森脇敏雄(北九州市立大学経済学部准教授)
【編集部より】
話題になっている経済ニュースに関連する論点が、税理士試験・公認会計士試験などの国家試験で出題されることもあります。でも、受験勉強では会計の視点から経済ニュースを読み解く機会はなかなかありませんよね。
そこで、本企画では、新聞やテレビ等で取り上げられている最近の「経済ニュース」を、大学で教鞭を執る新進気鋭の学者に会計・財務の面から2回にわたり解説していただきます(執筆者はリレー形式・不定期連載)。会計が役立つことに改めて気づいたり、新しい発見があるかもしれません♪ ぜひ、肩の力を抜いて読んでください!
前編では、企業自身が将来の業績を予想した情報である、業績予想を紹介しました。
その中で強調したのは、業績予想はあくまでも「企業自身による予想」であるので、楽観的な予想、悲観的な予想といった、ある種の「クセ」が存在するということです。
後編では、業績予想に存在する「クセ」について、実例を活用しながら説明したいと思います。
特徴をどのように捉えるのか?
ここでは、任天堂(株)(以下、任天堂)をケースとし、業績予想の特徴をどのように捉えるのかを説明します。
図表1は、2020年3月期の決算短信で公表した、2021年3月期の業績予想のイメージを示したものです。
2020年3月期決算短信において、①2021年3月期の売上高の予想値を公表しています。
その値は1兆2,000億円でした。
ここでの関心は、①2021年3月期の売上高の予想値の「クセ」についてです。
②2021年3月期の売上高の実績値が確定した段階で、その「クセ」を把握することができます。
2021年3月期決算短信において、②2021年3月期の売上高の実績値を公表しています。
その値は約1兆7,589億円でした。
よって、①1兆2,000億円<②約1兆7,589億円ですので、2020年3月期の決算短信で公表した2021年3月期の売上高の予想値は、実績値に比べて低めに予想していた、すなわち悲観的であったことがわかります。
「クセ」をどのように理解すべきなのか?
次に、このような業績予想の「クセ」をどのように理解すべきなのかという点についてです。
ここで、コロナ禍における業績予想の特徴について言及したロイター通信の記事を紹介したいと思います。
“コロナ禍に不透明感が増したことから、企業も予想について保守的な数値を出してくるとみられる。”
この指摘を要約すると、「将来の経済情勢が不確実な状況では、業績予想を低めに出すというような「クセ」が存在する」というものです。
2021年3月期の売上高の予想値は、2020年5月7日、コロナ禍の初期に公表されています。
「将来の経済情勢が不確実な状況」に公表されていますので、上記の指摘が当てはまりそうです。
2021年3月期の売上高の予想値について、その特徴(予想値-実績値)を直近の5年分と比較してみましょう。
図表2は、その結果をグラフ化したものです。
正の値であれば楽観的、負の値であれば悲観的であったことを表します。
2021年3月期の業績予想は、直近の期間の業績予想と比べて、悲観的であった程度が大きいことを確認できます。
このことから、「将来の経済情勢が不確実な状況では、業績予想を低めに出す」というのは、ある程度は、納得感のある説明なのかもしれません。
ただし、「将来の経済情勢が不確実であること」というのは、2021年3月期の業績予想の「クセ」を説明する1つの要因にすぎません。
別の要因で説明される可能性は十分にありますので、その点には注意をしてください。
まとめ
将来の売上を予想するという状況を想定すると、企業自身が公表する業績予想を使わない手はないと思います。
ただし、なにぶん「クセ」がありますので、その解釈には注意が必要です。
図表2で示した分析について、さらに過去に遡ってみたり、業績予想に明確な「クセ」があった年の特徴を調べてみたりすれば、何かヒントが得られるかもしれません。
是非、ご自身で検討してみてください。
(おわり)
<執筆者紹介>
森脇 敏雄(もりわき・としお)
北九州市立大学経済学部経営情報学科准教授
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。
専門分野は財務会計。研究分野は資本市場に基づく会計学研究。特に、高頻度データを用いた利益・株式リターン関係の研究。
<前編はコチラ>