登川雄太
(CPA会計学院公認会計士講座講師、CPAラーニング簿記検定コース講師)
【編集部より】
2024年9月に公表された新リース会計基準。
新聞紙上などでも大きく取り上げられるなど、現在最も注目されている会計論点の1つです。
実務への影響はもちろんですが、会計士・税理士試験、簿記検定などでも今後出題範囲となることから、その考え方は押さえておきたいところですね。
本連載では、登川雄太先生にポイントを全4回で解説していただきます。
第1回 なぜ、新リース会計基準ができたのか?
第2回 基本的な会計処理を押さえよう!
第3回 現行リース会計基準と新リース会計基準ではどこが違う?
第4回 オフバランス処理ができるケースと貸手の会計処理
前回の記事にて、リース会計基準の改正のあらましについて説明しました。今回は設例を用いて、現リース基準と比較しながら、新リース基準の基本的な会計処理を解説します。
【設例】
1.当社(3月決算会社)は、借手としてリースを行った。
2.所有権移転条項、割安購入選択権はいずれもない。また、特別仕様でもない。
3.リース開始日はX1年4月1日
4.リース期間は5年間
5.リース料は年間1,000円(支払は毎年3月末日の後払い)
6.追加借入利子率は年7%(貸手の計算利子率は知り得ない)
7.減価償却方法は定額法
(1) リース開始日
① 使用権資産・リース負債の認識
現リース基準では、リース取引を行ったら、まずファイナンス・リース取引に該当するか否かを判定しています。新リース基準では使用権モデルを採用しており、すべてのリースをオンバランスするため、そのような判定はしません。よって、どのようなリースであっても、以下の仕訳を行います。
(借)使用権資産 ××× (貸)リース負債 ×××
この仕訳の形は、現リース基準のファイナンス・リース取引のものと同様です。ただし、勘定科目は「リース資産」・「リース債務」ではなく、「使用権資産」と「リース負債」を用います。
② 測定
金額の測定ですが、現リース基準では、リース料の割引現在価値と見積現金購入価額のうち低い方としています。新リース基準では、リース料の割引現在価値をリース負債の計上額とします。つまり、見積現金購入価額との比較はしません。
なぜなら、新リース基準では、「リース物件の購入」ではなく、「使用権の取得」と考えているためです。見積現金購入価額は、リース物件を直接購入した場合の金額を意味しますが、リース物件の購入ではない以上、直接購入した場合の金額との比較は不要なのです。
この設例では、リース料総額5,000円を7%で現在価値に割り引くと4,100円になるため、リース負債の計上額は4,100円になります。
(借)使用権資産 4,100 (貸)リース負債 4,100
現リース基準では、所有権が移転するか否か、貸手の購入価額が明らかか否かにより、測定金額が異なっていましたが、新リースではこのようなことはなくなります。
なお、現在価値に割り引く際の利率は、現リース基準と同じです。すなわち、貸手の計算利子率が判明するなら当該利率、判明しない場合は借手の追加借入利子率を用います。
(2) リース料支払日
リース料に含まれる利息相当額は、リース期間にわたり原則として利息法により配分します。これは、現リース基準のファイナンス・リース取引の会計処理と同じです。
(借)支払利息 287 (貸)現金預金 1,000
リース負債713
※ 支払利息:4,100×7%=287
(3) 使用権資産の償却
使用権資産は減価償却を行います。減価償却の方法は、現リース基準のファイナンス・リース取引の会計処理と同じです。すなわち、リース物件の所有権移転がするなら、耐用年数を経済的耐用年数するなど自己所有と同様に減価償却を行います。所有権が移転しないなら、耐用年数はリース期間、残存価額はゼロとして減価償却をします。本設例は、所有権が移転しないため、リース期間の5年を耐用年数として減価償却費を算定します。
(借)減価償却費820 (貸)減価償却累計額820
※ 4,100÷5年=820
まとめ
この設例のように基礎な計算問題の場合、現リース基準のファイナンス・リース取引とほぼ同様の会計処理となります。むしろ、ファイナンス・リースに該当するか否かの判定と見積現金購入価額との比較がなくなった分だけ、難易度は下がったといえます。
新リース基準の会計処理をしっかりおさえるためにも、現リース基準の会計処理はしっかりとおさえておきましょう。
今回は、新リース基準の会計処理は、現リース基準とほとんど変わらないという観点から説明をしました。次回の記事では、逆に現リース基準と変わる点について解説をします。
【執筆者紹介】
登川 雄太(のぼりかわ・ゆうた)
CPA会計学院公認会計士講座講師、CPAラーニング簿記検定コース講師。専門は財務会計論
1986年生まれ。慶應義塾大学3年次に公認会計士試験に合格。慶應義塾大学経済学部卒業後、監査法人トーマツを経て、現職。CPA会計学院では、簿記入門講義(簿記3級の内容)から公認会計士試験の財務会計論まで広く教えている。「楽しくわかる、わかるは楽しい。」をコンセプトにした簿記・会計をわかりやすく解説するウェブマガジン『会計ノーツ』を運営。
<主な著書>
『世界一やさしい 会計の教科書 1年生』ソーテック社、2021年
『この1冊ですべてわかる 財務会計の基本』日本実業出版社、2024年
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