【『財務会計講義』を読もう!】第5回:減損処理


固定資産の減損処理とは何か?

固定資産の減損処理は、有価証券の減損処理と同様、その価値が回復できないほど著しく低下したならば、その価値まで強制的に評価減することではないかと想像することができる。そこで、『財務会計講義』p.187を読んでみよう。

固定資産の投資は、その事業から回収される金額が投資額を十分に上回ることを期待して実施されたものであるが、その後の技術革新や市場環境変化などによって、その資産の収益性が低下することがある。固定資産の収益性の低下により、投資額の完全な回収が見込めなくなった状態を減損という。

このように固定資産でも減損状態になった場合は、有価証券と同様、回収可能価額まで帳簿価額を減額しなければならない。すなわち、回収が見込めなくなったら、減損処理を強制的に行わなければならないという点で有価証券の減損処理とは変わらないのである。

ここで少し手続的に手間がかかるのは、有価証券は金融資産であるので、時価や実質価額が回収可能価額に置き換わるのだが、固定資産は実物資産(使用することでキャッシュを獲得するもの)であるため、時価だけでなく使用価値も回収可能価額の算定上、考慮する必要があるからである。

減損損失を計上するまでの手順は次のとおりである。

①     減損の兆候 → 判定を行う

②     減損損失の認識 → 割引前将来キャッシュ・フローの総額 < 帳簿価額

③     減損損失の測定 → 回収可能価額 < 帳簿価額
(回収可能価額=正味売却価額と使用価値のいずれか高い方)
(使用価値=将来キャッシュ・フローの割引現在価値)

設 例(固定資産の減損処理)

保有稼働中の機械(取得原価¥1,800,000、減価償却累計額¥300,000)について減損の兆候がみられるので、当期末に将来キャッシュ・フローを予測したところ、残存する5年の耐用年数の各年につき¥150,000ずつのキャッシュ・フローを生じ、使用後の処分収入はゼロであると見込まれた。このキャッシュ・フローのリスクを考慮して適切と思われる年5%の割引率を適用して算定した割引現在価値は次のとおりであり、この機械の現時点での正味売却価額は¥660,000である。

(借)減損損失  840,000
 (貸) 機械  840,000

① 減損の兆候がみられる。

② 帳簿価額=取得原価¥1,800,000-減価償却累計額¥300,000=¥1,500,000
  
  割引前将来キャッシュ・フローの総額¥750,000 < 帳簿価額¥1,500,000  

  よって、減損損失を認識する。

③ 使用価値
=将来キャッシュ・フローの割引現在価値
=¥150,000÷1.05+¥150,000÷(1.05)2+¥150,000÷(1.05)3+¥150,000÷(1.05)4+¥150,000÷(1.05)5
=¥649,422

回収可能価額
=正味売却価額¥660,000と使用価値¥649,422のいずれか高い方
=¥660,000

回収可能価額¥660,000 < 帳簿価額¥1,500,000

よって、減損損失¥840,000を測定する。

〈執筆者紹介〉
長島 正浩(ながしま・まさひろ)
茨城キリスト教大学経営学部教授
東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。簿記学校講師、会計事務所(監査法人)、証券会社勤務を経て、資格予備校、専門学校、短大、大学、大学院において非常勤講師として簿記会計や企業法を担当。その後、松本大学松商短期大学部准教授を経て、現在に至る。この間30年以上にわたり、簿記検定・税理士試験・公認会計士試験の受験指導に関わっている。

連載スケジュール(毎月1回・最終週の水曜日にアップ予定)

第1回(2020年12月)…「時価(洗い替え方式・切放し方式)」
第2回(2021年1月)…「自己株式」
第3回(2021年2月)…「引当金」
第4回(2021年3月)…「偶発債務」
第5回(2021年4月)…「減損処理」
第6回(2021年5月)…「償却原価法」
第7回(2021年6月)…「割引現在価値」

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