選択必須科目(法人税法・所得税法)です。
所得税法と法人税法の2科目は、他の科目に比べて圧倒的に論点が多く、知識を身につけるのにも時間がかかります。
そのため、私は所得税法の勉強を早期に終わらせるために、受験勉強に専念することにしました。ボリュームが多いので1科目に絞りましたが、今思えば、他の受験生に比べて多くの勉強時間の確保ができるぶん、いわゆるミニ税法も勉強しておけばよかったと感じます。
時間があるなかで1科目しか勉強していないと、やり込める反面、マンネリ化するようにも思いました。
勉強すれば絶対に合格できる試験ではありませんが、やれるときにやれるだけやっておかないと将来、物理的な勉強時間が確保できなくなるかもしれません。
また、1年に1回の勝負。「1科目に専念しても合格できなかったら……」と少し不安を覚えることもありました。
メンタルのコントロールにつながる場合もあるので、専念受験生の方は、複数科目に挑戦することも検討してほしいと思います。
専念受験生がやってはいけない3つのこと
専念受験生は、学生や社会人以上に勉強時間が確保しやすいです。
「暗記」が試験の比重を占める税理士試験であれば、やったものが成績に現れる可能性は高いので、合格可能性を上げるためには、モチベーションの維持などメンタル面のケアがより重要になります。
専念受験生の場合、人と接する機会が極端に減るため、うまく息抜きをして自分をコントロールしていきましょう。
それでは、専念受験生がやってはいけない3つのことをお伝えします。
NG① 人間関係を極端に遮断する
専念時代は、毎日が自宅と専門学校の往復で、なんとなく人とも会わなくなる時期です。私も、1日に口を利くのがコンビニの店員さんくらい、という日がありました。
だからこそ専念受験生は、メンタルが落ちないようにすることを意識してください。
私は、自習室に一番乗りするために、いつもシャッターが開く前に校舎前で待っていたのですが、そのとき同じように並んでいた名前も知らない公認会計士受験生を勝手にモチベーターにしていました。
あの人たちに負けないように早起きしよう、あの人たちがまだ頑張っているから自分も負けないようにしよう、と。
人と接することがない専念時代でしたが、常に前向きに学習することを心がけていました。
NG② 実務書などに手を出す
専念受験生の場合、とにかく時間はあるので、専門学校のカリキュラムを消化した後に、実務書などに興味をもつこともあると思います。
「知っている」と「知らない」では大きな違いなので、その取り組み自体はよいことなのですが、税理士試験の特性を考えると「みんながわかる論点を誰よりも早く、正確に解く」ことが大事です。
専門学校のカリキュラムでも習わない論点、みんながわからない論点に固執して、誰でもわかる論点を取りこぼしているようでは元も子もありません。
その先の教材に手を出すのは、「専門学校のカリキュラムで学習する論点をミスなく解けるようになってから」でよいと思います。
NG③ 達成不可能な勉強計画を立てる
「専念しているのだから、どうしても合格したい」という強い気持ちが働き、達成不可能な綿密な計画を立てててしまうことがあります。
しかし、焦りは禁物! 受験勉強は1年と長いので、継続できる計画を立てるようにしてください。計画を達成できずに「ダメだ、ダメだ」とズルズルいってしまうことが一番怖いです。
また、計画は、ただ「この単元を勉強する」と抽象的に立てるのではなく、どれくらいの量か、どれくらいの時間か、どのくらいの成果が出るまでか、できるかぎり具体化させるように意識しましょう。
専念受験生へ向けて
専念受験生は、他の受験生に比べて勉強時間があるので、焦らずに「周りは周り、自分は自分」と割り切る気持ちを持ってください。雑念は捨て、やるべきことに集中します。そうすれば自ずと結果はついてくると思います。
私は専念時代、ボーズ頭にするなど形から入りましたが、そうではなく、合格につながることを早く見つけ、それに集中しましょう。
最後に、「これはやめておきましょう」ということがもう1つありました。
専念受験生は、朝から晩まで勉強漬けの生活になりますが、当時の私のように、歩き理マス(専門学校の暗記教材が「理論マスター」というものでした)はやめてくださいね。
テキストや参考書をいっぱいに詰め込んだバックパックを背負い、歩きながら暗記教材を読んでいたので、道行くおばあさんに「二宮金次郎ですね」と声を掛けられたことがあります(笑)。
事故を起こして、受験勉強ができない……なんてことがないように、生活面にも気を配りながら勉強をしてください。
次回は、社会人受験生時代を振り返ります。
〈執筆者紹介〉
鈴木 雅人(すずき・まさと)
税理士
埼玉大学経済学部卒業後、令和2年度まで資格の学校TAC税理士講座講師(所得税法・住民税)として、教室講座の他、通信担当講師として全国の受験生の指導にあたる。さらに、テキストや答練などの教材作成も担当。
勤務しているマルイシ税理士法人は、不動産と相続の専門家集団として不動産オーナーや不動産会社の問題解決のサポートを行っている。
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