【税理士試験】今こそ、学習スタイルを最適化しよう! 繁忙期を作らない勉強術


※ 本記事は、会計人コース2019年8月号「繁忙期を作らない勉強術―仕事の効率化、勉強の工夫、転職、プライベート」を編集部で一部抜粋したものです。

税理士 井ノ上陽一

繁忙期とは

 税理士業界の繁忙期とはどういったものなのでしょう。読者の皆様の中には税理士業界の経験のない方もいるかもしれませんので、そこから紹介していきます。

 税理士業界の繁忙期というのは、多くの場合12月から3月です。12月は年末調整、1月は給与支払報告書(住民税の申告)、法定調書、償却資産税申告書、2月、3月は、所得税の確定申告と、期限のある仕事が続きます。その間にも法人の仕事や決算が入ってきますので、重なってしまうと、とても勉強どころじゃない状態になります。

 さらに3月決算5月申告が多いとなると,結果的に12月から5月までが繁忙期ということもあるのです。ときには、秋口や夏も忙しく、繁忙期どころか繁忙人生となってしまいます。

繁忙期を作ってはいけない理由

 税理士受験生は、この繁忙期を作ってしまうことは絶対に避けましょう。なぜなら、もちろんそれは勉強が滞るからです。仕事の時間が長くなると、勉強する気力もなくなります。平日が疲れていると土日も勉強に力が入りません。ましてや土日も出勤ということもあるくらいです。

 「繁忙期だから、仕事だから、仕方ない」といってしまうと、その年の試験は棒に振ります。税理士受験生にとって、試験を1年棒に振るということは限られた人生の1年を無駄にするということです。一刻も早く試験に合格して活躍したいところですが、それが1年、2年、3年…とすぐに経ってしまいます。だからこそ繁忙期は作ってはいけないのです。

 もちろん、そうはいっても職場が繁忙期だとしかたがないという意見もあるでしょう。しかし、自分の人生です。「そんなところ」で、くすぶっていてはいけません。自分で何かしら工夫ができることはあるはずですのでやっていきましょう。税理士として、世の中に足跡を残すべく、必要とされる方に喜んでいただくべく、今勉強をしているのではないでしょうか。

繁忙期攻略があったから今がある

 私が税理士試験の受験生時代に勤めていたところは、油断をすると残業させられるところで、いわゆる繁忙期は、土曜日が強制出勤でした(給料据え置きで)。試験前には、「勉強よりもくれぐれも仕事をがんばってね」と言われるほどです。

 しかし、合格し資格をとらないと、そういったところから抜け出せません。だからこそ自分で工夫をし、時間を作り勉強しました。繁忙期攻略があったからこそ、私は3年で試験に受かることができたのです! その経験も交えて紹介していきます。

 自分でできる繁忙期の工夫として次のようなものがあります。

繁忙期を作らない仕事での工夫

◆効率化

 まずは、今の事務所で効率化をすることです。効率化で第一に考えることは、仕事量を0(ゼロ)に近づけること。仕事量がもし多すぎるのであれば、交渉してそれを減らしてもらいましょう。雇われているから・給料をもらっているからといって、過度に遠慮する必要はありません。自分の人生なのです。そうでもしなければ仕事を減らしてはくれません。

 ポイントは、時間内になぜ終わらないのかを論理的にかつ感情的にならずに説明できるようにして交渉することです。雇っている側は、どのくらいの仕事がどのくらいの時間で終わるのかはわかりません。何をやっているのか不安だからどんどん仕事を与えてしまうわけです。同じ給料で多くの仕事をやってもらう、ときには同じ給料でできるだけ長く働いてもらいたいとさえ考えています。食べ放題で、できるかぎり多く食べてしまうのと同じです。

 また、雇っている側は現場を離れている方も多いので、現場の大変さがわからないということもあるわけです。だからこそ論理的に証明しなければいけません。

・今月はこれとこれがあるから、物理的にどうしようもない
・もし、その仕事が増えるならこれができないけど、どちらを優先するか
・日々これだけ残業している

といったことをしっかりと説明してみましょう。そして、効率化にはスピードがやはり必要です。税理士資格取得後も独立後も使えますので、効率化スキルを磨いておいて損はありません。独立を考えているなら、今の職場は仮の居場所。義理を果たしつつ自分の身になるスキルを身につけることを意識しましょう。効率化スキルを身につけ、職場にも貢献し、自分の時間を作ることができれば、受験のための時間を作ることにもなります。

☆具体的な効率化ノウハウは、私のブログを参考にしてみてください。
 ブログ「EX-IT」

◆時間を作る

 時間を作る工夫とともに、勉強上の工夫も大事です。

 「細切れの時間を使う=常に勉強する」ことを意識しましょう。

 私は通勤時間や外出するときも理論をやっていました。頭の中で、「〇〇の理論」を唱え、答え合わせをするという繰返しです。これをやっておくと、仕事中にふと空いた時間があれば勉強できますし、会議中にも理論の勉強ができます。移動時間も貴重な勉強時間です。同行する人がいると勉強できませんので、同行しないで1人で出かける予定も増やしていきましょう。

また、私はランチの時間も勉強(計算)をしていました。同僚や上司とランチに行っても得るものは少なく、もしあるとしても今は勉強が第一です。受験生だからという大義名分を掲げて、ランチの時間を勉強に使いましょう。夜のイベントもその大義名分で断れます。

 細切れ時間で勉強できる筋力をつけておくと、たとえ仕事が長くなっても勉強できるものです。普段から鍛えておかないと、そうはできません。短い時間で成果を出すというのは、勉強でも大事なのです。その意味で、そのほかに工夫していたのは、理論をWordで打って覚えること、ミスを記録してそれを繰り返し見ること、自分なりの教材を作り込むことでした。

◆転職

 できる限りの工夫をし、それでも時間がつくれないとき、または絶対に効率化が無理だというとき、ストレスが大きすぎるとき(体に異常をきたしたら要注意です)は、転職することも考えましょう。そこで埋もれてしまうと皆さんの人生は台無しになってしまいます。転職情報を常に見ておき、隙あらば転職するのも手です。繁忙期前に繁忙期のないところに転職すれば、その時間で勉強ができます。もちろんその新しい職場に慣れるという時間も必要ですが、それはなんとかなるものです。

 一方、勉強はなんとかなりません。なぜなら一発勝負だからです。「仕事はなんとかなるけど、勉強はなんとかならない」この原則を頭に入れておきましょう。

 転職情報を見て適当なところの面接を受けたり応募してみたりしてみるとよいでしょう。それで自分の市場価値もわかりますし、今は人材不足といわれていますので転職もそれほど難しくない可能性も高いです。

 面接の際には残業があるかどうか、受験生だから勉強もしたいということをはっきり伝えましょう。それで嫌がるところは、結局、中に入ってダラダラ残業がある可能性があります。残業実績や所得税の確定申告の量などを聞いてみましょう。

 そして大事なのはその事務所から税理士試験の合格者がいるかどうかです。その事務所から合格者が出ただけではダメです。8月の試験を受けて転職して、12月の発表で合格していただけというパターンもあります。

 また独立したいという場合、それを話す必要はありません。先のことがわからないのはお互い様ですから。試験を受けつつ実力をつけて、その事務所に尽くすという大義名分があれば十分です。

◆専念

 リスクはありますが、1年専念して合格してしまうという手もあります。私は税理士事務所に勤めていたとき、法人税法(1年目)と財務諸表論(2年目)を受けており、その年の4月に事務所を辞めて専念して、その年に両方とも取りました(累計4科目)。

 再就職できるかどうか(私はてこずりました)、専念している間は収入も途絶えますし、合格する確証もありませんが、1つの方法です。

繁忙期を作らないプライベートでの工夫

◆プライベート

 繁忙期はプライベートにもあります。プライベートのイベントが重なるとやはり勉強する暇がなくなります。とはいえ、タイミングも大事ですので、そのさじ加減が難しいところです。

 結婚や付き合いを先延ばしにして勉強に専念すべきかどうか。もちろん受験中に結婚しても合格し独立している方もいらっしゃいますし、家庭があればかえって勉強に身が入るケースもあります。

 私はプライベート、家庭を先延ばしにしました。ただ、自分の人生、取り返しがつかないのは時間、年齢です。家庭と受験を「家庭or受験」と考えずに、「家庭and受験」と考えるべきでしょう。

 そのかわり他のプライベートは多少切り捨てる必要があります。私の場合は受験前の交友関係は受験中にほぼなくなりました。やはり飲み会を断ったり、遊びに行くことを断ったりしていますので疎遠になるものです。しかし、つながりが途絶えない友達もいたので、結局それで疎遠になるのであれば、それまでという考え方もあります。

◆交友関係

 同じ受験生でも、勉強しない人、本気で合格を目指していない人、そして受験をあきらめた人との交流は控えましょう。勉強時間を減らしてまで方向性が違う方と交流してもしかたありません。

◆趣味

 時間を作るために、自分の趣味はどこまでやめるか難しいところですが、多少はセーブすべきです。そのかわり早期に受かりましょう。仕事のために趣味をあきらめてはいけませんが、受験勉強のためには多少なりとも趣味をあきらめるべきです。

 私の場合は、今も昔も趣味が多くありますが、やはりちょっとは我慢しています。当時はF1が好きだったのですが、毎回(当時は年16回)観るわけにもいかず、だんだん観なくなりました。同時に海外サッカーも好きだったのですが、観る試合は厳選しました。その我慢した結果、2000年6月から7月にあった大会(EURO2000)も観ることができず、悔しくて「次の2004年(4年ごとの大会)は絶対受かってやる!」とモチベーションにしたものです。

 時間のかかる趣味であるゲームも我慢していましたが、2001年7月19日にファイナルファンタジーXが発売され、それは我慢できなくて1週間でクリアしてまた勉強に戻りました(もちろんその間も少しは勉強していましたが)。その結果、その年は簿記論と消費税法が合格、財務諸表論が不合格であり、スッキリしたから2つ取れたとも考えられますし、勉強時間が減ったから1つ落としたともいえます。

 我慢しなさすぎもいけませんし、我慢しすぎもいけません。大事なのは、仕事を優先しすぎないこと。残業しなければ家庭、趣味、勉強のどれもできます。

今は受験優先で!

 仕事は1日8時間×5日でも十分、それでも多すぎるくらいです。税理士としての腕を上げるのは、合格してからでも遅くありませんし、独立してからでも遅くありません。上司の庇護のもと、しぶしぶ仕事をするよりも、独立して自分で責任をもって自分のお客様の仕事をしたほうが税理士としての腕は確実かつ格段に上がります。

 今は、受験優先、合格優先でいきましょう。仕事、プライベートの繁忙期で勉強の時間がなくなると、受験期間が長期化してしまいます。繁忙期に勉強する工夫をするよりも、その繁忙期をなくすことを考えましょう。問題はもとから断たないと解決しません。

(執筆者紹介)
井ノ上陽一(いのうえ・よういち)
大阪生まれ宮崎育ち東京在住。2000年に、3年3ヶ月勤めた国家公務員を辞め、税理士を目指す。2003年に税理士資格取得、2007年に独立。ブログ「EX-IT」は独立時から5,000日以上毎日更新。毎日発行のメルマガ「税理士進化論」で税理士独立のサポートも行う。著書に『ひとり税理士の仕事術』、『ひとり税理士の自宅仕事術』など26冊。

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※ 本記事は、会計人コース2018年9月号「繁忙期を作らない勉強術―仕事の効率化、勉強の工夫、転職、プライベート」を編集部で一部抜粋したものです。該当号はこちらからお買い求めいただけます。


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