新刊『課税所得計算の形成と展開』の編著者・金子友裕先生にきく 本書の読みどころと税法・税務会計研究のヒント


このたび、弊社より金子友裕先生(東洋大学教授)編著『課税所得計算の形成と展開』という研究書を刊行しました。
タイトルにあるように法人税法の基礎概念について多角的に検討し、現代的課題についても言及するものです。
本書が、どのような読者にどのように有益か、さらに近年大学院で税法・税務会計の研究をされる方が増えていることから、課税所得概念のような基礎概念をどのように理解し、論文執筆に結びつけていけばよいか、編著者の金子先生にお話を伺いました。(編集部)

本書はどのような内容の書籍でしょうか? 

金子 本書は、課税所得計算の歴史的経緯や先行研究の在り方を整理し、今後につながる論点を検討しています。
 法人税法や所得税法は所得に課税されることになっていますので、課税所得をどのように捉えるか、どのように計算するか、は大きな問題となります。
 この大きな問題に対し、これまでも会計学的な視点や租税法学的な視点からの検討、学術的な視点や実務的な視点からの検討、さらには制度(商法や会社法、法人税法や所得税法、及び企業会計原則や企業会計基準等)の改正の影響からの検討等、さまざまな研究が行われています。

 これらのすべてを網羅することはできませんが、主要な先行研究の概要を整理し、現代的な問題の検討につなげていこうとするのが本書の特徴になります。
 つまり、所得という抽象的な概念に対し、これまでも多様な視点での検討が行われてきたことを意識しつつ、経済のデジタル化等に伴う今後の課題への対応を検討しています

 本書は、実務書ではなく、研究書であり、やや難しい内容も含まれています。
 しかし、現在、我々が実際に課税されている法人税法や所得税法の基礎を築いてきた議論であり、少し時間をかけても現在の税法等と比較しつつ読んでいただければ興味深い内容になっていると思います。

 さらに、本書の大きな特徴として、巻末に課税所得計算に影響を与えた改正や論文の情報等を年表にしてまとめています。
 この年表は、資料的な意味でも活用してもらえればと思います。

本書は、だれにどのような役立ちがあるのでしょうか?

金子 本書は、研究書ですから、研究に役立ててほしいという思いがあります。
特に、大学院生や大学院への進学を考えている人にとっては、修士論文の作成の基礎となる有用な情報が多く含まれているものと思います。
 また、税務会計や租税法等の分野の研究を行う若手研究者にも、重要な先行研究等の整理となっているため、改めてこれまでの歴史的な経緯や議論を振り返る機会となってほしいと考えています。
 そして、若手研究者には、本書で取り上げることのできなかった先行研究の追加的な検討や本書のあとに続く現代的な課題がどのように解決されたかを含む体系書を次の時代で執筆してもらうことを期待したいと思います。 しかし、それだけではなく、税理士や公認会計士の先生方、税理士や公認会計士を目指す受験生の皆さんにも、ぜひ読んでいただければと考えています。

 課税所得のような概念を税法に規定された固定的なものと決めつけている人も多いのではないかと思いますが、時系列的にみれば多様に変化するものであり、また、立場によっても異なる見解が生じるものであったりします。
 この点は、本書をご覧になればよくご理解いただけるのではないかと思います。

 細かい研究内容に踏み込まないでも、時間や見解により異なる概念であることを知り、どのような経緯で現在の課税所得の概念となり、この課税所得をどのように計算すべきと議論されてきたかを知ることは、単なる知識の集積ではなく、会計や税法の理解を深めるよい機会になるものと思います。

 近年、国家試験でも、単なる知識の確認ではなく、考える力を意識した出題も散見されます。
 受験生には、さまざまな考え方があることを知ったうえで、現行制度の在り方を確認していただくと、現行制度の有する特徴等が見えてくるのではないかと思います

特に税法・税務会計を専攻する大学院生にむけて、研究および修士論文作成へのアドバイスをお願いします。

金子 私は、東洋大学大学院経営学研究科ビジネス会計ファイナンス専攻に所属し、学内では「税理士コース」と呼ばれているコース(正しくは、「会計ファイナンス専門家養成コース」)のコース長を経験しています。
 また、租税法の修士論文の指導を行った経験があり、修了生が税理士試験の科目免除を受けたことがあります。

 これらの経験からは、研究においては、ともかく基礎概念をしっかり咀嚼する努力をしてもらいたいと考えています。
 租税法であれば租税法律主義等の重要な基礎概念を十分に理解しないまま、修士論文を執筆しても十分な検討が行えるとは思えません。
 近年の裁判例や制度改正等を取り上げて、表面的な議論をつなぎ合わせるだけでは、資料であり、論文とは呼べません。
 そこに内在する課題等を見つけ出し、どのような論理で結論まで導くかを意識してほしいと思います。

 このような点では、本書で示す歴史的経緯や先行研究の整理は、修士論文を作成する際に、基礎的な理解を高めることに有用でしょうし、現代的な問題にも通じる議論も多く含まれているものと思います。

 そもそも、学問の世界では、解(結論)は1つとは限りません。
 抽象的で多様性を有する概念に対して、どのような論理で整理するかにより、さまざまな解(結論)が生じ得ます。
 どのような論理で解(結論)にたどり着くか、たどり着いた解(結論)が含意するものは何か、が論文の価値になります
 どこかに答えがあって、それを探すことが論文という勘違いが往々にしてあるように思います。
 本書で取り上げた先行研究も、それぞれ異なる見解を示していますが、それぞれ丁寧な論理で議論されたすばらしい研究です。
 本書を通じて、先行研究を横断的に捉えることで、単に結論を模索するのではなく、どのよう論理で検討するかの重要性を理解してもらえるのではないかと思います。

 修士論文の作成は、慣れない院生の方には難しいかもしれませんが、制度等の根底にある基礎概念をしっかり咀嚼し、この上で過去の議論を丁寧に整理・分析して、現在の課題に取り組んでもらえればよい研究が行えるものと思います。

(お話を伺った金子先生のご紹介)
金子 友裕(かねこ ともひろ)
東洋大学教授 博士(経営学)
明治大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。明治大学助手、岩手県立大学講師・准教授、東洋大学准教授を経て、現職。
◆主要業績
『課税所得計算の形成と展開』編著、中央経済社、2022年
『法人税法入門講義(第6版)』中央経済社、2022年
「法人税法からみた「企業結合」の検討」『會計』191 (4)、2017年
「法人税法における返品調整引当金廃止の意義」『産業経理』78 (3)、2018年
「法人税法における「増資」の検討」『日税研論集』76、2019年
「法人税法における時価の検討」『租税実務研究』(10)、2019年
「法人課税制度における中小企業優遇措置の概要と課題」『税研』(212)、2020年
「「時価の算定に関する会計基準」における「時価」の検討」『産業経理』81 (1)、2021年
「消費税法における仕入税額控除の考案」『税法学』(585)、2021年
「インセンティブ報酬の会計と税務」『税務会計研究学会』(32)、2021年 ほか多数

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