わたしの独立開業日誌 #税理士・不動産鑑定士 井上幹康


【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。

揺らがなかった独立開業の意志

私は、平成30年7月に税理士として開業し、令和3年4月に不動産鑑定士として開業しました。

税理士として開業するということは、税理士試験の勉強に入る前、日商簿記3級の勉強を始めた頃から既に決めていました。
もともと国立医学部受験不合格で、将来医師として独立開業するという夢がかなわず悶々とした大学生活を送る中、簿記と出会い、その魅力・面白さに取りつかれ、将来税理士として独立開業するという新たな夢を持つことができたのがそもそものきっかけです。
社会人として仕事をし、税理士試験の勉強もする中でいろいろなことがありましたが、税理士として開業するという意志は一度も揺らぎませんでした。

不動産鑑定士としての開業経緯は、税理士開業後、大手税理士法人の看板・名刺が無くなり、自分1人で税理士として生き残るにはどうしたらいいか考えた末、自身の付加価値を上げ、他の税理士と差別化を図る目的で不動産鑑定士の勉強を始めたのがきっかけです。

他の税理士と差別化するための自分の強みに関して、過去の自身の実務経験を振り返って見出そうとする方が多いと思いますが、なかなか見つからないものです。
私自身もなかなか過去の実務経験から強みを見いだせませんでした。
そこで、あえて過去の実務経験にこだわらず、これから将来に向けて新たな強み(不動産鑑定士)を身に付けることにしました。

開業後のプロフィール写真

独立開業にあたって何を準備したか

税理士として開業するにあたり、「具体的にいくら貯金しよう」とか「何を準備しよう」という具体的な目標は定めていませんでしたが、貯金でいうと開業時は約400~500万程度だったと記憶しています。

税理士業は特段大きな設備投資が不要なため、他に準備した物としては、貸事務所を事前に探して決めていたことくらいです。
あと、開業前からアメブロで税理士試験の勉強法等の記事をコツコツ書いていたのですが、それをたまたまみた『会計人コース』(当時、月刊誌)の担当者から、記事執筆の依頼もいただきました。
これがのちの専門書執筆に繋がりました。

あと、独立開業のためというわけではないですが、毎日の自己研鑽(税務の勉強)は税理士試験合格後も怠っていませんでした。
おかげで、書籍や資料等は開業する頃にはかなりそろっていました。

開業までにいくら貯めようとか、どんな物を準備しようかという「ハード」の部分も大事ですが、それ以上に毎日の自己研鑽のような「ソフト」の部分も税理士として開業するにあたり非常に大事な要素だと思います。

事務所の営業戦略や方針をどう考えたか

開業税理士として生き残るために、不動産鑑定士になるという道(ダブルライセンス)を選びました。
ただ、税理士としての顧客ゼロスタートであり、かつ、開業後も不動産鑑定士試験の勉強にかなりの時間を割いていたため、預金もどんどん減っていき、精神的にかなり追い詰められていました。マイカーも売りさばきました。
それでも不動産鑑定士になること自体が最大の営業であると信じで勉強を継続していました。また、仮に実力があっても顔と名前を知ってもらわないことには仕事も舞い込んでこないので、事務所ホームページの記事を更新したり、SNS(Twitter、Facebook、noteなど)を活用した情報発信等の種まきを継続していました。
税理士会の支部活動を通じての横のつながりも大事にしてきました。

不動産鑑定士とのダブルライセンスが強みとなり、専門書の執筆につながった

不動産鑑定士試験不合格であれば、税理士業も廃業していたと思いますが、幸い不動産鑑定士になることができ、税理士や会計士の先生からの仕事依頼がかなり増えました。
依頼いただく仕事の内容は、税務に関するものもあれば、不動産鑑定の依頼もあり様々です。
また、税理士向けのセミナー講師の依頼もいただけるようになりました。

さらに、月刊誌だった『会計人コース』の頃から記事依頼をいただいていた中央経済社の担当者から、専門書の単著依頼もいただき、書籍も世に送り出すことができました。
当時会計人コースの記事依頼を初めていただいたときには、まさか数年後に専門書の執筆依頼をいただくことになるとは夢にも思いませんでした。
目先の儲けばかり追い求めるのではなく、1つ1つ目の前の仕事を丁寧にやることで、のちに大きな仕事になって返ってくるというのをまさに実体験しました。

【執筆者紹介】
井上幹康(いのうえ みきやす)

税理士・不動産鑑定士。井上幹康税理士不動産鑑定士事務所。
1985年(昭和60年)生まれ、群馬県沼田市出身。
早稲田大学理工学部応用化学科・同大学院卒、在学中に気象予報士試験合格。
平成22年 IT系上場企業入社、経理実務全般を経験。
平成24年 税理士法人トーマツ(現デロイトトーマツ税理士法人)高崎事務所に入社、東証一部上場企業含む法人税務顧問、組織再編、IPO支援、M&Aの税務DD業務、セミナー講師、資産税実務を経験。
平成30年7月 税理士として独立開業(浦和支部所属)。
令和3年4月 不動産鑑定業開業(埼玉県知事登録)
自社株評価、不動産評価に強い事務所を目指し活動中。
著書に『税理士のための不動産鑑定評価の考え方・使い方』(中央経済社)がある。

事務所ホームページ
Twitter(@weather_tax)

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