【経済ニュースを読み解く会計】 どこへ行く、パーシャル・スピンオフ税制―国内3事例目―


【編集部より】
話題になっている経済ニュースに関連する論点が、税理士試験・公認会計士試験などの国家試験で出題されることもあります。でも、受験勉強では会計の視点から経済ニュースを読み解く機会はなかなかありませんよね。
そこで、本企画では、新聞やテレビ等で取り上げられている最近の「経済ニュース」を、大学で教鞭を執る新進気鋭の学者に会計・財務の面から2回にわたり解説していただきます(執筆者はリレー形式・不定期連載)。会計が役立つことに改めて気づいたり、新しい発見があるかもしれません♪ ぜひ、肩の力を抜いて読んでください!

千葉商科大学准教授・東条美和

さて、テーマは何にしよう…

本コラムのお話をいただいた8月上旬のこと、何気なく新聞を見ていると「富士フイルム、複合機事業を分離・上場へ 売上高の35%」の見出しが目に飛び込んできました。富士フイルムホールディングスが、複合機を手掛ける完全子会社の富士フイルムビジネスイノベーションを上場する検討を始めたとのことです(日本経済新聞 令和8年8月2日 朝刊1頁)。

注目すべきはその手法。

ここでは「パーシャル・スピンオフ」が用いられます。国内ではソニーグループが2025年10月に初めて活用し、レゾナック・ホールディングスも石油化学事業で本年10月に実施予定。このまま富士フイルムホールディングスが計画を進めれば、国内3事例目となります。

まさに渡りに船!
今回は、パーシャル・スピンオフについて考えてみましょう。

パーシャル・スピンオフって?

耳慣れないのも無理はありません。2022年11月28日に発表された政府の「スタートアップ育成5か年計画」に盛り込まれたのが事の発端です。

パーシャル・スピンオフとは、企業が子会社や自社の一部門を分離・独立させるスピンオフの一種で、親会社が子会社の株式の一部(発行済株式の20%未満)を保有し続けたまま、残りを自社の株主に現物配当する仕組みです。大企業発のスタートアップ創出と事業再編を促進する目的で創設されました。親会社が子会社株式の一部を保有し続ける点が従来のスピンオフとの大きな違いです。
「パーシャル(部分的な)」という表現にもそれがよく表れていますね。

ところで、コングロマリット・ディスカウントという言葉を聞いたことはありますか。
これは、複数の異なる事業を展開する複合企業(コングロマリット)の企業価値や時価総額が、各事業の価値を個別に足し合わせた総額よりも低く評価される現象です。

事業を分離するスピンオフはコングロマリット・ディスカウントの解消に寄与しますが、パーシャル・スピンオフの場合はそれだけではありません。資本関係が残るためブランドやノウハウを継続できという独自のメリットもあります。

課税上も優遇されており、一定の要件を満たすと株式分配に係る譲渡損益やみなし配当課税が非課税になります。これが、パーシャル・スピンオフ税制といわれるものです。

それって、おかしくない?

パーシャル・スピンオフ税制は、組織再編税制の1類型として2023年度の税制改正で導入されました。当初は1年間の時限措置でしたが、翌2024年度改正で4年間延長され、本年度から恒久化されています。正式名称は「認定株式分配に係る課税の特例」(措法68の2の2①)です。

根拠条文が租税特別措置法に置かれていることからも察しがつきますが、これは本来の組織再編税制の理念に沿わない税制です。そもそも、組織再編税制では「組織再編成により資産を移転する前後で経済実態に実質的な変更が無いと考えられる場合には課税関係を継続させるのが適当であるとの考え方」に立っており、課税繰延の理論的根拠を移転資産に対する支配の継続と株主による投資の継続に求めています(「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」(税制調査会法人課税小委員会、2000年10月3日))。

詳しい説明は省きますが、パーシャル・スピンオフは移転資産に対する支配が再編成後も継続しているとはいえず、他の組織再編の手法とは一線を画しています。 いわば、特定の政策目的を実現するために臨時的・例外的に税負担を軽くする措置です。であれば、制度の「恒久化」に舵を切ること自体、租税特別措置の趣旨に反しています。

組織再編税制が導入(2001年度)されてからちょうど四半世紀。いろんなところに歪みが生じているのは間違いありません。

【執筆者紹介】
東条美和(とうじょう・みわ)
千葉商科大学商経学部准教授。千葉県出身。2017年立教大学経済学研究科博士課程後期課程単位取得退学、修士(経済学)。共著として『現代税務会計論(第9版)』(坂本雅士(編著)、中央経済社、2026年)がある。専門分野は税務会計、法人税法。日商簿記検定の指導も行う。会計、税務の知識を初学者にもわかりやすく楽しく伝えるべく日々奮闘中。


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