【新春特別インタビュー】日税連・石原健次専務理事、髙橋俊行専務理事にきく 令和4年度税制改正大綱に示された税理士試験・制度改革と税理士の未来


石原健次(日本税理士会連合会専務理事)
髙橋俊行(日本税理士会連合会専務理事)

【編集部から】
昨年12月10日に、令和4年度税制改正大綱が公表されました。

すぐに目についたのは「税理士試験の受験資格要件の緩和」!
試験制度の見直しは久々ですので驚きましたね。
さらに、税理士制度に関するさまざまな見直しが提示されています。

これらはどんな内容なのか、そのねらいは何か、さらに税理士のあるべき姿などについて、今回の見直しに尽力された日本税理士会連合会専務理事の石原健次先生、髙橋俊行先生にお話を伺いました。

☆「令和4年度税制改正大綱」全文はこちらから

1 なぜ受験資格要件が緩和されるの?

――今回の大綱で、「税理士試験の受験資格要件の緩和」として、以下のように提示されています。
そもそもなぜ受験資格要件が定められていたのでしょうか? そして、今回見直しに至った背景は何でしょうか?

六 納税環境の整備
1 税理士制度の見直し

(6)税理士試験の受験資格要件の緩和
税理士試験の受験資格について、次の見直しを行う。
① 会計学に属する科目の受験資格を不要とする。
② 大学等において一定の科目を修めた者が得ることができる受験資格について、その対象となる科目を社会科学に属する科目(現行:法律学又は経済学)に拡充する。
(注)上記の改正は、令和5年4月1日から施行する。

石原 税理士試験は、税理士となるのに必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的として行われています(税理士法6条)。

以前、規制改革による受験資格撤廃要請の動きがあり、多くの資格で要件が撤廃される中、現在も受験資格要件が残っているのは税理士と社労士のみとなっています。

そして、今回の見直しの背景には、受験者数の減少、特に若年者層の減少があります。

現在の税理士試験では、受験資格要件として①学識、②資格、③職歴の3つがあります。

①学識要件としては、現在㋐大学・短大・高専卒業者、㋑大学3年次以上で62単位取得者、㋒一定の専修学校の専門課程修了者で、法律学又は経済学を1単位以上履修と定められています。この場合、たとえば大学入学時から税理士試験の勉強を本格的にしていても、多くの受験生は3年生になってはじめて受験できることとなり、これでは受験資格要件がない公認会計士試験のほうがよいと考える方が多くなってしまいます。また、大学3年生ではじめて受験できるとなると、周囲では就職活動も始まっているため、不安に思う受験生も少なくないでしょう。このとき1科目でも合格していれば、迷いなく勉強を続けられますよね。

こうしたことから今回、会計学科目(簿記論・財務諸表論)については、受験資格要件を不要にすべきと考えました。これにより、会計学科目については大学1・2年生、さらには高校生でも受験が可能になります。

資格要件の①学識、②資格、③職歴は別個のものとして考えているので、できるだけこの枠組みを維持しつつ、大学生等については受験のスタートを早めたということです。特に、会計学は税理士業務のベースになるものですので、早く勉強していただいて自身の適性を見極めていただくとよいと思います。

髙橋 試験内容も含め試験制度の見直しは今後も行っていく必要があると思いますが、まずは入り口を広げましょう、というのが今回の趣旨ですね。

税理士試験は、科目合格制など比較的受験しやすい制度になっていますので、その利点も生かしつつ、今回の見直しによる影響・効果もふまえて今後どのように見直していくかについて検討していくことになります。

――受験資格は税法科目については適用される、つまり資格要件は残ることとなりますが、なぜ完全に撤廃しなかったのでしょうか?

石原 検討の過程で、受験予備校の講師・受験生、大学院教授、近時登録者へのインタビューを実施したところ、今回の改正の方向性について多くの賛意を頂きました。受験資格要件は、試験では推し量ることのできない基礎的素養の部分の検証をするものであり、撤廃すると、これらをどこで検証するかを考えなければならない。二段階試験、登録前研修などの方法もありますが、いずれにしても、資格試験全体の見直しとセットで検討する必要があり、それには多くの時間をかけた慎重な検討が必要です。

また、受験資格要件は一度撤廃してしまうと、仮に将来的に問題が発生したとしても、二度と元には戻せません。受験資格要件を撤廃した他士業において、撤廃は失敗であったという評価がなされていることも、見過ごすことのできないポイントだと思います。

髙橋 おっしゃるように、会計学科目に合格したからといって、税法科目の受験資格を得られるわけではなく、学識、資格、職歴のいずれかの受験資格要件を満たさなければ受験はできません。たとえば、大学1年生が簿記論・財務諸表論に合格しても、2年生のときには税法科目は受験できず、学識要件を満たした3年生ではじめて税法科目が受験できるのです。税制改正大綱の段階ではわかりにくいので、注意が必要ですね。

会計学科目の合格をもって税法科目の受験ができる仕組みも検討しましたが、これを突き詰めると、事実上の受験資格の撤廃になってしまいます。また、現在ほとんどの受験生は学識により受験資格を得ていますが、そのルートが大きく動く、つまり、会計学科目の合格から税法科目へという事実上の受験資格要件撤廃のルートが主流になるのではないかとの懸念があったため、この仕組みは見送ることにしました。

――会計学科目について受験資格を不要にすると、日商1級や全経上級の受験者数にも影響があるでしょうか?

髙橋 会計学科目の資格要件の撤廃については、日本商工会議所と全国経理教育協会に事前にご説明に伺い、ご理解いただきました。大きな影響はないものと考えています。それより、両団体と会合で大変印象的だったのが、日商1級や全経上級の受験者数への影響減少以前に、全体的な「会計離れ」に対する強い危機感でした。この問題意識は、これまでお話した日本公認会計士協会、会計関係の学会、大学、専門学校の皆様いずれもお持ちでしたね。

「会計離れ」は日本経済、国力にも大きな影響を及ぼすものですので、今後も他団体とも協力していきながら、打開していけるように取り組んでいきたいと考えています。

――見直しの2番目として、履修科目要件「法律学又は経済学(1単位以上)」が社会科学全般に緩和されていますが、これはどのような趣旨でしょうか?

髙橋 税理士の業務も多様化してきており、社会科学全般に属する科目の履修に緩和することで、多様な方々を税理士試験に参入しやすくするというメッセージです。いわゆる大学の一般教養科目で設けられている社会学、さらには教育学、福祉学なども含まれると考えられますので、ほとんどの大学で履修科目要件を満たす科目が設置されていることになると思います。これにより、文系のみならず理系の方も受験しやすくなると思います。


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