飯田先生のアドバイス
多様性の時代についていけてない社長には好きなように言わせておきましょう!
“目噛んで死ね”です。
昔の国税の世界はどうだった?
日本で男女雇用機会均等法が施行されたのは、30年以上前のこと。
そして、国税の“女性も男性と同じ条件で働ける”という触れ込みはとても魅力的で、ワクワクしながら採用試験を受けに行ったことを覚えています。
しかし、男性も女性も同じ試験を受けて採用されたので、配属も同じ条件というはずなのですが、大阪国税局の場合、所轄署に配属された女性は少数でした。
そのほとんどが国税局に勤務という辞令を受け取ったのです。
税務調査の現場というよりは、総務や事務系の既存の行政職の人がやっていた仕事をする部署への配属でした。
税務調査は命の次に大切なお金の話を突き詰めていく仕事。危険な目に遭遇することも想定しなければなりません。
現場では、高卒女子を、海千山千の経営者のもとに出向かせる覚悟ができていなかったのだろうと思うのです。
高卒女子を採用することに踏み切った当初は、同じ条件で採用しても、女性は結婚したら退職するだろうし、寿退職しなくても子どもができたら退職するだろうという目論見があったのかもしれませんね。
しかし、蓋を開けてみると、女性は結婚や出産ではなかなか辞めず、むしろ、産休や育児など、子育てに関する休暇を権利として主張し、働き続けるという人が増えてきたのです。
私も出産してもしぶとく辞めなかった1人です。上の子を出産したときは、育児休業制度もありませんでした。生後2ヶ月から保育園に預けて働き、署内では、男性職員から“人でなし”と噂されていたことも今となっては笑い話です。
ほどなく、立ち会い出産が当たり前の時代が到来し、男性の育児休業制度もできるんですが・・・。
でも、組織として働き方の多様性の考え方をもって運営されてきたのは、大企業や外資系、そして公務員等の話で、中小企業とは状況が大きく異なると思います。
中小企業はまだまだ「男性社会」
中小企業の場合、裸一貫、田舎から出てきて、丁稚から修行を重ね、やっと一人立ちして経営者まで登り詰めたという方が、少なくないと思います。
私は、企業団体の主催で講演をさせていただくことがあるのですが、その会場に集まられている方のほとんどは男性です。
登壇すると会場は黒っぽいスーツで身を包んだ男性ばかり。
ウケをねらって話してもクスリとも笑いません。
そんな経験を積んでいると、何処でも話をできるようになりましたが・・・。
F子さんは小さい頃から男の子と同じように机を並べ、男の子も女の子も平等ですよという教育を受けていたと思います。
でも、一歩社会に出ると、いろいろな世代の人と関わることになります。
大きな企業等では、徐々にダイバーシティが尊重される状況になってきていると思われます。
これに対し、F子さんは、自宅の近くの地域に密着した形の税理士事務所で働いています。
ダイバーシティに取り組むことを強いられた大手企業ではないんですね。
実は、私も国税で調査官をしていた頃、
「なんでうちに女の調査官をよこしたんだ! なめてんのか!」
と言わんばかりの勢いで税理士に文句を言われたという経験があります。
男尊女卑のような考えをよしとする世代や人もまだまだ多くいるのが今の日本の社会だと思うのです。
中小企業の社長の気持ちは?
経営者にとって税金の話は頭のいたいことで、大切なお金の話に繋がります。
そんな大切なことを、自分の子どもと同じくらいの年齢の女性に頼めるものか!という思いがあったのではないでしょうか。
どんな仕事をする際でも、お客様である経営者との“相性”というものがあると思います。
今のF子さんは、ご自身が税理士事務所を経営しているのではく、税理士事務所に雇われている身分です。
不満であれ苦情であれ、お客様に言われたことは税理士事務所の所長先生に報告し、F子さん自身がどうしたいと思っているのかもきちんと伝え、相性の悪いお客様とは関わらなくてよいようにしてもらうことが事務所全体の仕事の効率を考えると最善の策でしょう。
事務所を辞めても税理士の資格は“永久ライセンス”
今の事務所での色々な経験を積むことで将来、独立したときの役に立てる訓練だと思えばいいと思います。
今、働き方改革の中で、会社勤めをしながらの副業や女性の起業が増えています。その際、
“女とは仕事できん!”
という言葉を投げつけられる人がF子さん以外にもたくさんいると思うのです。
今回のF子さんの経験は今後独立開業しようとする女性にむけて、貴重な経験談として伝えることができるというわけです。
渦中にいるときは、必死でも、過ぎてみると全部笑い話になるものです。
失敗談やエピソードを面白おかしく話すことができる人こそが、信頼関係を築きやすい人だといえると思うのです。
相手はお客様。
まずは、下手に出て、男とか女とか関係なく、きちんと仕事をしますということを態度で示すことを心がけてはどうでしょうか。
腹立つことがあった時は、その場では調子を会わせておいて家に帰ってから
「目噛んで死ね!」
と呪いをかけてやりましょう!
ストレスは溜め込まず、「あの社長はかわいそうに、器の小さい人だなぁ」とやり過ごしましょう。
真に受けず、スルーすることも知恵なのです。
<著者プロフィール>
飯田 真弓(いいだ まゆみ)
元国税調査官”おかん税理士”
飯田真弓税理士事務所 代表税理士
一般社団法人日本マインドヘルス協会 代表理事
◆経歴
昭和57年3月 京都府立城陽高等学校普通科卒業
昭和57年4月 初級国家公務員試験採用(普通科女子一期生)
税務大学校大阪研修所に首席で入校
昭和58年7月~平成20年7月 大阪国税局管内の税務署で勤務
税務調査の最前線で延べ700人あまりの経営者の調査を行う。
平成14年4月~平成18年3月 放送大学教養学部に在籍、卒業
平成20年7月 国税を退職
平成20年9月 税理士として独立・開業
平成24年3月 内閣府の支援事業者に選ばれ一般社団法人を設立し代表理事に就任
国税調査で培ったノウハウと大学、その他で学んだ知識と持ち前の感性で、日本の中小企業とそれをサポートする税理士及び税理士事務所・税理士法人等の企業力(人間力・交渉力・コミュニケーション力・傾聴力)をアップさせるための業務を行う。
◆資格
税理士、産業カウンセラー、健康経営アドバイザー、日本芸術療法学会正会員
◆近況
全国の法人会、納税協会、税理士会、商工会議所、経営者団体で税務調査の講演やセミナーを行う傍ら、個別カウンセリングや傾聴トレーニング、企業に出向きコミュニケーションが活性化し離職率が低下する研修も実施。
2021年2月、NHKあさイチ「ことしの確定申告」を監修。週刊ダイヤモンド2021.5/1.8合併特大号に『持続化給付金、食事宅配、あと一つは?税務署が狙うコロナ禍「三つの急所」』、『元国税調査官が教える 要注意!「ダメ税理士」図鑑』を寄稿。
著書に『税務署は見ている。』、『税務署は3年泳がせる。』(ともに日本経済新聞出版社・累計9万部を超えるロング&ベストセラー)、『B勘あり!』(日本経済新聞出版社)、『調査官目線でつかむセーフ?アウト?税務調査』、『「顧客目線」「嗅覚」がカギ!選ばれる税理士の回答力』(ともに清文社)がある。
●バックナンバー
第1回 毎日領収書の貼り付け作業ばかりやらされてるんです・・・。
第2回 税務調査で経営者に怒鳴られた!
第3回 社長さんに“税理士の資格、持ってないの?”といわれてしまったんです。
第4回 税理士受験生のアルバイト先のオススメは?