加藤久也(税理士/名城大学大学院非常勤講師)
【編集部より】
2023年8月8日(火)〜10日(木)の3日間にわたり、令和5年度(第73回)税理士試験が実施されました。会計科目の受験資格が撤廃されてはじめての試験であり、本年度の受験申込者数は前年に比べ、簿記論が約23%増、財務諸表論が約28%増、全科目合計でも約14%増となりました。なお、本年度の合格発表は2023年11月30日(木)に予定されています。
そこで、本企画では、「簿記論」・「財務諸表論」・「法人税法」・「相続税法」・「消費税法」について、各科目に精通した実務家・講師の方々に本試験の分析と今後の学習アドバイスをご執筆いただきました(掲載順不同)。ぜひ参考にしてください!
本試験の講評にあたって
受験生のみなさん、お疲れ様でした。
難易度は高くないものの、計算問題のボリュームが多かったため、要領よく解答し、基本論点について正解できたがどうかが合格の決め手になったと思います。
では、問題を振り返ってみましょう。
【第一問】の講評
第一問は、問1と問2の2問が出題され、どちらも事例問題が出題されました。問1はひとつの事例について用語の意義などの規定に触れながら解答させる個別問題が3題、問2は事例について判断させる個別問題が3題の構成で出題されました。基本的な知識を問う出題で、要求する論点についても明確となっており、解答しやすい良問でした。
では、各問題についてみていきましょう。
問1
不動産業を営む内国法人A社が、個人Bから居住用家屋を購入し、個人Cに貸付けた場合の取扱いについて解答させる事例問題でした。
(1)「課税仕入れ」の意義を述べたうえで、A社において課税仕入れに該当するか否かを判断させる問題でした。
「課税仕入れ」の意義(消費税法2条1項12号)を述べたうえで、課税仕入れ該当性について、「他の者」に個人Bのような消費者も含まれる(消費税法基本通達11-1-3)ことを指摘することが解答のポイントでした。
(2)「居住用賃貸建物」の課税仕入れに該当することから、仕入れに係る消費税額の控除の規定(消費税法30条1項)が適用されないことを説明する問題でした。
「居住用賃貸建物」に該当するためには、高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産に該当する必要があります。本問における居住用家屋は、「高額特定資産」に該当することから、「居住用賃貸建物」の意義(消費税法30条10項)を解答する中で、「高額特定資産」の意義(消費税法12条の4第1項)についても述べておき、居住用賃貸建物該当性の判断を示す解答の中で、税抜対価の額が1,000万円以上となり「高額特定資産」該当することから「居住用賃貸建物」に該当し、仕入れに係る消費税額の控除の規定が適用されないことを説明することが解答のポイントでした。
(3)非課税とされる貸付けに該当することを説明する問題でした。
消費税が課されないこととなる規定(消費税法6条1項)および住宅の貸付け(消費税法別表第一13)について説明します。問題文中に、「旅館業法に規定する施設の貸付け」に該当しない旨の言及があることおよび消費税法施行令に定める事項に触れることとあることから、これらに関する内容を省略せずに説明することが、解答のポイントでした。
問2
3つの事例についてそれぞれ解答する出題でした。
(1)法人が消費税課税期間特例選択届出書を提出した場合の課税期間(消費税法19条1項4号)について具体的に解答する問題でした。提出日の属する期間が事業を開始した日の属する期間に該当するため、届出書の効力が令和4年11月1日に生ずる(同条2項)ことを指摘するとともに、令和4年11月1日から令和5年1月31日までの期間及び令和5年2月1日から令和5年3月31日の期間が課税期間となることを解答することが解答のポイントでした。
(2)食品卸売業を営む内国法人が行う飲食店業を営む法人への食材の販売について軽減税率の適用があるかどうかを判断させる問題でした。「食事の提供」の意義について触れるように指示がありましたが、この規定は、改正法附則(所得税法等の一部を改正する法律(平成 28 年法律第 15 号)34条1項1号イ)にあるため正確に解答することは困難だったと思います。この販売が「食事の提供」にあたらず、軽減税率の適用があることを指摘できれば十分でしょう。
(3)内国法人が行った内国法人への売掛債権及び貸付債権の譲渡について消費税の課税関係を問う問題でした。いずれも有価証券その他これに類するものの譲渡として非課税とされます(消費税法6条1項、別表第一2、消費税法施行令9条1項4号)が、課税売上割合の計算においては、売掛金の譲渡については計算に含めず(消費税法施行令48条2項2号)、貸付金の譲渡については譲渡対価の5%を分母の金額に含める(消費税法施行令9条5項)取扱いとなることを説明することが解答のポイントでした。
【第二問】の講評
第二問は、問1と問2の2問が出題され、問1は調剤薬局、通所介護施設等を経営する法人の納付税額を計算する問題、問2は、不動産業を営む法人の納付税額を計算する問題でした。どちらの問題も、納税義務の有無の判定が不要の原則課税の問題だったのが特徴的でした。
では、各問についてみていきましょう。
問1
非課税とされる取引の多い法人の問題であり、一部の取引について難しい内容が含まれていましたが、それら以外については基本的な内容であり比較的容易に解答できる問題でした。
(1)サービス付き高齢者住宅(以下「サ高住」という。)の運営
基本的に介護保険が適用される資産の譲渡等には該当しません。このため、サ高住に係る受取家賃・共益費は住宅の貸付けとして非課税とされるものの、他の資産の譲渡等については課税資産の譲渡等とされます。その一方で、サ高住における食事の提供については、一定の金額に限り、軽減税率が適用されます(国税庁HP「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)」問80を参照)。
(2)免税事業者が課税事業者となった場合の棚卸資産の調整
気づいていれば、難しい論点はなく、確実に得点できます。
(3)控除不足還付税額の計算
売上、仕入の分類をすべて正解することは難しいため、最終値を合わせることは困難だったと思います。
問2
本問も一部の取引について難しい内容が含まれていましたが、それら以外については基本的な内容でした。仕入れに係る消費税額の調整と更正の請求により更正処分があった場合の中間納付税額の計算について解答できていることが重要だと思います。
合格の決め手
次に合格の決め手について考えてみましょう。各設問の配点を次のように予想しました。
【第一問】 50点
問1(1)~(3)各10点とし、計30点
問2(1)~(2)各7点、(3)6点とし、計20点
【第二問】 50点
問1 25点
(内訳)
・課税標準額に対する消費税額の計算まで 5点
・仕入税額に係る消費税額の計算まで 16点
・納付税額の計算まで 4点
問2 25点
(内訳)
・課税標準額に対する消費税額の計算まで 3点
・仕入税額に係る消費税額の計算まで 11点
・仕入税額に係る消費税額の調整 6点
・納付税額の計算まで 5点
上記の配点予想を前提に、合格の決め手について検討します。
【第一問】
問1は、基本的な内容であり重要項目でもあったため、配点30点中27点を合格点と予想します。
問2は、「食事の提供」の意義以外は、正解できるものとし配点20点中18点を合格点と予想します。
第一問の合格点は、合計配点50点中45点と予想します。
【第二問】
問1は、サ高住に関する箇所について正解できないことを考慮しても、8割は正解できると想定し配点25点中20点を合格点と予想します。
問2は、基本的な問題ではあるものの、8割の正解率と仮定して配点25点中20点を合格点と予想します。
第二問の合格点は合計配点50点中40点と予想します。
したがいまして、第一問、第二問合計で85点を合格予想得点とします。
自己採点を次の行動に活かそう!
本年度の試験問題は、昨年度までと傾向が変わったのではないかと見ています。第一問では、規定をズバリ問う出題がありませんでした。また、第二問では、2問体制に変化はないものの、昨年度までのような大問、小問の組み合わせではなく、ボリュームも難易度も同程度の問題が2問出題されています。
第一問を手早く40分で切り上げた後、第二問の問1と問2にそれぞれ40分の時間があれば最大得点を望めたのではないでしょうか。問題文に配点が示されており、答案用紙の枚数から冷静に時間配分ができたかどうかが合格の決め手となったのではないかと考えます。
ここまで、本試験の問題について講評し、合格の決め手について考えてきました。しかし、税理士試験の正解及び詳細な配点は公表されないため、あくまでも私個人の検討に過ぎないことをお含みの上お読みください。
大手専門学校からは模範解答と詳細な予想配点が公表されているものの、受験生のみなさん自身が答案用紙に書いた答案を正確に復元することは難しく、自信のない箇所を不正解として保守的に自己採点すると、実際の得点よりも低い点数となります。
その結果、合格予想得点やボーダーラインに届かずがっかりされることも多いのではないでしょうか。私の受験生時代もそうでした。受験後の自己採点の結果、自信をもって合格したと思えたことは一度もありませんでした。
では、模範解答を確認すること、自己採点することは無意味なのでしょうか。合格予想得点は取れていなくても「どの程度の点数が取れたか」と、講評や模範解答で「基本的な項目」、「簡単な内容」とされた箇所について「正解できたかどうか」で、次の行動すなわち次の科目へ進むのか、同じ科目の勉強を再度行うのかが変わります。税理士試験の合格するためには、現実をしっかり受け止め、次の行動に活かすことが大切です。
最後になりましたが、受験されたみなさんに吉報が届くことを願っています。本当にお疲れ様でした。
<執筆者紹介>
加藤 久也(かとう・ひさや)
税理士/名城大学大学院非常勤講師(消費税法担当)
1991年、富山大学理学部卒業。1991年~1995年、株式会社日立製作所に勤務。1998年、税理士試験合格。2000年、税理士登録。2002年、愛知県春日井市に加藤久也税理士事務所開業。税理士業のほか、1998年~2019年に名古屋大原学園、2016年より名城大学、2019年より愛知淑徳大学にて非常勤講師を務める。2017年より東海税理士会税務研究所研究員、2021年より同研究所副所長に就任。2019年より日本税法学会所属。著書に『ワークフロー式消費税[軽減税率]申告書作成の実務』(共著、日本法令)がある。