会計士試験令和4年・第Ⅱ回短答式が5月29日に実施されました。
会計士試験は短答式をクリアしなければはじまらないという面もあり,短答式の学習に特化している受験生も多いハズ。では,短答式と論文式のギャップはどこにあり,どう埋めていけばよいでしょうか?
福岡大学・会計専門職プログラムで公認会計士試験の受験指導をされ,また本WEBでも多数記事をご執筆いただいている井上修先生(福岡大学准教授)にお話を伺ったところ,2年生で短答式の合格ラインを超えた学生が数名いるとのこと。
そこで,そのうちの3名の学生と井上先生の座談会により、これまで短答式に特化した学習をしてきている中,8月の論文式をどう闘うか,そのポイントを2回にわたり明らかにしていきます(本日第2回目)。
会計士試験の学習の根本にもかかわるものですので,今年8月の論文式を受験される方のみならず,令和5年以降の合格を目指す方にも非常に参考になる内容。
ぜひ読んで実践していきましょう!(編集部)
(本座談会の参加者)
井上修先生:福岡大学准教授・公認会計士。福岡大学「会計専門職プログラム」の指導を一任されており、現役の大学生が多数、公認会計士試験や税理士試験簿記論・財務諸表論に在学中に合格を果たしている。本プログラムから2018年は10名,2019年は5名,2020年は6名,2021年は4名が公認会計士試験に合格。
K君:普通高校出身。大学1年4月から初学者として日商簿記3級の学習をスタート。
Y君:商業高校出身。大学入学前に日商簿記2級を取得。ただし,指導方針に従って,大学入学後日商簿記3級から学習をし直している。今年の春休みくらいからエンジンがかかってきた印象。
Aさん:商業高校出身。大学入学前に日商簿記2級を取得。日商簿記1級の勉強は独自で進めていたが,Y君と同じく大学入学後ゼロから学習をし直している。また,後輩の初学者に対する簿記の指導も積極的にしている。
受験生同士で採点して気づいた論述問題の書き方のポイントは?
●ワンポイントアドバイス
① 字は同じ大きさで書く!
→字の大きさを同じにするなど読みやすく書くことを意識する。
② 最も疲れないペンを探す!
→答練でいろいろなペンを試して,少しでも書きやすく疲れないものを探す。
③ 1つの文章を長くしない!
→「1文につき1メッセージ」+「接続詞」を意識して解答を書く。
④ 理論科目の論述は,基本的に「理由→結論」のセットで!
→「理由」そのため(したがって)「結論」のかたちで解答を書く。
井上先生:3人は実際に企業法の答練をグループでやってみたんですよね。どうでしたか?
K君:短答式試験の勉強ばかりしていたので,長い論述を書くことの厳しさを知りました。
むちゃくちゃ疲れました。
手が痛くなって途中で心が折れました。
Y君:最初に書いた自分の答案と,他の人の答案がこんなにも違うのかと気づかされました。
そして,他人の答案がこんなにも読みにくいとは思ってもみませんでした。
特に,K君の答案は字がきたなくて……読む気にならなかったです(笑)。
K君:いやいや,ちゃんと丁寧に書いたつもりなんだけど……(汗)。
Aさん:字もそうだけと,文章が長くて何を言いたいのかわからない感じがして……,結局何を言いたいんだっけ?と思って,何度も戻って読み返したりしたよ。
K君:でも,他人の採点って楽しかったです!
模範解答以外の解答もあるとは思いますが,まずは,基礎的な論点だし,型にはめて論述することを考えれば,模範解答を基礎にして採点するのは,とても良い勉強になりました。
井上先生:まず,字を綺麗に書くという点ですが,今から字を綺麗にすることは難しいです。
しかし,「人から読みにくい字だ」と判定された事実を受け止めて,それを意識することでだいぶ変わってきます。
そのうえで,すぐにできることは,「字の大きさを同じにする」ことです。
大きい字であるはよいことですが,すべて同じ大きさにするととても読みやすくなります。
また,略字のような書き方はNGです。
自分では読める字でも他人は読めないことが多いです。
制限時間内で急いで書く答案ですから,ますます読みやすい字を書くという意識は重要になります。
次に,手が疲れるという点も,「慣れ」の問題でもありますが,ぜひいろいろなペンを試してみてください。
私もドクターグリップ的なものも含めて,いろいろなペンを答練で試した結果,「サラサの0.5」で落ち着きました。
みなさんも少しでも書きやすいペン,長い時間耐えられるペンを研究してみてください。
Aさんが指摘してくれた「文章が長い」という点ですが,私たちは知らず知らずのうちに長い文章を書きがちです。
文章の前後関係を意識して、「1文につき1メッセージ」+「接続詞」を意識して解答を書きましょう。
その際是非確認してもらいたいのが、ある文章と次に書いた文章との関係です。
①論理関係ならば、「そのため、したがって、~ため(2文をつなぐことも可)」でつながっているかどうか
②前後に論理関係がなく、並列的に理由や根拠を列挙している場合は、「また、さらに、」が入っているかどうか
基本的に上記の2点を意識して文章を書いたり答案構成をするようになれば、おのずと変な文章は書かなくなるはずです。
これらに加えて,規範に対して「あてはめ」をする場合には「ここで」を使って場合や事例をあてはめます。
なお,順接の「そして」は,使うことはありません。
論点によっては,逆接の「しかし」もたまにありますが,頻度は高くないので,逆接を使わない答練作成をまずは心がけてください。
自分で言っていて恐縮ですが,「~であるが,…」も止めた方が読みやすい文章になります。
実際の答練を採点すると,内容を追加したくて,「なお」書きを入れる人もいますが,これも,基本的には使うことはないと考えてください(企業法に関しては,「場合分け」や「条件付け」をするために,「ただし」や「なお」も書くことがあります)。
Aさんの指摘にとても重要な点があります(太字部分)。
採点者はこの読み返し作業にとてもネガティブな印象を持ちます。
論理が不明確で文章が長く,とにかく書き綴っている答案に関しては,予備校採点のように部分点は期待できないと思われます。
採点者が前の文章に戻ったり最初の文章に戻ったりする答案は絶対に避けるべきです。
そのために以下の点を心がけてください。
まず,理論科目の論述は,基本的に,「理由→結論」のセットで考えてください。
理由に複数あれば,「また」を使って並列させます。
基本的に「理由」,そのため(したがって)「結論」という形で書くようにしてください。
「小理由→大理由→結論」のように,理由の中にも論理関係がある場合も,論理関係を示す接続詞(そのため,したがって,~ため)を使ってください。
採点者は論理関係を示す接続詞に注目しています。論理を問うているわけですから(単なる「内容を説明しろ」であれば,過不足なく説明するのでそこまで接続詞を意識するはありません)。
採点者が読みやすい論述答案は,正確な知識が重要であるものの,それを他人に伝えるという観点から「明瞭・簡潔」であることが大事です。
理論問題について下書きは必要?
●ワンポイントアドバイス
→理論科目については,読みやすい字,読みやすい文章,わかりやすい論理,出題者から聞かれていることに答えるため,下書きを必ず書こう。時間がなくても「問われている論点はどこか?」は最低限意識するようにしよう。
K君:企業法だけでなく他の理論科目についても,下書きをする必要はありますか?
時間がないので,しないほうがいいと思っているのですが……。
井上先生:下書きは絶対にするようにしてください。
どんな簡易的なものでもよいので,書き始める前に一回下書きをする習慣をつけてください。
その時間は微々たるものです。これにより大きな安心と正確な道筋を確保できます。
論文式試験はとにかく自分の都合で決めずに,採点する人のことを考えてください。
読みやすい字,読みやすい文章,わかりやすい論理,出題者の聞かれていることに答える……この姿勢が最も大事です。
下書きをすることはそれを意識している証拠です。
急いで早く解答することが試験の目的ではなく,限られた箇所であっても合格点を積み上げるのが試験の目的です。
ただし,難易度や文章の長さに応じて,柔軟に下書きの量や精度を調整しましょう。
Y君:実際に答練を受けてみると,がっつり書いたのに返却された答案を見たら,点数がなくて,論点ズレが結構あります。
もっと勉強するしかないと思いますが,知識の引出しを間違って開けてしまっているような気がして……。
井上先生:論点ズレを起こす人の特徴は,聞かれていることに答えるという意識よりも,自分が書きたいこと,書けることを書くという傾向があります。
これも,出題者の立場で解答を考えることの一環ですが,みなさんの中には,「量」を書けば点を稼げると思っている人が多くて,その結果,とにかく採点側は読みにくく何を言いたいのかよくわからないことが非常に多いです。
これはむしろ逆効果で,せっかくあっている箇所も吹き飛んでしまう可能性があります(この人,何もわかっていないんじゃないか?と思ってしまいます)。
たしかに,文章を端的に短くシンプルにすることは勇気がいるかもしれませんが,答案内容があっていて部分点もとれるはずなのに,とにかく書きまくると印象が悪くなり0点となります。下書きは結論からズバリ何を言いたいのかをまずは明らかにして,その結論を導く理由を逆算して構成していきます。
場合によっては,その理由のまた理由は?のようにどんどん結論から遡って答案を考えていきます。
そして,いざ答案を書くときは下書きを逆にして,「小理由→中理由→大理由→結論」のような通常の流れで答案を書きます。
下書きの段階で,論点ズレを防ぎ,余計な内容を書かないようにするためにも,下書きは結論から遡って理由を考えるようにすると得点は安定します。
なお,このような意識をして,シンプルであっても,論理と結論が明確な文章を書く能力があれば,仮に本試験で,行を埋めるような量で勝負する時も読みやすい文章になっているので,評価は高くかつ,部分点がつく可能性が高くなります。
まずはシンプルに部分点ねらいでリラックスして,とにかく作問者の意図に沿った結論をまず考え,それを導く理由を下書きで示してみてください。
Aさん:私たちはとにかく5月短答から時間がない中で8月の論文式試験を目指すので,理論科目に関しては,とにかく下書きを書くという練習をして,効果的かつ効率的に対策をしていけばいいですね!
井上先生:テキストを読むだけで書けるようになりませんからね。
とにかく,アウトプットが重要です。
ただし,理論科目については「論点を知る」ことが重要となります。
下書きすら書く時間がない場合には,最低でも「聞かれる論点はどこなのか?」を知るだけでも十分に勉強になります。
これもいわばアウトプットを中心とした勉強法です。
テキストを1ページ目から読み込むのは,時間があれば理想的な勉強かもしれませんが,残りわずかしかない時間の中で合格点を勝ち取るためにも,理論科目は「論理が示された下書き」と「実際に聞かれる論点の確認」をやってみてください。
*(緊急座談会)会計士試験:短答式と論文式のギャップを最短で埋めるには?①―租税法・経営学・企業法をどう攻略するかを井上修先生(福岡大学准教授)がアドバイス!
●以下のバックナンバーもぜひご覧ください!
【短答後の会計士受験生のお悩み 井上修先生に聞いてみた①】今年の短答式試験はどうだった?
【短答後の会計士受験生のお悩み 井上修先生に聞いてみた②】時間がないなか、論文式試験にどう向き合う?
【短答後の会計士受験生のお悩み 井上修先生に聞いてみた③】租税法や経営学はどう勉強する?