【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。
全く想像していなかった独立開業
こんにちは、京都市で税理士をしているジンノと申します。独立して4年目に突入し、試行錯誤しながらも税理士業をやっています。
今回は、開業の経緯からこれまでのことを受験生向けに書きます。
これから税理士を目指し、合格した暁には登録をして独立をしようと考えている受験生の参考になればうれしく思います。
2017年2月に税理士登録をしたそのときも、自分が独立をするとは全く想像していませんでした。
税理士試験の受験期間も、合格して登録した後のことを考えておらず、ただひたすら目の前の勉強、試験に取り組むのみでキャリアに思いを巡らせることもありませんでした。
こんな状態だったので、自分がいざ税理士登録をしたときに、「このあと自分がどうしていくのか」について、漠然とした不安がありました。
そんななかで、事務所でのポジションや家族のこともあり、「せっかく取った税理士資格を活かしきりたい!」と思うようになります。
「自分の裁量で決まる世界を覗いてみたい」という高揚感と、お客様はゼロでスタートするので「収入や生活できるのか」という不安がないまぜの状態での独立でした。
開業にあたって準備したこと
会計ソフトやパソコンなど、必要なモノは自己資金と融資でまかないましたが、「ソフト面」で準備したものがあります。
それは、「自分の事務所ホームページを用意すること」と、「他士業の先生とのつながりを持つこと」です。
自分の事務所ホームページで営業活動をすることにしていたので、「なるべく早く、できれば開業初日に」と考えて、独立前から地道に自分でウェブサイトを作りこみ、無事に開業初日にオープンできました。
他士業の先生とのつながりは、今後仕事をしていくなかで、顧問先のサポートをお願いすることを考えていたからです。
独立前の勤務時代から懇意にしていた先生方には開業のお知らせを出し、実際にサポートをお願いすることでお付き合いが続いています。
お客様のご紹介もお受けすることがあり、互いに良い関係が構築できています。
ぶつかった壁
意気込んで独立をしましたが、正直に言うと不安でしょうがなかったです。
独立することも、事業主になることも初めてでしたし、営業活動がうまくいくイメージがつかめていませんでした。
「とりあえず気になったことをやってみて、成果が出るまで続けるしかない」と思いながら活動していましたが、半年ぐらいで借入金は底をつき、何度か「来月仕事が来なかったらヤバイ」という預金残高を経験します。
タイミングよく依頼があったり、開業して9カ月が過ぎる頃には、事務所ホームページからも依頼が来るようになり、何とか乗り切れました。
どんなピンチの状況でも、自分がやると決めたことを続けることが大事です。
むしろ、税理士資格はすでに手の中にあるわけだから、アルバイトでも何でもして踏ん張るだけ。
しんどかった記憶のほうが多い税理士試験の受験を乗り越えられたのだから大丈夫なはず。
こう自分に言い聞かせながら、過ごしていました。
キャリアチェンジを目指すなら
私自身は大学に入るのが遅く、いわゆる新卒のときにはすでに25歳。
就職活動は、リーマンショックの翌年でとても苦労をしました。
大学4年生の年明けに、医療法人の医療事務職で内定をもらい、そこから医療事務の仕事をしながら、法人税法にトライして3回目で合格。
その翌年に税理士法人に転職できました。
結果論にはなりますが、法人税法に合格したときに、ヤマは越えた(その時には簿記論、財務諸表論、法人税法の科目合格済み)と感じました。
転職活動も、新卒の就活時よりもはるかにしやすかったです。
これからもし、実務経験のこともあって、税理士業界に転職、キャリアチェンジをしようと考えている方は、法人税法か所得税法に合格しておくことをお勧めします。
というのも、税理士事務所や税理士法人は、実務を経験するにはよい環境ですが、受験勉強をする環境としてはハードになる可能性があるからです。
特に繁忙期は、事務所によっては夜遅くまで残業、休日出勤というところが今でもあります。
そうなると、受験勉強が継続できずに諦めてしまうこともあるわけです。
できれば、法人税法か所得税法に合格してから、キャリアチェンジすることを目標に勉強をしてみてください。
実務経験は、転職してからでも充分に追いつけます。
受験生へのメッセージ
税理士の仕事の楽しさ・面白さは、いろいろな仕事の裏側、おカネの流れなどを垣間見られることだと私は考えています。
関与先との仕事を通じて得られた知恵や知見を、自分の仕事にも活かせると、もっと楽しく実りある仕事になるでしょう。
独立してからは特に自分と相性が良いお客様とお付き合いできる可能性は高まります。
しかしその分、勤務時代にはしないであろう営業活動などをやっていく必要があります。
楽(ラク)ではないけれど、せっかく取った税理士資格を楽しむには、独立も良い選択肢というのが私の実感です。
もし勉強に対するモチベーションが下がってきたなと感じたら、自分の目標とするものやここまでかけた時間や費用を振り返ってみましょう。
「合格したらあれしたいこれしたい」でもいいです。
本試験まで駆け抜けられるように、体調にも留意しつつ乗り切ってほしいです。
【執筆者紹介】
神野 裕一(じんの ゆういち)
税理士。
1984年大阪府生まれ。2010年関西大学商学部夜間主コース卒業後、医療法人にて医療事務をしながら税理士試験に挑戦。法人税法に合格後、京都市内の税理士法人に転職し、2017年に税理士登録。2019年1月に京都市にて独立開業。税理士試験はすべて通信講座にて合格。
Twitter(@co_develop)
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著書『独立開業日誌: 独立3年目までの営業活動を中心に』(kindle版)