大学院担当教授が教える科目免除制度の概要―入試から修了まで


5.入学から卒業まで

本大学院では、半年ごとのセメスター制が採られています。いわば2年間を4学期ととらえているのです。そしてこの間に30単位以上を習得しなければなりません。基本的に1科目2単位となっています。税法科目についてみれば、1年生前学期に税法特殊講義Ⅰ、後学期に税法特殊講義Ⅱがそれぞれ選択必修科目として設けられています。それぞれ2単位です。ただし当然、全員が履修しています。そのほか専門演習という科目があります。これは2年間で4単位必修科目です。税法だけで8単位ということです。

授業内容ですが、当然これも私の場合です。1年前学期では、基本書をベースに各回テーマを指示します。そのテーマに沿って1人の院生に報告をしてもらいます。報告の際のレジュメ作成、他の院生との討論、指導教授のテーマの解説と質問を受けることで税法学の基礎を身につけてもらいます。

後学期では、前学期で習得した税法学の応用編として判例研究を行っています。方法は前学期と同じです。

次に専門演習ですが、これは論文指導です。1年生2年生共同で実施されます。この授業はそれぞれの進捗状況に応じた個別指導となります。

1年生は、テーマ選定から始まります。テーマ選定が入学後となってしまった場合でもゴールデンウィークまでには選定を終了しています。そのうえで論点の掘り起こしのアドバイス、参考資料の見つけ方などなど、論文作成へ向けた準備作業を行ってもらいます。

2年生では論文の作成作業となります。1年生の時点で積み上げてきたものを文章の形にするのです。テーマに対する結論の方向性を報告してもらいそれを批判し、その批判にどう対処するのか、結論をより説得力のあるものにするための論文構成などを検討しながら論文の形にしてもらいます。2年生には、10月末までに一応文章にしたものの提出を求めます。文章の添削作業を行うためです。これらの作業を毎週繰り返して翌年1月中旬の提出期限を迎えるのです。論文は5万字以上になるよう目安も指示します。

修士論文の提出がおわり、約一か月後に口頭審査が行われます。主査である私と副査の先生によるものです。二人の教員はこれまでその院生の論文を何度となく読み、アドバイス等々を重ねてきています。ですからその論文についていくつかの質問をして、終了となっているのが実情です。

6.おわりに

口頭審査が終わると旨いビールを飲みながらの慰労会です。
ほとんどの社会人院生諸君は、これまで実務では、例えば通達を確認し、法令・通達に合致した税務処理を施すことばかりを考えてきた。しかし、大学院に進学したことにより、法令をきちんと読み、さらにその条文は何を言っているのか、自分の頭で考えるようになった。さらには判例も確認するクセがついた、と感想を漏らします。そのうえで、インプットとアウトプット中心の現在の税理士試験ではなく、このような自らの頭で考えるといった試験も必要なのではないだろうか、といった意見もしばしば耳にします。

税法を法律として捉えるようになってくれているようです。AIなるものが浸透すれば税理士業界も…。といったことがいわれています。しかし、税理士を単に通達等々に基づいた税額計算の専門家としてではなく、税法に特化した法律専門家としてみるならば、さらなる道も開かれるはずだと、彼らは語ります。

これから税理士を目指す方々にとって求められる素養とは、このような「考える」といった作業ということになるのではないでしょうか?

本稿は、『会計人コース』2019年10月号の要約版です。実際に受験を検討される場合、詳細はバックナンバーをぜひご覧ください。 より有益、かつ詳細な解説がされています。

阿部 徳幸(日本大学大学院法学研究科教授・税理士)
1962年7月、東京都生まれ。日本大学法学部、日本大学大学院法学研究科教授(税法担当)・税理士。OA機器販売会社営業部勤務を経て、1995年2月、税理士開業。島根大学法文学部非常勤講師、獨協大学法学部非常勤講師、二松学舎大学大学院国際政治経済学研究科非常勤講師、関東学院大学法学部、同大学院教授(税法担当)を経て現職。著書として『滞納処分の基本と対策』(中央経済社)など。趣味は残業、特技は休日出勤。


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