篠木良枝(公認会計士)
【編集部より】
公認会計士のキャリアは幅広く、資格の魅力として受験生にも知られるようになりました。また、若手会計士の方にとっても、セカンドキャリアをどうするかを模索する人は多いと聞きます。
そこで、現在4社の社外役員として活躍する篠木良枝先生(公認会計士)に、そもそも社外役員とはどのような役割・仕事をするのかなどを教えていただきました。きっと選択肢が広がるきっかけになるはずです!
社外役員は何をする人?
皆さんは、「社外役員」は普段どのような仕事をしていると思いますか。
「社外役員」は、会社から独立した立場で取締役の業務執行の監視監督を行い、会社の長期的な企業価値向上に貢献することが求められる業務執行を行わない役員です。
社外役員には、「社外取締役」や「社外監査役」などがあり、役割に違いはありますが、「客観的な立場でコーポレートガバナンスの向上に寄与する」という点では共通しています。
「社外取締役」は、主に取締役会に出席し、自身の知見を活かして意見を述べ、議決権を行使することで、「社外監査役」は取締役会に加えて監査役会に出席し、会計監査人と連携の上、業務監査を行い、監査報告を作成することでその職責を果たします。
会社によっては、取締役会だけでなく指名報酬委員会やリスク管理委員会、サステナビリティ委員会など諮問機関を置くところもあるので、各委員会への出席が必要なこともあります。
社外役員に「必要な能力」は?
社外役員に求められる能力は、コーポレートガバナンス・コードの内容が参考になります。
・金融商品取引所が定める独立性基準を満たしていること
・取締役会における率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できる人物
・他社での経営経験を有する者
・適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有する者 など、「独立性をもって専門的知識や経験を活かすことが求められている」と理解できます。
また、取締役会の構成メンバー間の多様性も必要であるため、上記のような能力を満たす人がジェンダーや国際性、職歴、年齢の点でバランスよく含まれていることが重要だと言えます。
また、「CG報告書では、社外役員を選任している理由の記載を個別に求めているが、さらに当該社外役員を独立役員として指定している場合には、その理由についての記載も求めている。まず、全社外役員(延べ17,352人)における記述をみると、頻繁に登場するキーワードとして、本人の経験(83.7%)、見識(40.4%)、専門性(34.8%)、といった本人の能力・資質や経験に触れる説明が多い。さらに利益相反の回避(64.7%)、利害関係がない(24.1%)、客観性(22.3%)、 といった中立性の確保に向けた説明も多かった。」(「東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書2023」P44)との記載も参考になります。
社外役員には、「経験」や「専門性」に加えて、「見識・人格」といった内面的な面も求められていることがわかります。
「常勤」と「非常勤」の違いは?
社外役員には「非常勤」の役員だけでなく、「常勤」の役員もいます。
監査役会設置会社では常勤監査役を選任する必要があるため(会社法第390条第3項)、社内常勤監査役も多いですが、社外の常勤監査役を置いている会社もあります。
非常勤の社外役員は、取締役会の前にアジェンダの説明を受けたり取締役からのヒアリングの場を設けたりという工夫をしても会社の情報が少なくなるのは、非常勤のためそうならざるを得ない反面、会社の常識にとらわれず客観的な視点を持てるという利点もあります。
一方で、常勤性をもって監査にあたっている常勤監査役からは業務執行側とは異なる視点での情報や意見を教えてもらえるので、情報量の多さや事業の理解度の高さに頼るところは大きいです。
社外役員になるには?
どんな仕事でもそうだと思いますが、社外役員でもやはり経験者のニーズが高いです。社外役員の経験がある人が求められるのは、「コーポレート・ガバナンス白書」にもある通りです。しかし、誰でも最初は経験がないので、「最初の社外役員への就任をどうするか」がポイントかと思います。
常勤役員よりは非常勤役員、上場準備会社よりは上場会社を一般的には希望する人が多いので、上場準備会社の常勤役員より上場会社の非常勤役員に候補者がたくさん集まることが多いです。
自分が選ばれるためには、
①候補者が少ないところを選ぶ
②他の候補者にはないあるいは卓越したスキルや経験を身につけることかと思います。
①については、スタートアップ支援強化の流れもありスタートアップ企業が増えていることから、今のところ上場準備会社の常勤監査役は候補者数に比べて案件が多いようです。
公認会計士の場合、監査法人の勤務経験はある人のほうが多いので、それだけでは差別化しづらいのが実際ですし、常勤役員として働いてみると会社の情報をタイムリーに知ることができ、事業や内部統制システムなどの理解が深まり、社外役員としての知見が蓄積できるので、おすすめです。
②については、他の候補者にはないスキルや経験は、上場準備会社の支援業務、事業会社でのCFO経験、M&A支援業務、内部監査業務など千差万別ですが、持っている人は強いなと感じます。
社外役員としての経験は、社外役員にならないと得られない経験、かつ守秘義務があるのでほとんど外部に語られることのない貴重な経験ですので、機会をいただいたらぜひ挑戦してみることをおすすめします。
社外役員のオファーがあったら?
先ほどの内容と矛盾しているように見えるかもしれませんが、「良い会社かどうか」をしっかり検討することをおすすめします。
まっとうなビジネスと利益を両立して追求する経営者が大半ではありますが、中にはガバナンス意識が低い、内部統制を軽視する経営者もいます。「経営者の誠実性」、「何を社外役員に求めているのか」を確認することが必要だと思います。
現時点で内部統制が整っていなくても、課題を経営陣が認識していて、「整備・改善していく」という意識・行動があれば良いのですが、就任する前にはわからなかったガバナンス軽視の姿勢が露呈し、それが問題であるという認識もないことがわかった場合どうするか、社外役員は責任が重いですし、問題点を指摘したら圧力をかけてくるような会社にいるのは難しいかもしれません。
社長や担当役員などによる面談で、「どういう理由で、何を期待して、自分に就任を打診したのか」をぜひ確認したほうが良いでしょう。また、取締役会や監査役会など、出席が必要な会議体の開催スケジュールについても聞いてみましょう。重要な会議に出席できないのであれば、就任しないほうが良いと思います。
社外役員への就任が決まったら、会社の理解に努め、会社がより良くなるために貢献することが重要だと思います。
どういう1日になるの?
9時~10時 | 監査役会 |
10時~11時30分 | 取締役会 |
11時30分~13時 | 休憩 |
13時~15時 | 取締役会資料や議事録の確認 |
15時~17時 | 研修受講 |
17時~18時 | 移動 |
18時~20時 | 公認会計士たる役員支援委員会 |
社外役員としての1日は、日によってまちまちですが、上記のようなスケジュールの日もあります。
会社によって取締役会や監査役会はオンラインだったり、対面で行われたりします。会議の合間にメールに返信したり、資料内容を確認したり、研修を受けたりしています。
社外役員としての仕事以外に、私は日本公認会計士協会の専門委員会の専門委員と日本公認会計士協会東京会の委員会の委員を務めているので、それぞれ月1回程度、夜に2時間会議があります。
また、週2回程度、サステナビリティ関連の仕事をしているので、その日は終日出社し、資料などを確認するのは夜に行っています。
【執筆者紹介】
篠木 良枝(しのき よしえ)
1999年吹田市役所入所
2003年新日本監査法人(現EY新日本有限責任監査法人)入所
2007年公認会計士登録
現在上場会社2社、上場準備会社2社の社外役員に就任
日本公認会計士協会の専門委員会の専門委員、日本公認会計士協会東京会の委員会の委員
株式会社宝印刷D&IR研究所顧問