【連載】経理のための実践的勉強法~④固定資産実務をマスターするまでの道のり


葛西一成@元上場企業経理部長(経理部IS)

【編集部より】
経理部に配属され、会計のことを勉強しないといけなくなったけど、仕事に直結する勉強法ってどうすればよいの? 担当することになった業務について知りたいとき、どのようにアプローチして、どんな本を読めばいい? そんな悩みを抱えている人もいるのではないでしょうか。
そこで、複数の上場企業で経理の実務経験のある、経理部ISこと葛西一成氏に、経理のための実践的な勉強法についてアドバイスをいただきます。ぜひ、スキルアップにお役立てください!(月1回掲載予定)

固定資産の実務では幅広い知識が求められる

本連載第4回では「固定資産の実務」にスポットを当て、その重要性と内容について詳しく解説します。

固定資産の実務は多岐にわたり、その全てを完全に理解するのは容易ではありません。実際に固定資産の実務に携わった経験がある人でさえ、全てを把握している人は少なく、学ぶべきことが非常に多いと言えます。
この実務は、会計や税務、管理会計、システム対応など、幅広い知識を必要とするため、簿記の基本的な知識だけでは対応が難しいこともあります。

今回の記事では、固定資産の実務を深く理解するために必要な勉強方法を包括的にご紹介します。固定資産の実務に初めて取り組む方はもちろん、現在固定資産の実務を担当している方々にも、ぜひお読みいただき、参考にしていただけると幸いです。

固定資産のキホン

固定資産とは、企業が事業活動を行う上で長期間にわたって使用するために保有する資産のことです。これには建物、構築物、機械装置、車両、工具器具備品、土地、ソフトウェアなどが含まれ、通常1年以上の使用が見込まれるものが該当します。

固定資産は、その性質によって「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他の資産」の3つの種類に分けられます。

有形固定資産

時間の経過により価値が減少する減価償却資産である、建物や機械装置、工具器具備品などのほか、価値が減少しない土地が該当します。

無形固定資産

ソフトウェア、特許権、商標権、のれんなど形がない、法律上の権利や企業が収益を獲得するために必要とする資産が該当します。

投資その他の資産

企業が長期間保有している資産で、投資を目的とした投資有価証券や出資金のほか、長期貸付金、長期前払費用などが該当します。

今回は、固定資産の中でも「有形固定資産」と「無形固定資産」の実務についての勉強法を解説していきます。

固定資産の実務の勉強手順

固定資産の実務は広範囲にわたるため、最初から全てを理解するのは難しいと言えます。そこで効果的に勉強するためには、以下の手順を踏んでいくことをお勧めします。

Step1 基本的な経理処理の理解
固定資産の実務を行う上で、最低限必要な基本知識を学びます。

Step2 固定資産実務の範囲を理解
固定資産に関連する実務の全体像を理解します。

Step3 自社の固定資産の実務の洗い出し
自社の固定資産に関する実務をリストアップし、それぞれの業務内容を把握します。

Step4 実務理解の優先度を決定
理解すべき固定資産の実務の優先順位を設定します。

これらのステップに従い、それぞれの学習手順について詳細に解説していきます。

Step1 基本的な経理処理の理解

固定資産の実務を行うためには、最低限理解しておかなければならないことがあります。それは、固定資産の計上基準と取得の処理、除売却の処理、減価償却費の計算方法です。

固定資産として計上するかどうかは、使用期間と取得価額によって決まります。例えば、使用期間が1年以上で取得価額が20万円以上の場合は固定資産として計上します。一方、10万円以上20万円未満の資産は一括償却資産として処理されることがあります。また中小企業では、30万円未満の資産を直接費用として計上することが可能であるなど、基本的な経理処理でありつつも判断が難しいのが固定資産の計上です。

固定資産は定期的に更新が必要であり、除却や売却の処理方法を理解することも重要です。また、減価償却費の計算は固定資産管理の中核をなす作業であり、税法に基づいた正確な計算が求められます。

これらの基本を理解することは、固定資産の実務において不可欠です。まずはこれらの経理処理について学ぶことから始めなければなりません。

Step2 固定資産実務の範囲を理解  

上述した基本的な経理処理の理解に続いて、固定資産に関連する実務の範囲を把握します。

固定資産の実務は広範囲にわたり、すべてを理解するには数年の実務経験が必要となります。

<固定資産の実務例>
・固定資産取得、除売却、減価償却費の計上
・付随費用の考え方
・税務上の扱い(資本的支出、一括償却資産等の判断)
・リース資産の処理
・固定資産台帳の管理(システム操作含む)
・固定資産税、償却資産税申告納付
・固定資産の現物管理、実査
・設備投資計画、減価償却費予測計算(予算策定)
・資産除去債務の見積、計上
・自社開発の固定資産の原価計算
・ソフトウェア資産の計上判断
・税務調整、法人税申告書別表16関連作成
・設備投資にかかる補助金受給申請
・圧縮記帳、特別償却に関する処理
・連結固定資産未実現利益消去
・のれんの計上・償却
・固定資産に係るキャッシュ・フローの計算
・固定資産減損会計(連結、単体、鑑定評価の取得まで)
・固定資産に関する注記データ集計(決算開示)
・固定資産管理システムの導入

固定資産の実務は、会計処理だけでもさまざまな基準によって処理方法が規定されています。また、税法においても固定資産の計上基準や、固定資産に関連する税金の処理方法などが規定されています。さらに適切な固定資産管理のためには、現物実査や管理システムの導入も必要です。

固定資産の実務を担当する際には、これらの実務内容を知り、「どの領域を学ぶべきか」を判断することが重要となります。

Step3 自社の固定資産の実務の洗い出し

自社における固定資産の実務を洗い出すためには、以下の資料を分析することが重要となります。

財務諸表
自社で保有する固定資産からどのような実務が行われているかを推測できます。

総勘定元帳や仕訳帳
自社における固定資産の経理処理方法を確認できます。

固定資産台帳
自社における固定資産の詳細を確認できます。そこから実際に行われている実務の詳細を把握することができます。

法人税申告書
固定資産の税務調整に関する情報を確認できます。

決算関連資料
固定資産に関する決算資料から、決算時に行われている処理の詳細を把握することができます。

有価証券報告書等の決算開示書類
開示書類の注記情報から、決算時に必要な実務作業を把握することができます。

例えば、財務諸表の純資産の部に「圧縮記帳積立金」という勘定科目がある場合、それは企業が税務上の圧縮記帳処理を行い、設備投資に関連する補助金を受け取っている可能性があることを示しています。また固定資産台帳にリース資産が多数登録されている場合は、リース会計に関する実務の理解が必要となることがわかります。さらに有価証券報告書等の決算開示書類に賃貸等不動産関係の注記があれば、賃貸不動産の管理に関する作業が必要になることがわかります。

これらの資料を分析することで、「自社がどのような固定資産の実務を行っているか」を明らかにし、「学習が必要な実務はどれか」を判断できます。

Step4 実務理解の優先度を決定

固定資産担当者は、まず基本的な取得の処理、除売却の処理、減価償却費の計算理解から始めます。その後は、自社の業務に合わせて、どの領域の固定資産の実務を優先して学ぶかを決めることが大切です。

例えば、Webサービスを提供するIT企業では、そのサービスに必要なシステム開発費を無形固定資産として計上しなければならない場合があります。このとき、ソフトウェアの資産計上額をどのように計算するか、また、ソフトウェアを資産として計上すべきかを判断するために、会計基準の理解が不可欠となります。具体的には、「研究開発等に係る会計基準」や「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」などが該当します。

このように、自社の事業に直接関連する固定資産の実務については、優先的に勉強を進めることが重要です。これが結果として、経理パーソンとしての評価を高めることにもつながります。

固定資産実務の勉強にオススメの書籍

固定資産の実務を学ぶ際には、専門書籍等の活用が欠かせません。これから固定資産の実務を担当する方も、現在実務を行っている方も、必要な書籍等を選び、実務理解を一層深めてください。適切な書籍選びが、実務スキル向上につながります。

固定資産実務で参考となるオススメ書籍例>

固定資産・会計税務全般の専門書なら!
『「固定資産の税務・会計」完全解説』(太田達也、税務研究会出版局)

減価償却に関する書籍なら!
すらすら図解 減価償却のしくみ』(CSアカウンティング株式会社編、中央経済社)
『いまさら人に聞けない「減価償却」の会計・税務Q&A 』(株式会社ブレイン編著、セルバ出版)

固定資産減損会計のガイドラインなら!
図解でざっくり会計シリーズ/4減損会計のしくみ』(新日本有限責任監査法人編、中央経済社)

リース会計基準に関する解説書なら!
図解でざっくり会計シリーズ/8リース会計のしくみ』(新日本有限責任監査法人編、中央経済社)

ソフトウェア会計に関する書籍なら!
図解でスッキリ ソフトウェアの会計・税務入門』(新日本有限責任監査法人編、中央経済社)
『新版 ベンダーとユーザーのためのソフトウェア会計実務Q&A』(EY新日本有限責任監査法人ソフトウェアセクター編著、清文社)

固定資産の現物管理方法についてなら!
そこが知りたい! 固定資産管理の実務―現物リストの作成から税務調査対応まで』(松下欣親・花木大悟編著、中央経済社)

まとめ

今回は、経理のための実践的勉強法「固定資産の実務」について解説しました。

固定資産の実務は多岐にわたり、その全てを理解するのは容易ではありません。そのため、自社において行われている固定資産の実務を把握し、重要性の高いものから優先して勉強することが必要となってきます。

これから固定資産の実務を担当する方や既に実務に関わっている方は、今回の記事を参考に勉強すべき内容を検討していただけたら幸いです。

経理パーソンとして、固定資産の実務の基本をマスターすることは不可欠です。次回はこのテーマを深掘りし、実務の基本となる取得から除売却、減価償却までのプロセスと、それらを管理する固定資産台帳の理解について、実際の事例を交えてわかりやすく解説します。

実務に直結する固定資産の知識を身につけ、日々の業務をスムーズに進めてもらえたら幸いです。次回もぜひご覧ください。

<執筆者紹介>

葛西一成@元上場企業経理部長

東証プライム・グロース上場2社で経理部長を経験後、独立開業。独立後は経理パーソン向けキャリアサポート・会計関連システム開発導入サポート・決算業務フォローや執筆活動に注力。X(旧Twitter)では、フォロワー1.5万人超の「経理部IS」アカウントにて、経理の仕事に関する情報を発信中。
著書に『経理のExcelベーシックスキル』(中央経済社)がある。
経理部IS(@keiri_IS

【「経理のための実践的勉強法」バックナンバー】
第1回:スキルアップを目指そう!
第2回:前払費用の実務
第3回:賞与引当金の実務(前編)(中編)(後編
第4回:固定資産実務をマスターするまでの道のり
第5回:固定資産の実務における基本的な理解(前編)(後編

経理部ISこと、葛西一成@元上場企業経理部長さん執筆のバックナンバー記事もぜひご覧ください!

【連載バックナンバー(全10回)】
第1回:現役経理部長が教える! 経理の仕事でExcelがマストな3つの理由
第2回:現役経理部長が教える! 経理に必要な4つのExcelスキル~ミス削減&作業効率化にマスト!
第3回:現役経理部長が教える! 仕事が効率化するExcelを‟見やすくする”スキル
第4回:現役経理部長が教える! 今すぐやるべき‟Excelでミスを防ぐ”方法
第5回:現役経理部長が教える! 仕事で評価される‟わかりやすいExcelの表”を作成する方法
第6回:現役経理部長が教える! Excelを使いやすくする5つの方法(前編)(後編)
第7回:現役経理部長が教える! 経理業務の効率化に役立つ! 使いやすいExcelファイルの管理方法(前編)(後編)
第8回:現役経理部長が教える! 仕事スピードを速くするExcel関数とショートカットキー
第9回:現役経理部長が教える! Excelピボットテーブル活用術
第10回:現役経理部長が教える!  作業効率化に役立つExcel機能3選

<こちらもオススメ!
経理部ISさんに聞く! 上場企業経理への就職・転職 FAQ
経理部ISさんに聞く! いま欲しい上場企業の経理人材はどんな人?


関連記事

ページ上部へ戻る