税理士 井ノ上陽一
【編集部から】
もうすぐ新年度。
確定申告も一段落し、受験生にとっても、気持ちが切り替わる季節がやってきます。そして、徐々に直前期に突入していく季節でもありますね。
そこで、受験生の皆さんが自分の学習スタイルや生活スタイルを見直し、新たな気持ちで新年度を迎えられるよう、「〇〇との付き合い方」という切り口で、税理士の井ノ上陽一先生にアドバイスをいただきました。
1.勉強との付き合い方
はじめに、「勉強」そのものとの付き合い方を、いま一度見直しましょう。
税理士試験は楽に合格できるものではありません(少なくとも私は楽ではありませんでした)。
全力を尽くさなければ合格できない試験です。
本来であれば勉強に専念したいほど。しかしながら、なかなかそうもいきません。
仕事、家族、自分とのバランスをとる必要があります。どれも大事ではありますが、受験勉強の優先順位を上げましょう。
受験勉強は、合格すればゴールです。その他の仕事、家族、自分にゴールはありません(少なくとも一生涯は)。
5科目合格し、受験勉強を終えることができれば、仕事、家族、自分のことだけを考えることができます。
もちろん、勉強は終わりではなく、ずっと続くものですが、少なくとも受験勉強はしなくてもよくなります。
そんな受験勉強と長く付き合う必要はありません。最速での合格を目指しましょう。
受験勉強の優先順位を上げ、仕事、家族、自分の優先順位を下げて。
特に仕事の優先順位は下げましょう。少なくとも残業、休日出勤をしてはいけません。
受験勉強は、量×質。不合格になる方は、量が圧倒的に足りません。逆にいえば、一定量をこなせば、合格できるのです。
「税理士試験は10年ほどかかる」という思い込み=常識は捨てましょう。早く合格してもいいのです。
1年でも早く合格すれば、その分の時間・お金が浮きます。
人生において、いま優先すべきは受験勉強。短く太く、とことん付き合いましょう。
2.専門学校との付き合い方
もし専門学校に通っているなら、授業はすべて受けましょう。私はすべて受けていました。
同じく宿題も100%こなしましょう。それが基礎体力となります。
税理士試験は、上位10%程度が合格するもの。他の受験生もしていることをできるようにしておいたほうが合格確率は上がります。
授業、宿題のほか、答練・模試にも徹底して取り組みましょう。そこで成果を出すことにもこだわるべきです。
「本試験で成果を出せばいい」と思うかもしれませんし、「直前で追い込む」というタイプの方もいるでしょう。
ただ、答練・模試で成果を出したほうが、合格確率は上がります(成果を出しても油断しないことが大前提です!)。
スポーツの世界では、練習で成果を出さないと、試合に出ることはできません。
税理士試験は、練習で成果を出していなくても試合(本試験)に出ることができる、という異質なものです。
本来であれば、練習(答練・模試)で成果を出すことが必要なのだと考えて、真剣に取り組みましょう。
私も合格した科目では、答練の段階から成果を出していました。
特に答練は、本試験よりも出題範囲が限定されています。そこで成果を出せずして、本試験で成果を出すことはできません。
追い込み型の勉強でも成果を出すことはできますが、税理士試験は、それを5回成し遂げなければいけません。
今から5科目合格することを見据えておきましょう。税理士試験は、1科目、2科目、3科目、4科目で止まっていては、意味がありません。
さらに、専門学校に通っていても、自分なりの勉強をすることを忘れないでください。
仮に専門学校を過信して不合格になっても、それは自分の責任です。
一定の距離は置きましょう。それが専門学校との付き合い方です。
たとえば、専門学校の出題予想は当然押さえます。それ以外も当然勉強しておきましょう。「ここは出ない」というところも、さらりと押さえておきたいところです。
予想(ヤマ)は、勉強の濃度を変えるだけの話であり、それだけを勉強すればいいというものではありません。その予想が外れたら、1年を棒に振るわけですから。
むしろ、ヤマに頼らざるをえない状況を避けるべく勉強すべきです。
私は、のべ7回受験しています。
・専門学校の出題予想を信じて不合格→1回
・自分なりに出題予想をしたら、Cランクが出て合格→3回
という結果でした。
Cランクの問題を解けなくても合格できたかもしれませんが、専門学校を過信せず、自分なりの勉強をしてよかったと思っています(もちろん、専門学校に感謝はしています)。
これは税理士試験に限った話ではありません。学校、会社(税理士事務所、税理士法人)、そして世の中を過信せず、自分の軸をもつことは、生きていくうえで欠かせないことです。
3.他の受験生との付き合い方
他の受験生とは、今や学校で会うだけではなく、SNSなどネット上での付き合いもあるでしょう。
ここでも、やはり距離感を大事にしたいものです。他の受験生との付き合いに時間を費やしていては、勉強時間が減ってしまいます。
特に、次のような受験生とは距離を置きましょう。
・連絡が頻繁な人
やりとりに時間がかかってしまいます。
「教えて」というタイプの人、聞いてもいないのにアドバイスする人にも気をつけましょう。
ちょうどいい距離感を保てないなら、その関係を解消したほうがよい場合もあります。
・勉強をしない人
「勉強していない、どうしよう」「勉強がなかなかできない」といった悩みに付き合っている暇はありません。
あきらめかけている方、モチベーションが下がっている方とも距離を置いたほうがよいでしょう。本気で税理士になりたいのなら。特に、何の努力もせずダラダラと受験を続けている方には要注意です。
自分のペースを守って合格、そして税理士を目指しましょう。
・勉強ができる人
逆に、勉強ができる人を気にする必要もありません。トップにならなくても合格できるのが税理士試験です。上位10%程度に入ればいいのですから。
才能がある人、勉強に専念できる人、環境(職場、家庭、年齢など)が整っている人、さまざまいます。比較しても仕方ありません。
合格科目数も気にしないようにしましょう。税理士試験は何科目に合格しているかという勝負ではありません。5科目合格していなければ、みな同じです。
4.趣味との付き合い方
趣味を続けるか、やめるか。受験勉強中は悩むものです。
勉強時間を捻出する必要がある税理士試験。趣味をやめて勉強に専念する方法もあります。
そして、そのまま趣味がなくなり、合格後や独立後も趣味がないというケースもあります。それはそれで、新たに趣味を見つけたり、昔の趣味を再開したりすれば問題はありません。
しかしながら、趣味を続けつつ、受験勉強をする方法もあります。私はそうしました。
趣味のゲームと海外サッカーは、受験中も楽しんでいました。もちろん、時間を制限して。趣味があったほうが息抜きにもなり、メリハリもつきます。
受験に専念していた1年は、1時間ゲームをして1時間勉強する、という流れを繰り返していたこともありました。働きながら勉強していたときは、21時まで勉強し、その後は遊んでいいといったルールをつけていました。
この趣味を犠牲にすれば、もう1年早く合格したかもしれません。一方で、趣味を我慢していたら、合格できなかったかもしれません。
どちらにせよ、私はこの選択を後悔していません。趣味と勉強を両立できる可能性はあるのです。
といっても、「趣味に割く時間さえない」という方もいらっしゃるでしょう。
そんなときは、仕事の時間を減らせばよいのです。人生のなかで減らすことができるのは、仕事の時間しかありません。残業、休日出勤をしなければ、受験勉強と趣味を両立させることはできます。
仕事の合間に勉強することもできるはずです。ランチの時間、通勤の時間も有効に使いましょう(テレワークなら通勤時間はないのですが、税理士業界ではテレワークの普及はあまり期待できません)。
仕事は効率化できるもの。
勉強も効率化できますが、一定量は必要。
趣味は、効率化できません。
仕事を効率化して勉強、趣味の時間をつくりましょう。
5.家族や友人との付き合い方
受験勉強中に家族や友人とどう付き合うか。
まずは、税理士試験が簡単なものではないこと、そして、真剣に取り組んでいることを家族や友人に示しましょう。
受験前とは付き合い方を変えざるをえません。その覚悟を示しておくべきです。
家族と友人では、家族の優先順位が高くなるものでしょう。
私は、試験が終わってから=合格してから結婚と思い、そうしました。
ただ、結婚はタイミングです。優先順位をよくよく考えましょう。結婚してから合格することも不可能ではありません。
家族にしろ、友人にしろ、大事な人であるなら「勉強に時間が必要」ということをわかってくれるはずです。
もし、それで付き合いがなくなるなら、それまででしょう。そのくらいの覚悟がなければ、税理士試験に合格することはできません。
ここまでの話を総括すると、優先順位は「自分→家族→友人→仕事」で考えましょう。
多くの場合、仕事の優先順位が高いものです。たしかに仕事は大事ですが、もっと大事なものがあります。
優先順位が決まれば、それぞれとの付き合い方も変わってきます。
6.食事・睡眠との付き合い方
自分を優先するという意味で、睡眠や食事とは、とことん付き合いましょう。食事や睡眠をおろそかにすると、勉強も十分にできません。
1日24時間のうち、食事をはじめとする家事に3時間、睡眠に7時間、計10時間はないものと考えましょう。
残りは14時間。
仕事が8時間だとすると、勉強できるのは6時間です。残業すると、いかに時間がなくなるかがわかるでしょう。
平日にも勉強しないと合格は遠のきます。よくいわれる「コツコツやれば受かる」というのは、半分ホントで半分ウソです。
コツコツとは、毎日3時間~5時間は勉強するということです。少なくとも私はそうしていましたし、休日は、もっと勉強時間を増やしていました。
この勉強のパフォーマンスを上げるために、食事・睡眠の時間を守る必要があるわけです。
食事・睡眠のうち、食事は効率化できます。
自分で料理する場合、最初のうちは効率的ではないかもしれませんが、日々練習すれば料理のスピードも上がります。
私は、当時独身で、3食つくっていました。職場でのランチも、弁当持参です。弁当だと、すぐ食べ始めることができ、ランチの場所を探す必要もありません。同時に、職場の人に付き合う必要もないのです。
睡眠の効率化は難しいですが、食事・家事は効率化することができます。ぜひ、自分なりにその方法を考えてみましょう。
(執筆者紹介)
井ノ上陽一(いのうえ・よういち)
大阪生まれ宮崎育ち東京在住。2000年に、3年3ヶ月勤めた国家公務員を辞め、税理士を目指す。2003年に税理士資格取得、2007年に独立。ブログ「EX-IT」は独立時から5,000日以上毎日更新。毎日発行のメルマガ「税理士進化論」で税理士独立のサポートも行う。著書に『ひとり税理士の仕事術』、『ひとり税理士の自宅仕事術』など31冊。
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