【『財務会計講義』を読もう!】第2回:自己株式


自己株式とは何か?

『財務会計講義』では、p.95とp.262の両方で

会社がいったん発行した自社の株式を取得して保有しているとき、その株式を自己株式または金庫株という。

として、自己株式を定義している(厳密にはp.95では「その」、p.262では「この」の違いはあるが、そこは気にしない)。

「金庫株」は、専門用語ではないから用語そのものは重要ではないが、うっかり答案で使用しないよう注意する、という点では重要である。

ちなみに、ウェブ記事検索をかけてみると、337件しかヒットしなかった。もはや業界用語でもなく、隠語(jargon)か俗語(slang)に分類されるのではないだろうか。そもそも米国においては、treasury stock(トレジャリー・ストック)と呼ばれ、買った株式を金庫に入れて保管するという意味をもっていたのである。

p.95は「第5章 現金預金と有価証券」にあたるので、ここでの自己株式は “有価証券” と考え、p.262は「第11章 株主資本と純資産」にあたるため、こちらでは自己株式を “株主資本との関係” で捉えていることがわかる。

資産説の論拠と会計処理

自己株式については、かねてより “資産” として扱う考えと、“資本の控除” として扱う考えがあった。

“資産” として扱う考えは、自己株式を取得したのみでは株式は失効しておらず、他の有価証券と同様に、換金性のある会社財産とみられることを主な論拠とする(企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第30項)。

自己株式の取得が、ごく例外的な場合を除いて禁止されていた時代(2003年改正商法以前)であれば、取得した自己株式は早期に処分しなければならず、自己株式の所有期間は短期的であった。

このことから、自己株式は実務上、他の会社の株式(有価証券)を一時的に所有しているのと同じように、「資産」として記帳されていた(「資産説」の採用)。

設 例

① 自己株式を50万円で取得し、買入手数料4,000円とともに現金で支払った。

(借) 自己株式 504,000
 (貸) 現金 504,000

② 決算日におけるこの自己株式の時価は60万円である(原価基準採用)。

仕訳なし

③ 取得後直ちにこの自己株式を65万円で売却し、現金を受取った。

(借) 現金 650,000
 (貸) 自己株式 504,000
     自己株式売却益 146,000

資産説では、他の有価証券と同様に取り扱われることから、①での買入手数料は、付随費用として自己株式の取得原価に算入する。

②は、現行制度上では時価基準の採用も考えられるが、当時のまま原価基準を採用したので、「仕訳なし」である。

③は売却したため、「自己株式売却益」が計上され、臨時的なものと考えられるので、損益計算書の特別利益となる。

資本減少説の論拠と会計処理

“資本の控除” として扱う考えは、自己株式の取得は株主との間の資本取引であり、会社所有者に対する会社財産の払戻しの性格を有することを主な論拠とする(企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第30項)。

設 例

① 自己株式を50万円で取得し、買入手数料4,000円とともに現金で支払った。

(借) 自己株式 500,000
    支払手数料 4,000
 (貸) 現金 504,000

② 決算日におけるこの自己株式の時価は60万円である。

仕訳なし

③ 取締役会の決議を経てこの自己株式を65万円で売却し、現金を受取った。

(借) 現金 650,000
 (貸) 自己株式 500,000
     自己株式処分差益 150,000

資本減少説では、①の買入手数料などの付随費用を財務費用と考え、損益取引とする方法をとる。

この考えは、付随費用が株主との間の資本取引ではない点に着目し、会社の業績に関係する項目であるとの見方に基づく(第51項)。

③の自己株式の売却は、自己株式を募集株式の発行等の手続で処分すると考え、自己株式の処分は株主との間の資本取引とする(第36項)。

「自己株式処分差益」については、自己株式の処分が新株の発行と同様の経済的実態を有する点を考慮すると、その処分差額も株主からの払込資本と同様の経済的実態を有すると考えられる(第37項)。

よって、自己株式処分差益はその他資本剰余金に計上することが適切である(第38項)。

〈執筆者紹介〉
長島 正浩(ながしま・まさひろ)
茨城キリスト教大学経営学部教授
東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。簿記学校講師、会計事務所(監査法人)、証券会社勤務を経て、資格予備校、専門学校、短大、大学、大学院において非常勤講師として簿記会計や企業法を担当。その後、松本大学松商短期大学部准教授を経て、現在に至る。この間30年以上にわたり、簿記検定・税理士試験・公認会計士試験の受験指導に関わっている。


連載スケジュール(毎月1回・最終週の水曜日にアップ予定)

第1回(2020年12月)…「時価(洗い替え方式・切放し方式)」
第2回(2021年1月)…「自己株式」
第3回(2021年2月)…「引当金」
第4回(2021年3月)…「偶発債務」
第5回(2021年4月)…「減損処理」
第6回(2021年5月)…「償却原価法」
第7回(2021年6月)…「割引現在価値」

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