井上 修
(福岡大学講師・公認会計士)
「財務会計論で1点でも多くとる解答戦略」では、白紙答案をなくすコツとして、問題にあるヒントに思いっきり乗っかることをお勧めしています。また、「理由」と「結論」をワンセットで解答すること、正確な知識を使って解答することが大事だともお話ししました。
けれど、実際にはどうやればいいのでしょう? この記事では、まったくわからない理論問題にぶつかったとき、どう解答を展開していけばいいのか、過去問を使って実践的に解説していきます。
【平成28年 第3問 問題2 問2】
株主資本等変動計算書が導入された理由を、会社法における剰余金の配当に関する規定と関連させて説明しなさい。
仮にまったく勉強していなかった論点だとしましょう。思いっきり問題文に乗っかると、下書きは「会社法における剰余金の配当に関する規定があるので株主資本等変動計算書が必要になった。」という構成になります。ただ、これだけでは当然説明になっていないわけですから、少し肉付けが必要です。
次のステップでは、「会社法における剰余金の配当に関する規定が○○なので、株主資本等変動計算書がないとそれが明らかにならない(問題になる)。」と進化させます。
株主資本等変動計算書の特徴は「ストック(貸借対照表)の純資産のフロー化」です。○○のところですが、問題文に「配当」というキーワードまで出ているので、「いつでも配当ができるようになった」という会社法の基本的な知識は浮かぶはずです。あとは「純資産のフロー化(理由)」と「いつでも配当ができるようになった(結論)」を結ぶロジックを考えて書くだけ! これでもう合格点です。
正直、現場レベルで白紙答案をなくして合格するならば、「会社法でいつでも配当ができるように規定され、従来は純資産の変動部分が明らかではなかったので、純資産の各項目の一会計期間の変動額を示す株主資本等変動計算書が必要となった。」程度でも十分です(厳密にはまだまだですが、非常に実践的です)。
「理由から強引に結論にもっていく」のも解答テクニックです。
【平成28年 第4問 問題2 問2】
在外子会社の留保利益に対して税効果会計を適用した場合の繰延税金負債が「概念フレームワーク」の負債の定義を満たさないという見解について、親会社が在外子会社の配当方針を変更する可能性を考慮して、具体的に説明しなさい。
この見解もまったく知らなかったとします。これも、もうそのまま問題文のヒントに乗っかって解答してください。「負債の定義を満たさない」と結論まで示されています。『「親会社が在外子会社の配当方針を変更する可能性」があるから、「負債の定義を満たさない」』と強引に結論にもっていく文章構成を心がけてください。
肉付けとしては「負債の定義」を示したうえで、「親会社が在外子会社の配当方針を変更する可能性」が、その負債の定義のうち、「経済的資源を引き渡す義務」を満たしていないという点をしっかり明示すればOKです。
【平成27年 第5問 問1(3)】
ある事例が与えられ、子会社を「非連結子会社」にできるかどうかが問われました。
これは「できる」「できない」のどちらかに丸をして理由を書く問題でしたが、このような問題は、わからなくても丸をすることは絶対に忘れずに!
実際の出題では、ある子会社について「量的な重要性における利益の観点から非連結子会社とすることができるか?」と問われています。仮に「できない」を選んだとして、理由がわからない場合であっても、問題文の指示に従って、「利益が金額的(量的)に重要性が乏しくなる」ことを示しましょう。問題文の指示に沿って連結対象から外す判断を下すわけですから、基本的な理由にはなっているはずです。何も書かないよりは圧倒的に好印象になりますし、このわずかな数点が合格ラインに大きく影響する可能性があります。
一見、難しそうな問題ほど、問題文に大きなヒントが示されている傾向があります。そのような心構えで本試験に臨めば、冷静になって問題文を読む姿勢が芽生えてきます!
【平成27年 第4問 問3(2)】
平成10年当時の退職給付会計基準には年金資産として認識できる部分に制限(上限)が定められていました。その理由は?
この問題もまったくわからなかったとしましょう。このとき、「年金資産の論点で知っていること」を思い出してください。年金資産には、「特殊な資産ゆえオフバランス」という典型論点があります。それを理由にして説明できないか、と模索してください。「知らないからパス」、それが求められることもあります。しかし、実際にこの問題は、その年金資産の特殊性が理由となります。
わからなくても知識をひねり出して最善を尽くすことは合格するためにも大事ですし、本試験が終わって合格発表まで「納得して」過ごすためにも絶対に必要です。
本試験では、極度の緊張から、習っていない問題や知らない論点に対してものすごく焦りや不安を感じてしまい、冷静さを失います。しかし、「どこかにヒントがあるかもしれない」「何か知っている知識はないか」という姿勢でいれば、本番に余裕をもって臨むことができますよ!
〈執筆者紹介〉
井上 修(いのうえ・しゅう)
慶応義塾大学経済学部卒業。東北大学大学院経済学研究科専門職学位課程会計専門職専攻修了、会計学修士号(専門職)。研究分野はIFRSと日本基準の比較研究、特別損益項目に関する実証研究などであり、2020年度に博士号(経営学)を取得見込み。
福岡大学「会計専門職プログラム」では、現役の大学生が多数、公認会計士試験や税理士試験簿記論・財務諸表論に在学中の合格を果たしている。本プログラムから平成30年度は10名、令和元年度は5名が公認会計士試験に合格。
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