並木秀明
(千葉経済大学短期大学部教授)
【編集部より】
「会計人コースWeb」でおなじみの並木秀明先生に、会計用語や勘定科目について、多様な視点を踏まえて、ゆるりと解説していただく連載です。
日本の会計の始まり
現在の日本の会計は、昭和24年7月の企業会計原則の誕生から始まったといえる。
その後、明治に誕生した商法(現在の会社法)が改正され、証券取引法(現在の金融商品取引法)が設定された。
その流れとともに税法が制定・改正され、昭和30年代は、会計そのものが混沌とした状態となった。
混沌とは、企業会計原則を会計処理の前提とする証券取引法、商法及び税法が異なる規則、用語を規定し、企業の会計処理に統一性が欠ける事態が生じた状態になった、という意味である。
企業からすれば、「3つの法律に準拠した財務諸表等を作成するなんて面倒じゃないか!」といった苦情がくるような状態になったのである。
「連続意見書」の登場
そこで、昭和35年~昭和37年に「企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書(略して連続意見書)」が公表された。すなわち、3つの法律の会計に関する会計処理等を統一するための意見書が公表されたのである。
連続意見書は第一から第五まであり、第一と第二は、いまはなき財務諸表(利益剰余金計算書)の統一の規定である。第三は減価償却費について、第四は棚卸資産について、第五は繰延資産についての意見書であり、現在の試験でも重要な規定である。
昭和の会計ビッグバン
その後、昭和49年に、会計に対する3つの法律の大改正(第1次会計ビックバンといっていいかな)が行われた。連続意見書公表後15年のことである。改正のポイントは、
①3つの法律の統一(筆者から見れば、ぜんぜん統一されてないじゃないかと言いたい)
②中間配当制度の制定(決算なければ配当してはならないという規定を見直し、中間配当すれば1年決算でもよいという改正)
③当期業績主義から包括主義への変更(当時の当期純利益は、現在の経常利益であった。したがって、特別損益から当期純利益まではもう一つの財務諸表を作成する必要があった)
である。
その後、昭和57年の最終改正が行われ、平成10年以降は世界の会計を共通化するための企業会計基準(以下、会計基準という)が公表され、現在に至っている。
それはさておき、減価償却累計額は「減価償却引当金」、のれんは「営業権または暖簾(漢字)」といわれていた。証券取引法では「当期純利益」、商法では「純」の字がなく「当期利益」であった。
現在も不思議がいっぱいの会計学である。これらの理由を本連載で解明し、納得して受験勉強ができるように手助けしていくつもりである。
<執筆者紹介>
並木 秀明(なみき・ひであき)
千葉経済大学短期大学部教授
中央大学商学部会計学科卒業。千葉経済大学短期大学部教授。LEC東京リーガルマインド講師。企業研修講師((株)伊勢丹、(株)JTB、経済産業省など)。青山学院大学専門職大学院会計プロフェッション研究科元助手。主な著書に『はじめての会計基準〈第2版〉』、『日商簿記3級をゆっくりていねいに学ぶ本〈第2版〉』、『簿記論の集中講義30』、『財務諸表論の集中講義30』(いずれも中央経済社)、『世界一わかりやすい財務諸表の授業』(サンマーク出版) などがある。