【税理士試験】今年の消費税法はどうだった? 加藤久也先生が予想するボーダーラインと学習アドバイス


加藤 久也(税理士/名城大学大学院非常勤講師)

受験生のみなさん、お疲れさまでした。令和4年度の消費税法はボリュームが多く、難易度は高めだったと思います。

本記事では、問題を講評したうえで合格の決め手についてみていきます。

第一問の講評

第一問は、問1と問2の2問が出題され、問1は規定を解答する個別問題が2題、問2は事例について判断させる事例問題が5題という構成で出題されました。一部、判断に迷う問題もありましたが、基本的な知識を問う出題でした。

各問題についてみていきましょう。

問1

(1)特定課税仕入れに係る対価の返還等を受けた場合の消費税額の控除に関して、用語の意義を述べたうえで、規定の内容と要件を解答する問題でした。

①特定課税入れ

消費税法5条1項から意義の部分(課税仕入れのうち特定仕入れに該当するものをいう。)を解答します。

解答時間に余裕があれば、「課税仕入れ」の意義(消費税法2条1項12号)と「特定仕入れ」の意義(消費税法4条1項)についても触れるとよいでしょう。「特定資産の譲渡等」の意義(消費税法2条1項8号の2)も解答したくなりますが、解答時間から難しかったのではないでしょうか。

②特定課税仕入れに係る対価の返還等

消費税法38条の2第1項本文から意義の部分を解答します。

③特定課税仕入れに係る支払対価の額

消費税法30条6項本文から意義の部分を解答します。

④当該消費税額の控除に係る内容

消費税法38条の2第1項を解答しますが、すでに②で「特定課税仕入れに係る対価の返還等」の意義を解答していますから、「国内において・・・・・・一部の減額」の部分を置き換えることにより時間の節約ができました。

⑤当該消費税額の控除に係る要件

消費税法38条の2第2項を解答します。

⑥相続、合併又は分割があった場合の取扱い

消費税法38条の2第3項(相続があった場合の取扱い)を解答し、合併又は分割があった場合において準用されることを説明できれば十分な解答になったと思います。

(2)消費税法上の「価格の表示」について、その内容を述べ、事例について「価格の表示」の対象となるかを判定させる問題でした。

消費税法63条本文を解答することで、①義務付けられる対象者、②対象となる取引、③対象から除かれている取引について触れながらその内容を述べることになります。

イからニまでの事例については、それぞれ対象となるかどうか結論を明示したうえで、その理由を端的に述べられるとよかったと思います。

問2

国際取引の課税関係を、事例を用いて問う問題でした。計算問題として解いたことのある内容が多かったのではないでしょうか。理論問題では、法令に従い、その取扱いを説明する必要がありますので、規定を示しながら結論を導けたかどうかがポイントとなります。

第二問の講評

第二問は、問1と問2の2問が出題され、問1は原則課税が適用される法人の納付税額を計算する問題、問2は簡易課税制度の適用を受ける法人の納付税額を計算する問題でした。問1の納税義務の判定は難解であったため、時間をかけすぎると時間不足に陥る危険性があります。一方、問2は難解ではなかったため、納付税額を合わせることもできたと想定されます。

各問題についてみていきましょう。

問1

(1)納税義務の有無の判定

納税義務の有無について3期分を解答させる問題です。しかも、前々課税期間及び前課税期間について、特定新規設立法人の特例(消費税法12条の3)について判定させたうえに、当課税期間の判定では分割等があった場合の特例について判定させるという難解なものでした。

甲社は、設立後乙社との間に会社法467条1項5号に掲げる事後設立に係る契約を締結し乙社の事業を承継していることから、消費税法12条(分割等があった場合の納税義務の免除の特例)の規定が適用されます。この場合、納税義務が免除されないこととなるのは、この契約により金銭以外の資産の譲渡を受けた日となるため、課税期間の中途となる令和3年7月1日に課税事業者となります。

これらを踏まえて納税義務の判定を短時間で要領よく示すことは、かなり難しかったものと思います。

(2)課税標準額の計算

軽減税率が適用される取引に気を付けながら区分できれば、すべて正解できたものと思います。

(3)仕入税額控除の計算

【損益計算書に関する付記事項】ヘ(ロ)感染症予防等の観点から産業医として招いた個人開業医に支払った報酬の取扱いについては、おそらく初見のため正解できなかったものと考えられます。これ以外については、特に難しい論点はないものの、ボリュームが多いため、慌てずに正しく区分できたかどうかがポイントになります。

また、固定資産に係る調整については判定のみで調整税額の計算はなく、居住用賃貸建物の調整についても出題されなかったため、この部分の時間は節約できたものと思います。

(4)納付税額の計算

売上返還等対価に係る控除税額、中間納付額の計算は正解できますが、納付税額を正解することは困難だと思います。

問2

納税義務の判定、簡易課税制度適用有無の判定、簡易課税の業種区分についても簡単だったため、納付税額について正解できると思います。

合格の決め手

次に、合格の決め手について考えてみましょう。各設問の配点をつぎのように予想しました。

第一問 50点

問1(1)15点(2)10点とし、計25点。

問2(1)~(5)各5点とし、計25点。

第二問 50点

問1 35点
〈内訳〉
納税義務の判定 5点
課税標準額の計算 5点
仕入税額控除の計算 20点
納付税額の計算 5点

問2 15点

上記の配点予想を前提に、合格点について検討します。

第一問

問1(1)は基本的な内容でしたが、解答時間との兼ね合いから一部分は解答できないことを想定し、15点中12点。(2)は軽微なミスを考慮し、10点中9点。合計25点中「21点」を合格点と予想します。

問2は1問は正解できないものとし、25点中「20点」を合格点と予想します。

第一問の合格点は、合計50点中「41点」と予想します。

第二問

問1の納税義務の判定については、ほぼ得点できないと想定し、5点中1点。課税標準額の計算及び仕入税額控除の計算については、8割は正解できると想定し、25点中20点。納付額の計算については、売上返還等対価に係る控除税額、中間納付額について正解できると想定し、5点中3点。35点中「24点」を合格点と予想します。

問2は簡単なため、8割の正解率と仮定し、15点中「12点」を合格点と予想します。

第二問の合格点は、合計50点中「36点」と予想します。

したがって、第一問・第二問の合計で「77点」を合格予想点とします。

今後の学習アドバイス

合格が期待できる場合

今回の本試験で69点以上が取れていれば、合格が十分期待できます。ほかに受験科目がある方は、次の科目の勉強を始めましょう。

ただし、不合格となることを考え、理論暗記を継続し、計算の総合問題を1週間に1問解答することで、基礎力の維持を図りましょう。通達や国税庁Q&Aを確認していくこともお勧めします。

合格が期待できない場合

来年の受験に向けて新たなスタートを切りましょう。今年思うような結果を出せなかった理由を洗い出し、きちんと反省することが大切です。

頑張れなかった方は、なぜ頑張れなかったのか? 頑張れた方は、なぜ結果に反映されなかったのか? を考えてみてください。

おわりに

以上、令和4年度の消費税法の問題を講評し、合格の決め手について考えてきました。しかし、税理士試験の正解および配点は公表されないため、あくまでも私の検討に過ぎないことをご理解ください。

大手専門学校からは模範解答と詳細な配点が公表されますが、受験生の皆さん自身が答案用紙に書いた答案を正確に復元することは難しいですよね。自信のない箇所を「不正解」とすると、実際の得点よりも低い点数になります。その結果、合格確実ラインやボーダーラインに届かずがっかりされることも多いのではないでしょうか。

私の受験生時代もそうでした。結果的に合格した科目でも、自己採点の結果、自信をもって合格したと思えたことは一度もありません。では、模範解答を確認すること、自己採点をすることは無意味なのか、というとそうではありません。

合格確実な点数は取れていなくても、ある程度の点数が取れている場合と、講評で「基本的な項目」「簡単な内容」とされた箇所について正解できていない場合とでは、次にどう行動するかが違ってきます。現実をしっかり受け止め、次の行動に活かすことが大切です。

税理士試験は努力が反映される試験です。みなさんの努力は必ず役に立ちます。それは試験の結果として実現し、税理士業務にも役立つのです。

最後になりましたが、受験されたみなさんに吉報が届くことを願っています。本当にお疲れさまでした。


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