ライフプランナー/会計士・菊池諒介、事務所経営者の素顔に迫る File5:株式会社SoVa 代表取締役CEO・山本健太郎氏①


【編集部より】
税理士法人や会計事務所はたくさんありますが、いざ自分の就職先として選ぶ場合、どういう点に特徴があるのかわかりにくいこともあるかもしれません。そこで、本企画では日頃からライフプランナーとして、さまざまな会計事務所等と関わりを持つ菊池諒介先生(公認会計士/写真右)が、いま注目の法人・事務所経営者の素顔に迫ります。
File5は、株式会社SoVa代表取締役CEO・山本健太郎氏(公認会計士/写真左)との対談です。
<全3編>
①前編:SoVaのビジョンや事業内容について
中編:公認会計士を目指したきっかけと幻の退校届
後編:会計業界をとりまく今後の環境と時代の変化

専門家×テクノロジーを掛け合わせた新しい形の会計事務所

菊池先生(以下、敬称略)
会計事務所がどういう職場か、代表がどういう人かというリアルな面は、受験生や若手会計士からまだまだ見えない面があるのではないかということで、このシリーズでは、事務所経営者をお招きして事業や将来の展望、受験時代のお話などをお聞きしています。
今回、満を持して登場していただきます、株式会社SoVaの山本健太郎さんです。

山本先生(以下、やまけん)
ようやく呼ばれましたよ〜。
僕の周りの人がどんどん出ていて、「いつになったら呼ばれるねん!」と思っていました(笑)。

菊池 もうかれこれ10年来の長い付き合いなので、正直、身近過ぎて盲点でした(笑)。
今回のインタビューでは普段どおり、「やまけん」と呼ばせていただきますね。
さて、僕はよく知っているやまけん先生ですけれども、簡単なキャリアヒストリーを教えていただけますか。

やまけん はい、2014年、大学3年の時に公認会計士試験に合格しました。最初は、監査法人への就職か専門学校講師かを迷っていたんですが、「講師の仕事は受験直後の今しかできないからやってみるか」と思って、2年限定のつもりで講師の道を選びました。講師の仕事は意外と楽しくて今も続けています。

実務では、監査法人で2年ほど非常勤で監査業務を経験して、その後、同級生が起業したベンチャーでCFOを2年半ほど務めました。当時、「最年少CFO」なんて言っていましたね。そして、2019年9月に「株式会社SoVa」を起業しました。
現在は、講師業と経営業の二本柱という感じです。

菊池 今回は、SoVaの事業を中心にお聞きしたいと思います。改めて、SoVaのビジョンや事業内容について教えていただけますでしょうか。

やまけん SoVaはミッションとして、「専門知識のアクセシビリティを高め、安心して挑戦できる社会をつくる」を掲げています。

従来の会計事務所は、大きい会社に高単価で専門サービスを届けるというのがパターンになっています。そうしないと採算が合わないからという理由がありますが、個人的には、「創業期の会社にしっかりとしたよい専門サービスを届ける」ことが社会的にも重要だと考えています。

ただ、よいサービスを届けようとすると、値段が上がっていってしまうので、創業期の会社では支払えないという話になり、どうしても採算が合わないよねという話になりがちです。
そこをSoVaでは、よいクオリティのものを一旦作り、AIテックなどを使って、多くの人に届けるという事業を展開しています。

よく、「会計事務所版のユニクロ」という例えをするんですけど、「なるべく皆がお求めやすい価格で、皆が欲しい良いものを届ける」という世界観で、専門家とテクノロジーを掛け合わせた「新しい形の会計事務所」です。

テクノロジーの知識ゼロから挑んだ領域

菊池 今日、お聞きしようと思っていたのですが、テクノロジーにはもともと詳しかったのでしょうか。

やまけん いえいえ、ゼロです。いまだにコードを1行も書けません。

菊池 そうだったんですね! 経験のない分野で起業するのは、本当にすごいことですよね。

やまけん 「できるか・できないか」で言ったら、知らないがゆえに「できるかどうか」がいまだによくわからないんですけど…、「知らないから始められた」という点はあるかもしれません。

ただ、「できるか・できないか」で選んでいたら何も進まないので、「やりたいかどうか」、「やってみたいと思ったからやった」という感じですね。

もちろん、最初は結構悩みましたよ。特に最初の2年間は自分がテックのことが本当にわからないから、新しくエンジニアが入っても、「この人がいいのかどうか」自体が判断できない、という状況でした。

しばらくして、もともと外注していた人がCTO(Chief Technology Officer)としてSoVaに参画してくれて、さらに、他にも会計士でエンジニアの人や会計士でデザイナーの人など、会計とテック・デザインなどの両面をわかっている人が増えてきて、お互いのコミュニケーションがスムーズにとれるようになって今に至ります。

菊池 やりたいことがあったということですが、創業の経緯を教えていただけますでしょうか。

やまけん 同じ年の起業家の友人とランチを食べている時に、その子はロボットを作っている会社を経営していて、バックオフィスやファイナンスの相談を時々受けていたんです。
でも、「生身のやまけんはあまりに忙しそうで、なんでもかんでもチャットするの悪いから、”バーチャルやまけん”が欲しい」って言われたことがあったんですよね。
その時はたわいもない会話で深く考えていなかったのですが、帰り道に「ありだな」と思ったんです。

よい士業が足りないのであれば、バーチャル上で作り上げる。経営会議の一席に、ホログラムでバーチャルCFOがいるみたいなイメージで、そういうの作れたら、すごくいいんじゃないかと思って、創業したのが最初のきっかけです。

菊池 ある意味、専門学校講師のやまけん先生はVTR講義を通じて全国で活躍してるわけですからね。

やまけん そこは結構似ていますね。
いいものを作り上げて、それをテクノロジーの力で多くの人に届けるということができて、日本中の中小企業の力が高まっていけば、日本の経済力ってもっと上がるよね、と。

ただ、やったほうがいいとわかっていても、普通の事務所にはなかなか手が出しにくい、採算が合わなすぎて無理だし、やるにはテクノロジー領域のバックグラウンドと、優秀な士業を常に安定的に採用し続けられなければならないという土壌が必要です。

幸い、講師業もやっていて顔が広かったので採用力があったのと、テックに関するコミュニケーションが取れるかが判断できたので、「じゃあやろう」と動きました。

菊池 最初は何から始めたのでしょうか。

やまけん 役所手続きの機能ですね。具体的には、税務・労務・登記の手続きがワンストップでできるサービスをはじめに出しました。

会社のオフィスを移転する場合、イメージ的には住所変更したら終わりという感じですけど、実は、法務局税務署、都税年金事務所、ハローワーク、労基署にそれぞれ複数の書類を出す必要があります。ここを効率化することがスタートでした。

菊池 そのような既存のサービスは他社にはなかったということなのでしょうか。

やまけん 登記だけなどというのはありましたが、一気通貫ではできていませんでした。
なので、SoVaは一気通貫でできるようにして、その代わり対象範囲を絞って、小さい会社に限定しています。そのため、難しい論点は出てきません。

SoVa流の採用・育成マインドとは

菊池 少し前にお会いした時には常勤社員はほとんどいなくて業務委託がほとんどだと仰っていましたが、現在、スタッフは現在、何人くらいいらっしゃるのですか?

やまけん 常勤が20人くらいで、業務委託も含むと35人くらいです。
当初は僕の会社だからといって入ってくる人も多かったのですが、最近は僕のことを知らない人やSoVaのサービスに惹かれた、SoVaの事業がやりたくてと言って応募してくれる人が増えてきました。実は採用広告は出したことなくて、採用費はゼロなんですよ。

菊池 採用する際のポイントも教えていただけますか。

やまけん 採用のことは基本は24時間365日、頭の片隅にあって、誰と会う時でも、「もしこの人がSoVaに入ると仮定したら、何がいいんだろう」と一応考えています。

一応、1つ気をつけていることは、「SoVaとしてやってほしいこと」とSoVaは全く関係なく「その人の人生にとって何がいいのか」は同時にものすごく考えています。

そういう意味では、今日は菊池さんは会社をやめないとわかっているから誘いませんけれども、たとえば、菊池さんの人生を一番考える友人になった時に、「この人にどういう提案をするのがいいんだろう」と考えて、それが一致する道を見つけられた時にオファーを出します。
そこまで考えて提案して、断られることはあまりありません。

「あなたの人生において、SoVaでこういう経験をして、SoVaの中でこういうキャリアステップを踏んで、SoVaがうまくいくケース、うまくいかないケースも当然あるけど、どっちに転んだとしてもこういうことができると思うから、あなたの人生プラスになると僕は思う」というプレゼンをするんですよ。
すると、「確かに」と納得してくれるという感じですね。

菊池 なるほど。新しいスタッフの入社後、人材育成の面で意識していることはありますか。

やまけん 実は「どこにでも転職できるぐらい育成し、どこにも転職したくなくなるぐらい厚遇する」というトヨタの考えを真似していて、育成にはすごく力を入れています。

常勤で採用する人は「素直で・愚直で・謙虚な人」という軸があるので、高学歴の人も、高卒もいる環境です。

その代わり、入社したら、業界で超一級の人に週1日とか週2時間とかでもいいのでメンターとして来ていただいて、教えてもらっています。
だから、半年くらいで見違えるほどに成長できる環境で、実際に1年間で月給が10万円以上アップする人もいますよ。それほど、育成文化はしっかりしている環境です。

「新しい形の会計事務所」だからこその難しさと可能性

菊池 SoVaのスタッフさんがする仕事は、いわゆる会計事務所の仕事をこなしつつ、それをAIで効率化しているのか、ひたすらプロダクトを作っているのかというと、どちらなのでしょうか。

やまけん 厳密に言うと、メンバーを両部隊で分けています。
プロダクトやテクノロジーのグッズを開発に集中する部隊と、いわゆる会計事務所の業務っぽいことをしつつ、プロダクトなどを運用する部隊ですね。

なので、運用部隊は、プロダクトを回しながら、「うわ、これじゃできないっすよ」みたいなことを開発部隊に伝えて、開発部隊はそれを聞いて直して、より効率化できるようになんとかするというサイクルですね。

菊池 会計事務所としての現場感も大事にされているのですね。どんなところに難しさを感じますか。

やまけん やっぱり、面白さと難しさがありますね。難しいところは、人であれば柔軟に対応できることを、テックではある程度を確率的に決めなければいけないことです。
人であれば「こんな雰囲気でやっておいて」と言えても、テックではそれができないので、お客さんからすると不満になるケースはあります。

ただ、その点を修正した時には、影響度がすごく大きいです。
普通の会計事務所であれば、一人のスタッフを教育しても、そのスタッフができるようになるだけで、何にも派生しないし、極論、その人が退職したら終わりです。

でも、SoVaでは、システム自体やデータベース自体が強化されるので、別に退職者が出ても我々は弱くならない。常に進化し続けることができます。

だから、昨日よりも、今日契約してもらったほうがいいという循環がずっと続く感じなので、「人に紐づかない」という点がメリットだと思います。

菊池 他にも一般的な会計事務所がやらないこと、やっていないことで考えていることはあるのでしょうか。

やまけん 今年の3月にチャレンジとして取り組んだのが、東京・有楽町で「LoVeをSoVaに」といってSoVaのお客さんの商品を出品するポップアップストアを出しました。

創業期の企業からすると、「有楽町で出展しました」というのは対外的にも結構アピールすることなので反響もありました。

今後は、全国のデパートなどの催事でSoVaのブースを持てたり、お客さん同士で強み生かしてビジネスマッチングができたりするといいなと考えています。

今後、どのように世界を変えられるか

菊池 ところで今年、”Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2023「世界を変える30歳未満」120人” に選ばれましたね。おめでとうございます!

UNDER 30なので、これまでの実績もされることながら、今後のビジョンが評価されたことによる受賞だとも思います。今後の展望について聞かせていただけますでしょうか。

やまけん ありがとうございます。
SoVaがやろうとしてることは、「税理士の仕事を奪う」という発想では全くありません。

現実に、税理士の高齢化や受験者の減少が言われる中で、創業期の企業をしっかり支えていける士業サービスがどう考えてもなくなっていく状況だと捉えています。そこをテクノロジーの力を使って提供するということです。

この話を聞いた時に、多くの人が共感はしてくれるのですが、実はものすごく難易度が高いという側面もあるので、そこをしっかり実現できるかどうかだと考えています。

Forbesで選ばれた時には本当に小っ恥ずかしかくて、辞退しようかと思ったんですけど、だんだんと「確かに、そこの軌道に立っているな」と思うようになりました。

「10回チャレンジしたら9回無理」という事業なのですが、ただ、このメンバーと今の状況を考えれば、「10回のうちの1回」を出せるかもしれない。つまり、世界を変えられる確率が10%あって、そこに賭けてみるということです。

20代でここまで来れたのであれば、30代で「実際に変えれるかどうか」ですね。

祝☆Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2023「世界を変える30歳未満」120人に選出!(株式会社SoVaのページへリンク)

菊池 今後はどのような事業展開を考えていらっしゃるのでしょうか。

やまけん 「よいサービスを多くの人に届けたい」というところで、「日本最大規模のアカウンティングファーム」を一つの目安にしています。

そして、顧客数が日本一というところまでいったら、そのタイミングでIPO(新規株式公開)をしたいなと考えているところですね。

菊池 ありがとうございました! 中編・後編でもまだまだお話を伺いますが、そういえば、これが20代最後のインタビューでしたよね。

やまけん そうなんですよ。
菊池さんは、僕が会計士試験に受かった時、まだ28歳くらいでお兄さんみたいな感じでしたけど、相変わらずのイケメンぶりですね!

菊池 ありがとうございます(笑)。僕も30代後半になってきたので、変わらないように頑張っているんですよ。
毎朝、筋トレしてから1日を始めて、月1でフットサル、週1でパーソナルトレーニング等で鍛えています。
あと個人的には毎日、体重と体脂肪率を測るのもオススメです。現在値を把握し続けて、修正が効くうちに修正するみたいなことは、ビジネスでも一緒ですよね。

やまけん 無理やり戻しましたね(笑)。

中編につづく

【対談者のプロフィール】

◆山本 健太郎(やまもと・けんたろう)

公認会計士 株式会社SoVa 代表取締役

慶應義塾大学在学中に公認会計士試験に合格、大手資格学校にて公認会計士講座講師を務める。
卒業後は同級生が起業した不動産系ベンチャー企業にて、取締役CFOとしてバックオフィスや資金調達、新規事業統括を担当。
2019年9月にCFOを退任し株式会社SoVaを設立、税理士などの士業とテクノロジーをかけ合わせた新しい形の会計事務所「SoVa」を開発・展開する。
2023年、Forbes JAPAN 30 UNDER 30「世界を変える30歳未満」120人に選出。

◆菊池 諒介(きくち・りょうすけ)

プルデンシャル生命保険株式会社 東京第三支社
コンサルティング・ライフプランナー
公認会計士
1級ファイナンシャルプランニング技能士

2010年公認会計士試験合格。約3年間の会計事務所勤務を経て、「自身の関わる人・企業のお金の不安や問題を解消したい」という想いで2014年、プルデンシャル生命にライフプランナーとして入社。MDRT(下記参照)6年連続入会、2022年はCOT(Court of the Table)入会基準を達成。その他、社内コンテスト入賞や長期継続率特別表彰など、表彰多数。2016年より会計士の社会貢献活動を推進するNPO法人Accountability for Change理事に就任。公認会計士協会の活動として組織内会計士協議会広報専門委員も務める。趣味はフットサル、カクテル作り、カラオケなど。

MDRTとは
1927年に発足したMillion Dollar Round Table(MDRT)は、卓越した生命保険・金融プロフェッショナルの組織です。世界中の生命保険および金融サービスの専門家が所属するグローバルな独立した組織として、500社、70カ国で会員が活躍しています。MDRT会員は、卓越した専門知識、厳格な倫理的行動、優れた顧客サービスを提供しています。また、生命保険および金融サービス事業における最高水準として世界中で認知されています。

個人ページ:https://mylp.prudential.co.jp/lp/page/ryosuke.kikuchi

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